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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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博物館の休憩室

 植物園から出て太陽の位置を確認したところ、結構時間が経っていたように感じていたが、そこまで時間は経っていないようだった。

 しかしまあなんというか、疲れた。

 このあとはどうするべきか。

 これからリコリスに会いに行って、歴史の勉強をするのもアリかもしれない。


 だが、まぁうん……。

 とにかく疲れた。

 念のため、ちらっと胸ポケットを見れば『マンディアトリコス』があった。

 夢や幻ではないようだ。

 帰る前に鉢と土を買わないと。

 いや、どうせなら地の魔力を込めた土を鉢に突っ込んで、この『マンディアトリコス』も突っ込むか。

 

 どうせなら嫌がらせレベルで、精製された純度百パーセントの魔力を食わせてやろう。

 草系だし、食わせるのは地と水属性か。

 などと、ムフフと妄想していたところで誰かに前から体当たりされ、背中から地面に打ち付ける。

 空気が口から漏れる。


 激痛ではないので下手人に対して毒づく。

「いたたた。誰だよ、もう」

 起き上がり、下手人を見れば俺と同い年ぐらいの女の子が同じように倒れていた。

 特徴を見れば、黒に青が混じったいわゆる藍色の外套にちょっと細い身体。

 髪の色と顔を見れば、懐かしい"日本人"らしい顔と髪の色。

 つまり黒一色の女の子だ。

 

 そんな娘が体当たりに目を回したのか、そのままぶっ倒れている。

 触れてみても何の反応を示さないので、取り敢えずおんぶする。

 大抵、こういう建物には保養室なるものがある。

 そこまで運ぼうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、うろちょろしたところで気付く。

 この博物館の地図が読めないことに。

 更に言えば"保養室"の単語が分からない。

 職員に聞けばいいのだろうが、職員が一人も見つけられない。

 それどころか、ほかの人間も見当たらない。


 どこに行けばいいのか。

 最悪、入り口周辺にでも行けば審査官がいる。

 審査官に訳を話して一緒に移動したほうがいいだろう。

 ということで、入り口に向かうも入り口が閉まっていた。

 ううむ、まさか閉館している……?

探知(ソナー)」で周辺の魔力を探るも、少なくとも五十メートル四方には人っ子一人いない。

 どうしようかなどと思案していたところで、仄かにいい匂いがしてきた。

 スンスンと鼻で匂いを嗅げば、鼻腔で感じる少量のスパイスの匂い。

 ……スープの匂いのように感じる。

 

 食べ物の匂いがするというのであれば、少なくとも人はいるだろう。

 そこへ向かう。


 向かった先は、なるほど確かにスープの匂いをさせる食堂だった。

 確かに大きい博物館であれば休憩室はあるだろう。

 "生前"の実家近くの博物館でも、休憩室はあった。

 ……休憩室で休ませよう。

 そして、俺も何か食いたい。

 

 木の椅子を横に三つ並べて簡易寝台にし、背中の女の子を寝かせる。

 そして俺は、彼女が目覚めたとき用の飲水と、自分の食い物を食堂のおばちゃんに注文をする。

「おばさん、スープ二つとあと何か串肉くださいな」

 彼女が飲水だけではなく、スープを所望したとき用に念のため頼んでおく。

 要らないって言われたら、俺が飲めばいい。


 あの丁稚先のお店のまかないを食うようになってから、二人前を軽く食うようになってしまった。

 うむ、食い過ぎで成人した頃には、不健康なデブをやっていたらどうしよう。

 いや、まあエルリネとの戦闘訓練で冷や汗と脂汗も一緒に流して、脂肪もセットで燃焼させているから平気!

 きっと平気!

 多分平気!

 ……ちょっと覚悟しておこう、うん。


 涙がちょっぴり出た。


 そんな俺の様子とは裏腹に食堂のおばちゃん(なお、猫系獣人族)は俺を見て、驚愕に彩られた顔になる。

 心なしか青い顔だ。

 人の顔を見て驚愕するとは、酷いやつがいたもんだ。


「なんでいんの! アンタ!」

 とカウンター乗り出して、俺に叫ぶ。

「なんでって……なんで?」

 休館日だからかね。

 あ、でも休館日だったおばちゃんもいない筈だ。

「知らないのかい、アンタ!」

「知らない……ってなにが?」

「今、今まで……どこに……いたんだい」

 おばちゃんの声音が、努めて冷静さを装っているようだ。

 ただならぬ気配を感じる。


 その気配だけで、異常を感じ取る。

 "何か"が起きている。

 高火力チートでどうにか出来ればいい類であればいいのだが……。

「……植物園」

「なんて……こと……。逃げ遅れた子がいるなんて」

 逃げ遅れた……?

 異常は起きた。

 だが、その異常が分からない。

「逃げ遅れたって、今おばさんが言ったけど。

おばさん自身はどうしたの」

「アタシは職員。

緊急時でも職員は博物館にいることを義務付けられているの」

 なるほど。

 納得だ。


「とにかく、アンタはここにいなさい!

今にでも職員と一級兵士様たちが鎮圧してくれるから!」

 鎮圧……。

 図書館でもあったような馬鹿が暴れているとかいうやつか。

 但し、危険度はダンチだろう。

 ここには『鬼神』とやらが使っていた剣槍を始め、呪われた武具と言われるアーティファクトが複数眠っている。

『鬼神』の名を冠する装備を着用した馬鹿を止めるには、単純に装備を剥がせばいいのか。

 それとも殺害が必須か。

 俺ならまとめて殺せるんだけどな。


 ただ"宮廷魔術師"の名前を持っているとはいえ、自分から首を突っ込む必要はない。

 なんだかんだ言って審査官と兵士さん達が知っていた、俺の身分をおばちゃんは知らないようだ。

 なので、今回はおばちゃんに甘えてその身分に甘える。

 おばちゃんはなんだかんだ言って、俺にスープと肉串を六本くれて、俺はお金を渡す。


 そして、気絶している女の子が寝ている席の机に飲水とスープ二つを載せる。

 肉串のほうは三本ずつスープ皿の(へり)に載せてから、両手の平を合わせて「いただきます」と声を上げて、俺はスープを飲んだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 自分のスープを飲み干し、肉串も食った。

 おばちゃんを見れば、黙祷しているようだ。

 ……結構暇だ。

 庭から爆音とかそういう音も聞こえず、「探知(ソナー)」にも引っかからない。

 目の前には気絶している女の子。

 "生前"であればこういう時間は、スマホを使ってweb小説を読んでいたり、スマホにネタを書き込んで黒歴史ノートを更新させていた。


 うーん、暇だ。

 食堂で開けた窓に小鳥がチチチチと啼く。

 食堂内に風が入り、風でめくれたスカートのようにぶわっとカーテンがめくり上がる。

 ううむ、「スカートのように」と例える俺の語彙能力の低さに泣きたい。

 もっと、ほかにいい例え方があるだろうに。

 

 ふと気絶した女の子を見やれば、靴を履いていなかった。

 この異常事態から逃げようと試みたのだろうか。

 で、俺にぶつかって地獄に逆戻り。

 申し訳ない。

 彼女の足をまじまじと見れば、ところどころから血が出ていた。

 エルリネほどではないが、褐色肌だ。

 健康的な小麦色といえばいいのだろうか。


 もっと見たいと思い、席から立ち彼女の足に触れようとしたとき、彼女が起きた。

表現修正。(12/12 12:45)

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