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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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リコリス

 博物館の中に入った俺を出迎えたのは、一振りの大きさにして約八十センチメートルほどの大きさの刀剣だ。

 いわゆる建国神話で出てくる神器というものらしい。

 流石に贋作らしいが、贋作であっても本物と同じぐらいに危険物らしい。


 というのも、リコリスが鼻息を荒くして力説するのだ。

 贋作の贋作にすればいいのでは、と思ったが曰く、あれは贋作の贋作の贋作の以下略であそこにあるのだという。

 更に言えば、ツペェアの湖を作ったのは、天から贋作元が落ちてきたとか何とか。

 贋作元は隕石か何かだろうか。


 リコリスが説明に熱を持ち、鼻息を荒くしていることにドン引きしながら、神器の贋作品の説明を読む。


 書いてあることはさっぱりだが、読めるようだ。

 ……あとは、語彙能力か。

 贋作の説明を軽く読み進め、脇にある建国神話も読む。


「ザクリケルが有象無象の村々の時代。

国として成していないときに隣の領地の国から大きな戦争を引き起こされた。

一致団結しなければならなくなった。

一つの村が死に、二つの村が死に。

そして最後には現在のザクリケルニアとなる村と、ツペェアとなる村が残った。

お互いが離れていながらも、共に共闘した仲だ。

だからこそ、助けに行きたい。

しかし、両方とも同時に襲われた。

そしてツペェアが今正に墜ちる瞬間に、その剣が墜ちてきた。

その剣は敵軍に大打撃を与え、その剣を持って敵軍を滅ぼし、ザクリケルニアとなる村も助けた。

その後、ツペェアというこの都市が生まれ、ツペェアの最大の友人のザクリケルニアの名を冠したザクリケルという国が出来た」

 

 というのが、建国神話の内容であった。

 そこで思うことは、「友人の名前だから国の名前にするのか」という部分。

 ツペェアのほうが後々的にもいいものだと思うのだが、うん、まあどうでもいいかこの感想。

 建国神話の意味は通じるが、贋作の説明は意味が分からない。

 "日本語"であえて説明するのであれば、接続詞と同音異義語が交じりあっているという感じか。

 ……この辺りは追々だな。


 説明熱を以ってしてハァハァと鼻息を荒くしている、リコリスの背中(というより腰)を叩いて移動を促した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リコリスを脇に置いて、ツペェアの幼少学校で学べる歴史をの勉強をリコリスの口から聞いているがリコリスが怖い。

 まず目つきが怖いというか、"生前"の世界で鼻息を荒くして目の中が『ぐるぐる』と渦巻きを描いたような絵で表現されていたのを、リアルで見るとこうなるのかっていうぐらい。

 もちろん鼻息も荒いし、口から一筋の涎が出ている。

 彼女(リコリス)を『OL風のほんわかお姉さん』だといったが、訂正しよう。

 好きな分野だとキメてトリップする危険な娘だと。


 そんな彼女の様子も、ここでは割りと日常らしくほかの学芸員が、リコリス(と俺)を見ては「今日も元気ねぇ」とか「リコリスさんが輝いている……」とか「リコリスさんいつもお美しい」、「リコリスさんの説明を受けるあのガキ羨ま……けしからん! 誰のだ!」と、羨望と嫉妬混じった声が聞こえる。

 フハハハ、羨ましいだろう。


 ……誰か彼女を貰ってもらえませんか。

 説明文を読めるようにと勉強しに来たのに、蓋を開けたらこの国の歴史のお勉強です。

 この国の人になるかも分からないのに、勉強してもしょうがない。

 刀剣類の説明文を読もうとすれば、脇のリコリスが「お目が高い! これはですねぇ~うんぬんかんぬん」

 お前はどっかの店員か。


 鼻息荒くトリップしているリコリスを置いて、王族だか貴族が着込んでいた服を見れば、残像が見えるぐらいの速度で俺の脇といいう定位置に付いて、これまたトリップ説明。


 学芸員兼"宮廷魔術師"を歴史の先生として(はべ)らせた貴族のお子供にしか見えない。

 それも他の学芸員たちからすれば『美しい』と評される彼女をだ。

 

 本当に誰か貰ってください。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 脇にリコリスというトリップしている歴史の先生を侍らせて流し聞きしている内に、気付いたことが一つ。

 思ってたよりザクリケルは建国から永い国のようだ。

 単一国家分、つまりは他の国からの歴史に関わるアーティファクトを借りれないのであれば、この敷地は要らないのではないかと思った。

 しかし、それは杞憂のようだ。

 理由としては、建国から永い国というのが響いている。

 

 歴史に名を残したという、将軍サマやら貴族サマが身につけていた衣服や装備品が陳列されている。

 中には恋人に宛てた手紙まで展示されている。

 過去の人とはいえ、赤裸々な恋文を公開されるというのは中々キくのではないだろうか。

 俺だったら顔から火が出て、天国から手紙を燃やしに戻ってきそうだ。


 なお、リコリス曰くこの手紙の内容はとても幸せそうだが、結末が非常に不幸のようだ。

 なんでも。

「幼少時に村で兄妹(きょうだい)同然に育った。

兄は一旗上げてやると意気込み、妹同然の彼女を村に置いた。

苦手であった魔法と剣技をひたすら鍛えて、ツペェアの騎士になった。

その成り上がりまで、妹同然の彼女の手紙を糧に生きた。

彼女が成人した日に迎えに行くと、手紙を出し。

彼女が成人する日を逆算して、迎えに村に出発した。

…………。


迎えに行った彼が見たものは。

盗賊共の姿だった」


 うわ、キッツう。

 その後の彼女のことは分からないということも、想像力が掻き立てられる。

 更にその想像を後押しするかのように、彼は一人でツペェアに帰ってきた。

 その時の彼の様子は、頬に乾燥した涙の痕があったという。

 その日から彼は、ツペェアの『鬼神』と呼ばれる存在になり、後年"宮廷魔術師"と呼ばれる兵器に名を連ねることになったという。

 なお『鬼神』は生涯、国から命令をされても頑なに独身を貫いたという。


 この辺りの内容は図書館の絵本にもあるという。

 但し、絵本版の場合は盗賊の代わりに魔獣になっており、魔獣どもを殺しながら、間一髪で彼女を連れ出して結婚し、一生涯幸せに暮らしましたとさ、おわり。

 という内容らしい。

 しかし、蓋を開ければこういう内容。

 トラップもいいところである。

 現実は間一髪も糞も間に合ってない。


 そんな『鬼神』が使っていた刀剣があった。

 思わず顔を(しか)めるほどの、強烈な魔力。

 贋作を作ろうとしても、その刀剣の呪いかなにかで真ん中から折られるのだという。

 その刀剣を一言で表すのであれば、剣槍だ。

 槍というよりも剣とも言える。

 剣の持ち柄が長くなって槍状になったものといえばいいか。


 持ち主が亡くなってから幾星霜もしているのに、未だ刀剣に(うごめ)き明滅する魔力の線。

 リコリス曰く、力ある者が見ればたちまち魅了させてしまい、この博物館内で殺傷事件が起きたことが数百単位であるという。


 だったら展示しなければいいものを。とは思うが、『鬼神』が生きていた時代には既にこの博物館が存在しており、「私が死んだら身の回りのモノは全て博物館に寄贈する」と宣言されていた。


 寄贈されてから、明らかに呪われているような魔力を放つこの剣槍と鎧は封印処理を施されて倉庫の奥に鎮座していたようだが、倉庫の奥で封印が何故か強引に破壊され、剣槍と鎧が合わさり、自動人形(ゴーレム)化した。

 当時の"宮廷魔術師"数人が漸く荒れ狂う自動人形を鎮め、自動人形と会話が出来る"宮廷魔術師"から話を聞いてみれば、要件は「展示させろ」ということだった。

 そして、剣槍鎧の自動人形との約束通り展示されるようになったという。

 もちろん、剣槍と鎧は別々にさせて貰うよと言って、了承は得ているとのことだった。


 この説明をしながらリコリスがそっぽを向いている。

 心なしか青い顔だ。

 魅了されそうになるからだろう。

 普通の一般人が見る分にはなんの影響も与えないようだが、魔法が一定以上のレベルが使える者やある程度成功している冒険者がうっかり見れば、剣槍に魅了されるという。

 そんな危険な剣槍を壊せばいいんじゃね? とも思うがそれも不可能だという。

 なにせ、剣槍と鎧の自動人形を"宮廷魔術師"が複数人掛かりで鎮めたという事実がある。

『要塞』という二つ名の彼女が持つのは絶対的な防御力で、耐える自信はあるにはあるが攻撃が出来ないという。

 セシルのお爺さんとお婆さんは、火力と火力サポートにはなり得るがいい加減トシなので、火力の(かなめ)には難しい。

『大工』はやりたがらず、『耽溺に溺れている』のは問題外。

 それ以外は不在。

 つまり、動けるのが『要塞』のみ。

 最近加入した俺『魔王』がいるが、『魔王』一人の加入ごときで壊せるはずもなく。


 一般人や、例の学者然としたおっさんが刀剣と鎧を模写していくが、別段狂気に侵された様子も無い。

 なんて、様子を見ている内に一人の学芸員が小走りで、リコリスの傍に立って耳打ちをしている。

 聞いていたリコリスがハイテンションからローテンションと沈み、最後にはずーんという効果音が聞こえそうなほどに気落ちしていた。

 目が"生前"の世界でよく表現されていた、いわゆる『レイプ目』になっていた。

 リアルで見るハイライトが無い目って、こういうことを指すのかと妙に納得する。


 どうしたのかと、聞く前に彼女から声を出した。

 曰く、暴れている馬鹿が庭にいるようだ。

 それの制圧に赴かなければいけないようだった。

「ごめんね、ごめんね」と泣きながら謝る彼女。

 仕方ないよと、残念そうに言いながら送り出す。

「直ぐ戻ってくるからね」と言って足早に去っていく。

 こういっては難だが、漸く歴史のお勉強から開放されたようだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、歴史のお勉強から開放され、改めて説明文を読んでいると例の剣槍から、


――力が欲しいか。何者をも壊すその力が。


 というありがちガッチガチで食傷気味の展開が起きそうな声が、頭の中に響く。

 暴力的な物理攻撃力は既に『最終騎士』で持っているし、防御力であれば『前衛要塞』がある。

 魔力に関しても『十全の理』の魔力プールと精製能力があるし、属性に関しては『属性王(エレメンタルマスター)』がある。

 あと自身の潜在属性もある。

 たかが呪われた程度の力しか無い剣槍の力など要らない。


 なので、キッパリと。

「間に合っているので、結構です」と剣槍に言ってその場をあとにした。



誤字編集(12/11 11:36)

表現変更(12/12 11:58)

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