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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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冒険者

 

 特にお金の数え間違いとか、商品札の間違いもせずにお昼になった。

 もちろん、お昼であっても人は減らない。

 小さい店なのに、肉とかの仕入れはどうしているのだろうか、と聞いたことがあった。

 返ってきた答えに仰天した。

 友人が肉と野菜を提供したということから、それぞれで友人二人かと思えば、友人が複数の村にいる人達らしい。

 つまり、この肉と野菜は各村から仕入れて売っているのだという。

 もちろん、ちゃんと村に還元されるような作りをしているという。


 なので、殆ど売上はないに等しいようだ。

 それなのに、俺がデブるほどまでのまかないを出してくれる。

 頭が上がらない。

 なので"生前"以上の心意気で働いている。

 デブったのはきっとアレだ。

 両親がデブ遺伝子がマイナスだった。

 マイナス×マイナスでプラスになったんだきっと。

 うん、そうに違いない。


 さて、今日分のナマモノ系は全て捌けた。

 肉と野菜ものの商品札全てに「売り切れ」の札を貼り付ける。

 あとは全く見向きもされない、回復薬を売るだけだ。

 今日の売上を紙に書いてあったので、それらを帳簿に付けていく。

 そんなとき、お客さんが来た。


 見るからにして冒険者風情の男女だ。

 ガタイのいい兄ちゃんに、セクシーな姉ちゃんだ。

 具体的に言えば、重そうな金属鎧と金属盾をガチャガチャ鳴らし、右腰には金属の取っ手にトゲ付きの鉄球を鎖で繋ぐいわゆるモーニングスターと、左腰には長い片手剣の鞘がある。

 剣鍔の留め具が外されているので、直ぐに抜剣出来るようにしているようだ。

 審査官がこの辺りをスルーするとは思えないので、多分留め具して通過しその後留め具を外したのだろう。

 ザルといえばザルだが、審査官も大量の人間を見る。

 ちょっとしたミスもあるだろう。

 職業"宮廷魔術師"として働いている、セシルのお爺さんと試験官の女性(ひと)に報告ぐらいはいいだろうか。


 対する女性はなんといえばいいのか。

 胸を覆う鎧に腰から下スカートの……、ああビキニアーマーというものか。

 腰から下もブーメランパンツのようなモノであれば、言うことなしの正にビキニアーマーだったのだが……、惜しいな本当に惜しい。

 美人といえば美人な艶かしいセクシーな姉ちゃんだが、がら空きの腹を強打してやったら汚物が口から出そうだ。

 女性にそんなことはやりたくはない。

 敵対するなら、その限りじゃないが。


 そんな男女など全くもって好みじゃないので店員スマイルで、応対する。

「何かご入用ですか?」と、聞く。

 今まで、こういう人は何人か来たことがある。

 大抵は迷ってたり、武器屋と勘違いしていたり、回復薬売っているので媚薬といったものを売っているものと勘違いしてたりと、その手のご来店が多かった。


 と、ニッコリ笑ってやればギロリと睨みつけられる。

 ……はて、睨みつけられる理由はなにか。

 入り口がちょっと汚かっただろうか。

 それとも、この店員スマイルがちょっとアレだったか。

 ご入用かと聞いても、兄ちゃんと俺との間では無言。

 ……話が進まねぇ……。

 何が欲しくて来店したのか、言って欲しい。

 もしかして、そこまで聞かないといけないのか。

 再度、「何かご入用ですか?」と聞く。


 まだ睨まれる。

 ……殺る気あることなのか。

 "宮廷魔術師"だということを、夫婦が教えてしまったのか。

 いや、きっとそれはない。

 教えてもいいけど、一度暴れたら「雪山の吹雪(クレバスストーム)」がこの辺り一帯を覆うということは言ってある。

 その際は、物凄く嫌そうな顔をされた。


 もちろん、あの時の盗賊どもに向けた魔法の威力とそれに対する考え方も加味されているだろう。

 つまり、一度暴れたら止まらないということと、敵対者は殲滅すべしという考え方だ。

 そのことがあるので多分きっと大丈夫だ。

 その可能性を脳内の隅っこに追いやる。


 店員スマイルの維持も中々難しいもので、言葉を発しない怖そうな兄ちゃんに向けるのもキツくなってきたので、素面に戻りカウンターの上にある帳簿を今日の売上を記載していく。

 今日は先日と違い、例の鳥肉の消費が激しいようだ。

 いつもの固定客の酒場と食事処と宿屋のおっちゃんたちが来たから、それから先に売れて、それ以降は代用品の例の木登りライオンの肉が売れ続けた。

 もちろんそれ以外の、亀肉やらなんやらも売れて昼前には完売。

 その後は野菜も売れ続け、昼ごろに完売。

 店のおじさんも明日仕入れに行くかなんとかと意気込むぐらいに完売した。


 明日から三日ぐらいは店を閉めるようだ。

 もちろん、固定客の人たちにはその旨は伝えてあるし、納得して貰っている。

 一般家庭の固定客も「しょうがないわねぇ」と納得して貰っている。


 そんなことを考えながら帳簿を入れていると、ガタイのいい兄ちゃんがまだ睨んでいた。

 なんだよ、もう。

 誰何しなければいけないのだろうか。

 面倒だ。

 蹴りだすべきか。

 だが、一応"客"だ。

 なるたけ素っ気ないように聞く。


「ひやかしなら帰れ」

 聞いてないな、この台詞は。

 蹴り出しに掛かっている、まあ気持ち的にそれに近い。

 いつまでもいられると迷惑だ。

 ……"生前"コンビニに置物のように雑誌コーナーにいたけどな。

 必殺、自分のことは棚上げ!

 

 そんな想いが通じたのか、兄ちゃんではなく姉ちゃんが喋った。

「ねえ、ボク。貴方何者?」

 何者とな。

 中々に哲学的なことを聞くな、この姉ちゃん。

 俺は人間かな。

 いやまてよ、魔法を駄々漏らしの人形かもしれない。


「……何者だと思う?」と当り障りのない返答を返す。

「…………、」対する応えは無言。

 聞いてきたのなら応えを返せや。


「お前、名前は」と、さっきから睨みっぱなしの兄ちゃんが聞いてくる。

 聞くだけ聞いて、応えはなく……か。


「……人に名前を聞く時は、自分から名乗れ」

「……なに?」

「おうおう、不快そうに言ってるんじゃねえよ、ここは店だぞ。

売り物を買わずに来ている奴は客じゃねえ。

そして俺は店員だ。

客なら相手するが、客じゃねえなら帰れ」

 と、しっしっと手の甲を外に払うようにする。

「…………、」

 兄ちゃんから怒気が溢れ出る。

 姉ちゃんからも怒気が漏れ出ている。

 

 普通の奴ならばここで悲鳴を上げて失禁するだろうが、こちとらチート持ちだ。

 更に言えば"宮廷魔術師"の称号持ちだ。

 冒険者如きに遅れなど取らないし、人生の八分の一をほぼ森で過ごした自称野生児だ。

 この冒険者が発する殺気、怒気の類など、大量のライオン共から向けられる獲物として向けられる殺意に比べれば、生易しい。


 よって涼し気な顔で迎え撃つ。

「え、何かやってるの?」っていう顔である。

 その何の反応も示さない顔に、「怒気などを感じることが出来ない愚図だ、こいつは」と考えていそうな顔でニヤァと嗤う。

 それ以外の感情もあるのだろうが、とにかく雑魚極まりない。

 子ども相手に何本気を出しているのか。


 この世界冒険者がいるのだとしても、子どもを嬲って喜ぶ人種がなるのだろうか。

 ううむ、"宮廷魔術師"にはなってしまったが、絶対"冒険者"とかいうのにはならない。

 こんなクズにはなりたくはない。

 とにかく、怒気を涼し気な顔で受け流すようにする。

 実際に受け流せているのかは知らない。


 この都市(まち)では剣を抜けば、『殺意がある』ということで返り討ちにしてもいいらしい。

 実際に警ら隊相手に刃物振り回している馬鹿がいたが、警ら隊の囲い込みで鎮圧されていた。

 中には死んだ者もいる。

 どれも一見さんの冒険者風情のおっさんとか兄ちゃんと姉ちゃんだったが。


 警ら隊の囲い込みから逃れようと、強引に突破して一般人の子ども斬殺した馬鹿もいた。

 そいつはたまたま俺が居合わせており、更に俺に向かってきたので、『吸襲風吼(フロギストン・エアー)』で片腕と足の近くに吸着点設置して腕と足を飛ばして動けなくさせた。

 やはり使い勝手いいな『吸襲風吼』は。

 なお、芋虫にされた奴は斬殺した子どもの罪で死罪。

 更に仲間も一緒に投獄されたそうだ。

 警ら隊の兄ちゃんたちが軽く教えてくれたが、彼らも結末は知らないようだ。

 投獄されて獄中死か、奴隷落ちか死罪か。


 とにかく、そういうことがあるので面倒なのを排除するためにも、抜剣させたい。

 更に言えば、警ら隊の兄ちゃんたちも呼び込みたい。

 俺一人で制裁してもいいのだが、出来ることなら大人数に見て貰ったほうがいい。

 なので兄ちゃんたちを指で差す。

 そして、親指で首を掻き切るように一文字を描く。

 怒気、いや殺意というものが膨れ上がる。


『十全の理』が右腕から自動で仮顕現する。

 魔力精製が開始される。

 とはいえ、あの暴力的な精製ではなく、ピリピリとした痛痒感を感じさせる程度のものだ。

 店の入り口が、扉を開けずに強引にかっ飛んだような痕が残りそうだが、その時はあの男女を殺さずに奴隷落ちにさせて売った金で補填しようか。

「……魔力装填」と呟き、装填するのは「狂風(バイオレントゲイル)

乱気流(タービュランス)」では威力が高過ぎる。

 獣人族ならまだしも、この男女は共にぱっと見人族だ。

「乱気流」では吹っ飛ばせずに即死する。

 なのでチョイスは「狂風」


 こちらの迎撃準備は整った。

 あとは抜剣させるだけだ。

 兄ちゃんの手が腰の剣鞘に伸びる。

 ……よし、あともうちょい。

 だが。


「店員さぁん!

お肉売ってちょうらーい」

 と舌っ足らずで元気な女の子の声が聴こえた。

 その後ろに困り顔の女の子のお母さんが見えた。

 いわゆる「ごめんねぇ」という顔つきだ。

 

 売り切れたことは固定客であるお母さんにも伝えてある。

 それなのに、来るというのであれば。

 きっと「納得出来なかった」のだろう。

 仕方がないね。


 流石に一般人の女性と女の子がいる中で抜剣は出来ないようだ。

 舌打ちして出て行った。

 塩撒いておくか。


 なお、女の子にお肉が売り切れたことを伝えるも、「ぶぅ~」と頬を膨らませて抗議された。

 暴力的な冒険者共より、こういう方が骨が折れるな。



誤字、表現方法を訂正(12/12 11:40)

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