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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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いつもの朝

 今日もまた、丁稚奉公(でっちほうこう)の日だ。

 というのも最近は、"俺"がセシルの『護衛』ではなく"エルリネ"がセシルの『護衛』になってしまった。

 俺とエルリネの戦闘訓練から見ても分かる通り、俺の特性は対個人というのはまぁいけなくはないが、どちらかと言えばバ火力で対集団、対軍というものだ。

 俺が一度暴れれば、周辺が焦土(しょうど)と化す。

 触れれば自分達以外を焦土にする爆弾よりも、対個人に滅法(めっぽう)強いエルリネのほうが『護衛』としての能力は高い。


 だいぶエルリネの"日本語"能力も高くなったし、俺の魔法陣達のどれかを譲渡しようかと思う。

 人間誰しも頑張った見返り、または認めて貰えた結果があれば、頑張れるものだ。


精神の願望(マインドデザイア)』とは昇華(しょうか)させれば、種族特性にあわせた魔法陣に成長するものだ。

 だから、人間である俺では使えない。

 一応、『願いに応える』という特性も併せ持つから、俺でも『精神の願望』は使えなくはないが、そんなのよりも既に『願いを叶える』ための『世界(ワールドスフィア)』に『属性王(エレメンタルマスター)』があり、それらの管理者権限を持つ『十全の理』すらある。


 求める能力的にエルリネに『護衛』能力が高いというのと、護衛対象と同性というのも大きいかもしれない。

 女性同士で分かって、男性には分からないこともあるかもしれない。

 いや、それしかないものだ。


 ……まぁ俺の読解能力向上のために、エルリネと共にいてくれているのかもしれないが、あくまで予想だ。

 大元の理由は、多分同性だからだろうね。

 一緒に下着屋とか回れる同性の友達は欲しいところだろう。

 うん、きっとそういう理由だ。

 

 俺にもトカゲくんが早く人化して、男友達が出来て欲しい。


 ということで、朝食を食べて(くつろ)いでいるセシルとエルリネに、丁稚奉公しに言ってくる旨を伝えてから向かう。

 転移魔法とかそういうチートがあれば、一瞬で荷馬車の夫婦の店に行けるのに、世の中ままならないものだ。

 ま、高火力・高出力チートなんてそんなものだ。

 ロールプレイングゲームであれば、移動系魔法は基本魔法の一種だがその世界の一般人からすれば、とんでもないものだ。

 戦争時、一騎当千の化け物が敵軍の対象の目の前に現れたりしたら、一瞬で瓦解(がかい)する。

 

 俺だと高火力・高出力チートで正面から焦土にするしかない。

 移動系のチートは戦争で非常に有用で実にスマートなものだ。

 無い物ねだり仕方がない。

 俺が願ったものは高火力・高出力の『十全の理』だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


 なんて考えながら貴族街のある中心の島から、夫婦の店のある一般街まで走る。

 別に遅刻しそうだからとかではない。

 ただのお腹のお肉のためだ。

 足と胸が鍛えられるだろうが、あわよくばお腹もという簡単な理由。

 お店が開くのは太陽の昇り具合から、大体十時ぐらいだろうか。

 それに比べて今は漸く太陽が地平線から現れて、一般街を明るい日差しが柔らかく照らしているような時間だ。

 

 顔なじみとなった審査官に軽く二言三言話して、通過許可を貰う。

 許可を貰って駆ければ、またいつも公園で大量の(わんこ)(まみ)れる、森人種(エルフ)系のお姉ちゃんに会って、犬をモフり満足すればまた店に向かって走る。


 更に、顔なじみとなった警ら隊の兵士の兄ちゃんたちと挨拶をする。

「おはよう」とか「今日もやってんな!」とか「お前、こいつの代わりに兵士にならないか」とか。

 代わりに兵士というのを最初聞いたときは、指された人と俺が同時にドギマギしたが、一種の世辞というか挨拶だろう。

 そう思ったのには理由があり、朝に会う度に毎日言われた。

 毎日、言われるのであれば世辞か何かだろう。

 最近は目が笑っていないが。


 いつもどおりに適当に話を切り上げて、また店に向かう。

 その後は特に誰かに会うこともなく、店に着いた。

 大体十時ぐらいに開店だからと言って、十時から用意するものではない。

 着いたらまず借りた家の鍵を使い、中に入り店員用の服を着る。

 いわゆる、制服だ。

 といっても前掛け(エプロン)を着けるだが。


 元々エプロンを着けるというルールの類はなかったが、肉や野菜を扱う。

 肉とか野菜の汁が飛んだり跳ねたりして、洋服に付いたりするとその場でシミ抜きが必要なったりする。

 なのに、この世界は布巾(ハンカチ)が無かったように、汚れたら「明日洗濯するからいいや」といわんばかりにそのままにするのだ。


 セシルらが俺にお洒落な服を買ってきてくれても、肉と野菜の汁で汚れてしまう。

 だから、前掛けを使用することを提案した。

 あとは、店の名前をプリントして記憶に残るように小細工したり、店員の名前を分かるようにしたりした。

 この辺りは誰でも思いつく。

 なのに、俺が提案するまで誰でも思いつかなかった。

 いや、やらなかった。


 いわゆる「コロンブスの卵」だろうか。

 ということで、このお店を中心に他のお店の店員は全員前掛け着けるようになった。

 そのお陰で前掛け屋は嬉しい悲鳴を上げているようだ。

 この都市(まち)、食料を取り扱う店が多いからね。


 一先ず、前掛けを装備して店の前の雨戸を開ける。

 太陽光が店の中を照らす。

 その後は、例の牛肉の味がする鳥肉などの値札を置く。

 実物は氷属性の魔法が掛かっている氷箱の中だ。

 "生前"でいう冷蔵、冷凍庫なんて高級品は無い。

 なので、肉、野菜を加工する店はその日毎に、こういった店に来て一日分を購入していく。


 この店は小さいながらも、肉と野菜の質がいいということで、それなりにデカい酒場や食事処の固定客(ファン)を持っている。

 その固定客つながりで、ツペェア内の一般家庭にもこの店の固定客が付き……。

 今じゃぱっと見、しょぼい店だが実は……、という隠れた名店というような感じになった。

 いや、なってしまったというべきか。

 入り口の扉を開けて、中に空気を入れる。

 そして外を見れば、いつもの慣れ親しんだ光景。

 長蛇とまでは言わないが、固定客の二、三人が並ぶ姿。

 開店約一時間前なのに、よくやりますね。


 あくまでこのお店のメインは回復薬(ポーション)屋だ。

 なので、入口前に『大特価! ポーションが、な、なんと云々』とポップを着けるも全く見向きもされない。

 一見(いちげん)さんは買ってくれたりするが、固定客はこぞって肉、野菜を買っていく。

 世の中の回復薬なるものを飲んだことあるが、無味無臭または非常に薬味だが、このお店のモノは味がある。

 といっても例のバナナ味とかそんなモノだが。

 他と違う味のある回復薬なので、売れそうだが全く売れないので有事ではないからなのだろうか。


『"宮廷魔術師"大絶賛!』なんてポップ付けたら売れるだろうか。

 やってみたい衝動に駆られる。

 さて入口前に設置したいつもの回復薬セール棚を設置し、周辺を(ほうき)でさっさこ掃く。

 俺の身長と同じぐらいにデカい箒だ。

 竹箒のような見た目をしているが、竹箒ではないようだ。

 詳しく聞いてみればよかったかもしれないが、特段興味は無かったので特に聞かなかった。

 そんな箒で掃く。


 その頃になって漸く、夫婦がやってくる。

 お互い二言三言ほど朝の挨拶をして「いつもありがとうね」とおばさんからお礼を言われた。

 なに、こんなものは当然のことだ。

 こんな程度、いつも読解能力を教えてくれることに比べれば些末なこと。

 この辺りを言うとまた面倒になるので、「当然ことをしたまでです」と応える。

 

 さて、今日はお昼までの約束だ。

 お昼から先は……、そうだな。

 久しぶりに図書館に行って……、博物館に行ってみようか。

衍字、表現などを訂正。(12/12 11:31)

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