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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-学園に入るまでの期間-
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九ヶ月間の生活②

 さて、俺と女性陣のこの九ヶ月の生活は、旅していた時期に比べてだいぶ健康的になったというべきか。

 自分のことは鏡がないので分からないが、少なくともエルリネを見るととても血色がいい。

 やっぱり褐色肌の美人は健康的でないと映えないな。

 そう思った。

 さて、俺はというと村にいるときよりも流石に都会にいるだけあって、美味いものが多い。

 あの荷馬車の夫婦のお陰で、美味いものが自然と手に入り、それを腐らせるのも勿体無いとばかりにバクバク食べる。

 そうすることにより、よく言えばガタイがよくなった。

 悪く言えば……、そう太った。

 いや、デブったというべきか。


 以前まで家の周辺を何周か出来たが、デブったと自覚する数日前はヒッジョーに身体が重かった。

 筋肉痛も酷かったしデブったというより調子が悪いだけ、風邪っぽいだけと自分を誤魔化していたが、荷馬車の夫婦のおばさんに「ちょっとぽっちゃりしたわね」とハッキリ言われれば、食生活を改善するしかない。


 だからといっても大量にくれるものを、デブったことを理由に受け取り拒否は、ちょっと悪い気がする。

 という訳で、その贅肉を筋肉にしようということで、エルリネを誘ったら一緒にやってくれることになった。

 まずは楽しく"宮廷魔術師"の試験会場で二人だけの鬼ごっこ。

 鬼は当然、俺。

 但し、こちらは地獄だ。


 息も絶え絶えで普通に死にそうだ。

 これは、自分が甘えてた所為なのか。

 ぜひゅーぜひゅーと身体に悪そうな、息を漏らす。

 だからといって、諦めてはいけない。

 千里の道も一歩から。

 筋肉質の身体もこの鬼ごっこから。


 とにかく、身体を動かす。

 なんてことをやってからは、そのままエルリネと戦闘訓練というじゃれあいをする。

 但しじゃれあいなのに、屋外試験場が穴だらけになることから、本気度が違う。

 稀に見に来るセシルの爺さんも、ドン引きしたように顔が引き攣っている。

 そらそうだ。


 対馬鹿相手用の「獄炎(ヘルファイア)」やエルリネを助ける際に使った魔法陣の『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』まで使う始末。

 更に「氷柱の柱(アイスピラー)」と呼ばれる、ビジュアル的には氷で出来た柱を地面から天空へ向けてカチ上げる魔法。

 そんな氷の柱を何十本も作り、「土石流(グラウンドアバランチェ)」で屋外試験会場の地面をほじくり返し、それに火を混ぜた「火砕流(パイロティックスライド)」で、周辺を融解させる。

 どれもこれも対人、それもじゃれあいに使っていい魔法じゃない。

 戦争などのガチ戦闘用のものばかりだ。


 もちろん、エルリネも中々に本気で、その本気の短剣捌きを避ける必要がある。

 正直鬼ごっこしているよりキツい。

 一瞬でも視線を外すと、その瞬間には俺の首に向かってくる。

 ギリギリ『奪熱凍結の言霊』で氷の壁を作り、ついでに触れた者を凍結させようとしても、即方向転換される。

 最近は、『奪熱凍結の言霊』を貫通出来るようになったようで、氷の壁ごと切り裂いてくるようになった。


 エルリネが凄いのか、黒曜石製短剣が凄いのか。

 多分その両方だろう。

 そんな訳でじゃれあった結果、俺の足は緩急を付けた立ち回りによりやたらと筋肉質になった。

 更に「砂鉄の剣」の短剣モード|(流動していない状態)で、エルリネの短剣を弾き返す程度には出来るように、動体視力と腕の瞬発力が鍛えられた。

 胸も走り回るための肺活量上昇のためか、中々胸筋もついてきた。


 だが、どうしてもお腹が引っ込まなかった。


 そろそろ四つぐらいに割れる……ッ!

 とかなんとか、ウヒョヒョしてたら、いつの間にかそれらが消えて現れたのは二段腹。

 正直切ない。

 この年齢だかそうなったのか。

 それとも淡い夢だったのか。


 父さんも母さんも太っているタイプではなかった。

 つまり、遺伝という言い訳は効かない。

 筋肉になってくれるその日まで、俺は頑張ることにする。

 エルリネも一緒に付き合ってくれるらしい。


 九ヶ月ぐらいまえの「痛い思いは嫌。(プイッ)」という反応から、だいぶ変わったなーと過去を思い出してクスクス微笑う。

 それに釣られてエルリネも微笑った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺とエルリネとのじゃれあいに感化されたのか、セシルも自衛魔法のほか、攻性魔法を使いたいと、真似するようになった。

 彼女の潜在属性-地-にあった魔法について考えてみれば「|貫く鉄岩 ( ピアシング・アイアンス ) 」と、「隆起する大地(アースグレイブ)」の存在を思い当たった。


 最近は「土石流」しか使っていないので、すっかり忘れていたのだ。

「一先ず詠唱文などはないので、それを撃つような想像をしましょう」ということだけを言うしか無い。

 とにかく、彼女の前で「貫く鉄岩」と「隆起する大地」をひたすら使ってイメージさせる。

 あとは、彼女の想像力でどうにかして貰うしかない。

 精製した魔力が必要かなー? と思ったが、よく考えてみれば俺の『魔王系魔法』は自分の魔力だけで使用している。

 この世界の普通の人間では出来ないような、魔力をガッツリ消費するものかもしれないが、流石にそこまでは分からない。。

 

 だが、出来ることであれば是非とも彼女に覚えて欲しかった。

 特に「隆起する大地」は使い勝手いいしね、これ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あとはトカゲくんだが、最近は火と水属性魔法だけではなく、以前まで見向きもしなかった風や地も食うようになった。

 とはいえ、相変わらず火属性の食い付き方は『凄い』の一言で、多分メインディッシュは火属性で、おやつに水、間食に風と地という具合だろうか。

 毎日欠かさずこのように魔力を食わせており、いつ放出しているのか分からないがこのトカゲくん身体が大きくならない。

 燃費が悪い身体なのだろうか。

 

 それとも俺が夜間寝ている間に動き回っているのだろうか。

 身体が大きくならない代わりに、このトカゲくんから漂う魔力が、日に日に濃くなって来ている。

 今のうちに魔力を溜めておき、成長期に入ったときにドカンと大きくなるのかもしれない。

 今は十センチメートル程度しかないが、成長期に入ったときのトカゲくんはきっとコモドドラゴンのように二、三メートルのでっかい姿になるのかもしれない。

 ……楽しみだ。

 そのときは、噛まれないようにしよう。

 毒があるっていうし。


 そんなトカゲくんは、最近凄いことになった。

 というのも、生活魔法の火球ではなく、俺のいわゆる『魔王系魔法』を食うようになった。

 始まりはいつもどおりにシャクシャクと魔法を食すトカゲくんに、いじわるをしたくなった。

 そこで「火炎槍(フレイムランス)」を「魔力装填」してみれば、ちょっとだけキョドったが、恐る恐る一噛みしてあとは凄い勢いで食べるようになった。


 その後、火球を見せてもプイッ目を逸し、「火炎槍」を見せれば飛び掛かる。

 更に言えば、精製魔力の「火炎槍」が特に大好物のようで、食べ終わると直ぐに「また、出して」と俺に要求する。

 その姿が可愛くて精製魔力の「火炎槍」をまた出す。


 きっと近い将来、魔力装填した精製魔力の「焼灼の槍」を食べるトカゲくんになるかもしれない。

 

 そういえばトカゲくんは、もしかしたら人語を理解しているんじゃなかろうかというのがまず分かってきた。

 蛇を正面からみれば分かる通り、ゆるい横長になった「ω」のような口になっている。

 そんな口のなか、温度調節のためなのか分からないが、舌を出していた。

「舌を出してて、しまい忘れているみたいで、かわいいなお前は」などと、トカゲくんに言ったところ、直ぐに舌をしまい両前足で顔を隠し、顔をいやいやと振る。

 その姿は人間の恥ずかしいですと言ったときのようだった。

 

 人語を解するならば、やはりその手のファンタジーにありがちなことに、きっと人化もするだろう。

 男性だったら貴重な友人枠だ。

 楽しみである。

 女性だったら……、人化するヒロインということになる。

 それはそれで楽しみだ。

 ハーレムに一名ご招待であるが。

 避けたい。とは思うが、仕方がない。

 そのときには、エルリネと同じく黒歴史ノートに描写したヒロインの一人の名前をあげよう。

 

 ということをモワモワと考えながら、「お前がもし人型になったら、俺がお前に名づけをしてやるよ」と軽く言った。

 トカゲくんは舌をちろちろと出して、こちらをじいっと見ていた。

 当然、考えていることは分からない。

 人語を理解するトカゲくんで、且ついつもトカゲ「くん」と言っている。

 きっと多分男性だろう。

 うん、楽しみだ。

 この七年、そろそろ八年という人生の中で、男友達はテトしかいない。


 男友達がいるといないとでは、やはり面白みが変わる。

 なにやっても馬鹿でつるみ易くなるし、買い物に女性が混じるとデートみたいな感じになるが、男友達と行けばただの遊びに繰り出しているだけだ。

 精神的負荷もそこまで掛からない。

 

 と、こんな感じで九ヶ月が過ぎた。


今日の更新はここまでです。

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