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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ツペェア-
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お婆さん

 試験官の女性と伴って応接室に入ってみれば、例の爺と……誰だろうかお婆さんがいた。

「来たか、ミリエトルくん」と爺は、威厳たっぷりに俺を見やる。

 先ほどまで駄々を捏ねていた爺と同一人物とは思えない姿だ。

 思わず白い目で見返してやれば、爺がたじろいだ。

「フッ」と鼻で嗤ってやる。


 ところで、このお婆さんも"宮廷魔術師"だろうか。

 そんな俺の考えをよそにお婆さんが、俺のことをじっくりと舐め回すように見る。

 お姉さんに舐め回すように見られるならまだしも、(ババア)に見られるのはゾワッとするから止めて欲しい。

 視界から外れるように足を運ぶが、視線が追いかけてくる。


『闇夜の影渡』を低級駆動する。

 その瞬間発生する現象は、視界から『視覚』、『嗅覚』、『魔力』などの検索系能力から外れる。

 流石に『闇夜の影渡』の効果貫通出来ないようで、視線は追ってこなくなった。

 代わりに感じるのは違和感。

 

 いわゆる、攻性魔法の射程内に入った感覚。

 ピリピリとした痛痒感が、肌を苛む。

――広範囲を穿つつもりか。

『闇夜の影渡』を解除させながら、セシルとエルリネの前に立つ。

 

 きっと何もない空間から徐々に現れただろう。

 ビジュアル的にそれを狙ったものでもあったが、成功したかは分からない。

 だが、そんなことはどうでもいい。

多重起動(マルチタスク)」で「魔力撹乱(カウンタースペル)」と「魔法破壊(ディスペル)」を用意する。

 そして、「自動起動(オートスペル)」に「凍結の棺」をセットした、これで敵対行動すれば即現象が発生する。

 

 婆の反応を待つ。

 こういうのは先手必勝ではあるが、必要以上に力を見せつけるのも普通は必要がない。

 だから、見せない。

 婆は俺を睨む。

 俺も婆を睨む。


 この構図、さっきも爺であったな。

 などと、思っていたところで婆がフッと微笑った。

 微笑った理由について、問うた瞬間にドゴンと来ることもあり得るので、警戒は絶やさない。


「素晴らしいですね、貴方は」と婆は俺を評価したようだった。

 素晴らしい……?

 なんのことだろうか。


「私の眼から避けるために、私たちが識らないであろう魔法を惜しげも無く使い、私が魔法の使用準備に入れば、即座に姿を現す」

 そして、

「姿を現せば、相も変わらず私が識らない魔法構成見せつける。

貴方の魔法展開中に詠唱文を聞かなかった。

つまりは無詠唱。

無詠唱であれば、複雑な術式は作れない……。

そうあったはずなのですが、貴方の抱える魔法はどれも見た限りかなり複雑。


……貴方が『魔王』ですね。

お初にお目にかかります。

私はメリア。メリア・キュリアです」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 つまりはセシルのお婆さんに当たる人か。

 思わず(ババア)って心のなかで言っちゃったよ。

 ……ああ、そういえばおっさん言ってたな。

 おっさんの家系は"宮廷魔術師"だと。

 そうであれば、必然的にセシルの祖父母のどちらかは"宮廷魔術師"だわな。


 そんなことを考えている間にも、お婆さんは話を進める。

「姿を現すだけではなく、私の孫の前に自然と立つその姿。

それは、狙って出来ることではありません。

どこぞのジジイとは、大違いですね」


 ……ジジイ?

 あれれ、物凄く言葉が粗くなったぞ……?

 訝しげにお婆さんを見ると、その視線に我が意を得たりとばかりに隣の爺を見やる。

「その様子だと、このジジイは名前を明かしても家名までは明かしていないようですね。

全くそんなことだから、子どもにも舐められるのです。

……まさかとは思いますが、孫の旦那様の前で無礼なことは晒していないでしょうね?」

 と、隣の爺に凄む。


 怖っ。

 爺は物凄い量の汗をだらだらと流しており、顔がてらてらと部屋の灯りを受けててらついている。

 このお婆さんの血を引いている、セシルもこうなりえるのか……。

 と、恐怖を込めた眼でちらとセシルを見れば、片眉を上げたような訝しめでじいっと見ている。

 ……爺とお婆さんの両方が"宮廷魔術師"ってこれ凄くね……?

 爺の例の駄々捏ね姿を見ているから、そんなに感じなかったけど。


 未来の俺の姿にブーメランしてきそうなので、駄々捏ねの姿についてはチクることはしないでおこう。

 ……なんて、思ってたらセシルがチクった。

「……職業"宮廷魔術師"になってほしいと仰ってましたよ」

「…………、」

「…………、」

 あっ。

 非常に怖い強い怒りと恥の意味を持つ魔力が、部屋の中に充満する。

「…………孫の旦那様の前だけでは飽きたらず、孫の前でも醜態を晒したのですか……?」


 口にするのも(はばか)られることが起きたので、割愛する。

 なお、エルリネは顔を青くして「あわわわわ」と言っていた。

 うん、俺も「あわわわわ」と言いたい。

 人間あそこまで曲がるのか……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから、体感三十分後。

 爺のお婆さんによる折檻は、終わった。

 爺は見るも無残な姿だ。

 心なしか笑顔なのは、悪いものを食べた証拠だろうか。


 俺が爺に憐憫(れんびん)の目を向けていたところで、セシルとお婆さんは感動のご対面をしていた。

 おっさんが魔族の血交じりとセシルを評しており、孫なら可愛いだろと抜けたことを言っていたが、親がそんな反応だからセシルの兄姉たちも勘違いするんだ。

 なんて思った。

 そして、自分の娘に対してそんなことを言い放つ父親な訳だから、祖父母も余り期待していなかったが、見たところそうではないようだ。


 ……部外者がいていい空間ではない。

 席を外そうということで、エルリネを促して外へ出ようとすれば、お婆さんから引き止められた。

「孫娘をこれからもよろしくお願い致します。『魔王』ミリエトラル。

いえ、『魔王』ウェリエでしたね」

「というと」

「ええ、私も貴方の身分を保証します。

強さも申し分なく、複雑な魔法を無詠唱に出来るその能力。

それに加えて、私の知識にない魔法の使い手。

対人戦では、その技術の秘匿性の有無で生死を分けます。

貴方が死ぬことで、孫娘が泣くことは許せません」


 絶対大丈夫なんてことは言えない。

 いつだって事故はある。

 だが。

「ああ、任せておけ。俺は死なない」

 と、俺が返答したところでお婆さんは万感の意を込めるように、呟いた。

「ええ、よろしくお願い致します。ウェリエさん」



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