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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ツペェア-
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二つ名

 その応えに試験官の女性は、満足そうに「うん」と頷いた。

 対する爺の方は、寝転がって「嫌だい、嫌だい」と手足をバタバタさせていた。

 なにこいつ、ガキか。

「一緒に"宮廷魔術師"やろうよー」と、大の育ちきった大人が叫んでいるが、女性の方は完全にスルーしている。


 スルー(りょく)スゲェ。

 リアルでもいわゆる"NG機能"が欲しいとか思いながら、俺だったら触りそうだ。

 女性がスルーしているので、俺もスルーする。

 それでもバタバタと手足を振るう。

 ……『世界』にでも閉じ込めてやろうかしら、なんて思いながら「ああ、これがスルー出来ないっていうんだな」なんて思った。


 なんて考えている内に、試験官の女性から何か気になることを言われた気がした。

 聞き逃したので、もう一度言ってもらう。

「えっと……、すみません。もう一回お願いします」

「ん、ああ『二つ名』どうします?」


 ……二つ名だと……?!

 厨二病(くろれきし)の花である二つ名だと……?!

 夢が広がりすぎて困る。

 妄想が駆け巡る。


『擬似太陽』のミリエトラル。

『魔法陣』のミリエトラル。

『焼灼の槍』のミリエトラル。

「………………、」

 いくつか候補を挙げるが、どれもしっくりこない。


 悶々と沈思黙考していると「あのもしもし……?」と試験官の女性っぽい声が聞こえたが、雑音(ノイズ)だ。

 邪魔をするな雑音よ。

 考えろ、俺。

 ここは厨二病っぽい名前をつけろ俺。

 さあ、思いだせ黒歴史。

 ほかにクる奴を記憶(ノート)の中から探せ!


 なんて考えていれば、

「あー多分考えていらっしゃいます……?」と、試験官の女性から声が掛かる。

 当然じゃないか。

 二つ名だぞ。

 二つ名。

 異名とも言える、二つ名。

「ミリエトラル」という名前が、世界に響き渡る。

 素晴らしい。

 さっきまで"宮廷魔術師"なんかになりたくない、なんて考えていたが二つ名貰えるなら本気で悩んでたかもしれない。


 それぐらい魅力的なのだ。

 二つ名というものは。

 有名にはなりたくはないが二つ名がつくなら、それは許容する。

 さあ考えろ!

 バッチグーな二つ名を!


「あー……、考えてますね。これ」

 まだ雑音が聞こえる。

 ええい、黙れぃ。

 と、顔を上げれば試験官の女性が見えた。

 おっと、俺としたことが妄想で時間が吹っ飛んだようだ。


「あ、すみません。どうぞ、続けてください」

「戻ってきましたね。ええと、二つ名については先ほどミリエトラルくんが言ってたものを使いたいと思います」

 ん、使ってたもの?

 なんかやったっけ。

「電磁衝撃」と「雷槌」ぐらいしかないはずだ。

 っと、「電磁衝撃」で雷球を帯電させたままだったので、帯電状態を解除し、雷槌用の雷雲も散らす。


 しかし、どれも使用していないので試験官の女性は知らない筈だ。

 あとはなんだろうか。

「ええ、『魔王』のミリエトラルくんでいいかな」

 ……は?

「いやいや……えっ?」

 ま、お、う?

「うん、我ながらいい二つ名だと思うよ。ミリエトラルくん。

『魔王』を擁するザクリケル。

それだけで、他の国への牽制になるし、抑止力になる。

ザクリケルの国民は『魔王』がいるという安堵感がある。

あ、一応この国は戦争をするということは無いぐらいに肥沃だから、きみの『魔王』という名前を能動的に使うことはないから安心してね」


「いや、ちょっと待って下さい」

 と、俺は試験官の女性を止める。

「『魔王』というものは割りと否定的な単語ではないでしょうか。

『勇者』に倒されますし」


「んー、額面通りに取れば否定的な単語ではあるけど、別に肯定的な意味もあるのよ。

例えば『魔族たちの王』とか『魔法王』とか、子どもたちの憧れの対象だしね。

というよりも、ミリエトラルくんの『魔王』というのは、そこから来ているのでなかったの?」


「いえ、俺のは否定的な意味で使ってました。

手加減が出来ない高火力の魔法で、国を墜とすことも出来るものばかりなので」

「……"国を墜とす"というのが途方もなさ過ぎて、いまいちピンと来ないのだけど、もしそうだとしても『魔法王』とも言えるねえ」

「あー……」


 確かに。

 だが。

「だとしても、否定的な意味で取る人が多分多いと思います。

なので『魔王』は正直……」

「んー……じゃあこうしよう」


 代案が見つかったようだ。

「『魔王』はそのままで、きみの名前を変えよう」

 代案でもなんでもないのですが、それは。

「うん、そうだ。

そうしよう。

どうせ、きみの年齢からするとこの街に一年程度逗留して、そのあとは学園なんだろう?

その間"宮廷魔術師"として名乗るときがあれば、それ専用の名前を名乗って仮面でも被ればいい。

ほら、名案だ」


 全然名案でない。

 何を言ってるんだ。

 俺の名前じゃなくて、ネガティブに取られるであろう『魔王』の方をどうにかしろと言っているのだ。

 何をトチ狂って、俺の名前を変えなきゃならんのか。

 いや、名前じゃなくて偽名か。

 タ○シード仮面でも名乗れってか。


 第一、俺の自称『魔王』という呼び名は、自分に対する戒めだ。

「お前は、人の殺しすぎて返り血で真っ黒だぞ」という意味の。

 あと恐怖の意味で『魔王』と名乗っておけば、人は必要以上に近づかないでくれる。

 セシルは守るべき者がいて、守るべき者のために力を振るえば、その人は『魔王』ではなく『勇者』になるといった。

 それでも、俺が守りきれるのは有限だ。

 だから、守る対象を必要以上に増やさない。


 とかなんとか言った側から、セシルが増えた訳ですが。

 ……突っ込むと疲れるから止しておこう。


 とにかく「いや、そうじゃなくてですね」と、試験官の女性を止めようと試みる。

 だが、止まらない。

 あれか。

 俺がさっき沈思黙考してた当て付けか。

 そう考えて俺は彼女を放っとくことにした。


 その時になって漸く思い出したが、しばらく総スルーしていた例の爺がいなくなっていた。

 駄々こねが効かない相手だと察して消えたか。

 さて、しばらく放置して、セシル・エルリネと喋っていたところで正気に戻ったようだった。


 正気に戻った彼女は「しばらく恥ずかしいところを見せてしまった」と、言いたげにもじもじしていた。

 恥ずかしくてもじもじしている人を、面白がって(つつ)く人間になったつもりはない。

 スルーを決め込みながら、『魔王』だけは勘弁と示すが国の火力面の人間として、且つ国民としてみても『魔王』という存在を手放せないとのことだった。


 知らんがな。

 と、言いたいところだが理屈は分かる。

 だからと言っても、名前を変えろ……ん、変えろ……?

 …………、変えろ?

 ……ヤバい。


 ……名前を変えろってことは、つまり改名……?

 あれ、結構不味くないか、この状況。

 この改名イベントがトリガーで、ルート入るんじゃね……?

 ヤバい、この改名イベントで俺が「ミリエトラル」の次に名乗ることになる名前でないものを名乗ると、イレギュラールートに入る……!


 まさか、改名イベントが先に来るとは。

 いや厳密には改名ではないが、自分を対象にする名付けは改名と言える。



「じゃ、そういうことで……【『魔王』のミリエトラル】は、本名だなあ。

ミリエトラルだとすると、愛称はミルかなあ。

じゃあ……【『魔王』のミ――」


「【『魔王』のウェリエ】で」と彼女を発言させまいと、発言を被せる。

 元々は"ウェリエ"という名前があった。

 それの愛称は"ウェル"というものだ。

 その愛称に近い発言の"ミル"を考え、"ミリエトラル"と名づけた俺。


 だから、この(キャラクター)の真の名前はウェリエだ。

 作者にしか分からない意図。

 蓋を開ければどうでもいい設定。

 だが、この名前は最古までは行かなくても相当古い。

 それだけ、縁がある。

 だから、変な名前を付けられたくない。

 というのもある。


「……何故、って聞いていいかな?」

「理由は無い。けれど、ウェリエと名乗りたい」

「……そっか。じゃあこれからミリエトラルくんが『魔王』と名乗る時は『ウェリエ』と名乗ってね」


 俺が「ウェリエ」と名乗ったとき、彼女は奥歯に物が挟まったような声音で理由を聞いてきた。

 あの村の「ミリエトル」という土着神の名前のように、「ウェリエ」という名前にも何かあるのかもしれない。

 だが、俺は知らないし知ってもしょうがない。

 無理して聞くものでもない。


 取り敢えずこれで、イレギュラールートではなく俺の識っているルートに入った筈だ。

 あとは学園に入るだけだ。

 学園生活も主人公たちに比べればガッチガチに設定はしていない。

 比較的にのんびりとした生活になる筈だ。

 いや、ならんと困る。

 

 生前の学生時代は黒歴史ノートを書きまくっていた。

 今度の学生時代は、恋愛もやってみたい。

 なので、先着一名様のみ恋愛枠を用意します。

 ……ザクリケルの"宮廷魔術師"という称号だけで、引く手数多だろうがな。

 望めるなら"宮廷魔術師"のネームバリューで、寄ってくる女性じゃなきゃいいんだが。

 まぁいいか、それは。


「ああ、"宮廷魔術師"を名乗る必要があるときが来れば、ウェリエと名乗らせて貰うよ」

 と、言ってもあと一人の"宮廷魔術師"が俺のことを認可しなきゃ意味ねーんだがな。

 そんなこんなで、俺と彼女で話し込んでいると俺の後ろで「くちゅん」と可愛らしいくしゃみが聞こえた。

 セシルがくしゃみをしたようだ。


 ふと空見れば夜の(とばり)が降りてきていた。

 寒くなりそうだ。

 女性の勧めで、屋内に入ることにした。

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