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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-ツペェア-
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勘違い

 歩くこと約一時間。

 日もそろそろ傾き始めたところで、特に審査関門もなく貴族街に入った。


 これまた警らしていた兵士に「キュリア家」の場所を聞く。

 どうやら、これまた一際デカい屋敷が「キュリア家」らしい。

 いやはや、「キュリア家」というものはデカすぎる。

 ザクリケルニアでもデカい屋敷だった。

 だが、ツペェアの屋敷もデカい。

 流石、宮廷魔術師を代々輩出してきただけある。

 

 逸る気持ちを抑えつつ「キュリア家」の門を叩く。

 ザクリケルニアのあの門ものように重厚な作りをしている門だ。

 当然だが誰も来ない。

 もちろん叫んでも来ない。

 だからといって、引き下がるのは選択枝にない。

 では、どうするか。


 宮廷魔術師を輩出してきたというのであれば、魔法に造詣(ぞうけい)がある筈だ。

 危険と言えるような魔力を見せれば、誰かが来る可能性がある。

 来なかったら、諦めて後日にしようということを、エルリネとセシルに伝えれば、エルリネは「門を壊さないのですか?」と、中々過激なことを(のたま)った。

 誰に似たのだろうか。

 それとも、彼女の素の性格だろうか。


 それに対して「この門を壊せるのですか?!」とセシルは驚愕した顔で、こちらを見ながら言ってきたが、壊すつもりなど微塵もないこと伝える。

 いや、壊せるけどね。

 ザクリケルニアのあの門も壊せるだろうし。


 とりあえず、話だけしているといたずらに時間が過ぎるだけなので、行動に移した。

――『十全の理』起動。


 奇妙な文字配列と魔力線で描かれた幾何学模様の燦然玲瓏と輝く魔法陣が背中側に顕現する。

 エルリネは勿論のこと、セシルも『蠱毒街都』に『最終騎士』を見ているため最早慣れているものだ。

 だが、セシルは『十全の理』を見ていない。

 あの暴力的と言える魔力精製を間近で受けたことがない。

 そのため、精製し始めた瞬間セシルの余裕だった表情が苦痛に歪んだ。


 こちらとしては危険といえる魔力で、中の人を釣るという目的があるので手加減は一切なし。

 ピリピリとした痛痒感はなく、あるのは魔力を持っていかれるような痛みと総毛が泡立つような感覚。

 この精製は術者からある程度離れれば、痛みはある程度和らぐので、俺の方から彼女たちから離れる。

 なお、この精製時に与える苦痛は、『世界』ではカット出来ない。

 そして術者も割りと痛い。

 激痛ではないのでそこまで気にならないが、痛いものは痛い。



 目の前の重厚な門が軋む。

 この高濃度高純度の魔力であれば、あの村で起きた際に使った魔法「雷槌」といった低級起動ではなく、「雷槌」であれば「神剣」と言った通常起動が出来そうな具合だ。

 まだまだ精製する。

 魔力容量から溢れた分が、いわゆるオーラのように俺の身体を纏い始めた。

 それは幼少時にみた、燦然玲瓏と無色に輝く水のようなものが身体を覆い、そこから発火したように燃える火と球状の風の塊、雷球に氷塊が俺の周りを回り始める。

 そして土を連想させるように、土の柱が何本も俺を中心に地面から生え始める。

 どれも、面白いことに先述した通りの無色に輝く物で形作られている。

 属性を介さない純粋な魔力で精製されている現象ってことだろうか。

 まさにチート級。

 この世界は割りと属性を介して現象が起きるが、俺の魔法は属性という色を付けただけの純粋な魔法という現象が起きる。

 どう見てもチートです。本当にありがとうございました。


 この現象から鑑みると、あの時から魔力精製というものは出来ていたのかもしれない。

 重厚な門が悲鳴を上げている。

 そろそろ来る筈だ。

 そうでないと、この魔力を使わなければいけなくなる。

 いやはや、本当に戦略兵器ですわ。

 

 だが、いくら待てども来ないので、八つ当たり気味に直線を描くように発生する魔法を使う。

 当然、門に向かってだ。


 地面を片足で砂埃を起こすように蹴った。

 しかし発生するのは砂埃ではなく「土石流(グラウンドアバランチェ)」という魔法だ。

 一瞬、空気みたいなものが地面に入り、その際に土の塊が前面に飛ぶ。

 その現象の数秒後に、本チャンの粘土や岩片が岩津波となって襲いかかる魔法で、見た目も威力も派手で前面に強い。

 その上、魔法無効化という化け物が相手だとしても、この魔法は粘土と岩片をほじくり出して、岩津波を起こす魔法なだけで、岩津波の部分は物理攻撃に値する。

 つまり、魔力無効化バリアーなんてモノを持っていても、貫通させやすい。

 ひょろそうな魔法使いなど、これで削り殺せる。


 更に岩片などを出すので、その後の岩壁などの材料にもし易い。

 攻めてよし、守ってよしの魔法だ。


 欠点は派手すぎるのと、周辺に及ぼす被害がとんでもないこと。

 門以外の部分も破壊しているし、岩津波は消えるわけではない。

 あとで直す必要がある。

 二重の意味で洒落にならない。

 エルリネらは巻き込まれないようにと、とっくに退避している。

 つまり、一人で直す必要がある。


 なんでこんなものを使ったのか。

 十数秒前の自分を殴りたい。

 しかし、その甲斐があってか、中の人が出てきた。

 すわ「キュリア家の人来たぁー!」と喜べば……。

 宮廷魔術師関係の人が出てきた。

 なんとこの門、宮廷魔術師に入りたがる人用の門のようだった。


 曰く、当然のごとく宮廷魔術師になりたがる者は多い。

 なりたがる連中をテストしても、期待はずれもしくは実力外であればテストする時間が無駄なのだ。

 だから、この門を使う。

 門にダメージを与えれば、テストを受ける権利を有することになるのだという。


 ……そんなこと知らんがな。

 こちらとしては、宮廷魔術師認定試験を受けに来ているわけではなく、あくまでキュリア家へのおつかいだ。

 そのことを全面に出すも「まぁ受けるだけでお金は取らないから」と大人な女性にニッコリ微笑まれれば、強くは言えない。

 こっちの勘違いで起きたことだが、少なくとも門を叩いたのは事実。

 でも、こちらとしても事情はあることを伝えれば、女性の方から「キュリア家」に連絡を取って貰えるという。

 ちなみに「キュリア家」のお家は、隣の番地らしくずっと先のこれもまたおっきな建物だという。

 分かるか!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 関係者の女性を先頭にエルリネとセシルを伴い、宮廷魔術師認定試験場の敷地内に入る。

 でっけーと溜息を漏らすほどに広い。

 とりあえず、何かと理由を付けて出て行くことに限る。

 俺に貴族生活などしたくない。

 

 それに生前描いていた黒歴史ノートという設定集からも、俺の物語(じんせい)ルートが外れまくってて現状手探り状態過ぎて怖すぎる。

 これ以上ルートから外れたら何が起きるか分からない。

 なので、急速にこの場から逃げる必要がある。

 だが、逃げられない。

 

 いや、逃げようと思えば逃げれる。

 だが、下手に逃げれば追いかけられそうだし、下手を打てばこの街に居られなくなる。

 それだけは避けたい。

 しばらく歩いたところ、女性が「この部屋で待ってて」と応接室で待たされることになった。

 女性のパタパタという足音が、段々遠くなった。


 最早、ため息を吐くしかない。

 何故勘違いをするのか。

 よりよって、面倒くさいものに自分から突っ込むことになろうとは。

 エルリネとセシルにごめんと謝る。

 エルリネは「なんで謝るのですか?」と逆に聞かれ、セシルは苦笑いしていた。

 

 それはそうだろう。

 セシルと出会った日の、風呂場できっぱりと「宮廷魔術師になる気はない」と言い切ったのに、何故かこの場にいる。

 苦笑いするしかない。

 俺も枯れた笑いをするしかない。

 どうしてこうなった。

 しかし、賽は投げられた。

 とりあえず、程々にしよう……。





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