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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-成長-
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種族の坩堝



 愛するひとよ なかないで。


 貴方には私の幸福を


 私には貴方の不幸を


 貴方は私を拒絶して


 私は貴方を(これ以上は欠けていて読めない)


 古代の歌詞の碑文:空駆ける知神姫――クニースムニース


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 学校は村の外れにある。

 建物は一階建てで、村の人口で考えると割りと、いや無駄に大きい。

 ただそれには理由がある。


 この村は勇者を輩出したのだ。輩出した学校が小さいと平民も、貴族も都合が悪い。

 だから、無駄に大きくしたという。

 子どもの数十九人に対して部屋の数二十一個。一人一部屋でも余る。

 また、村の外れにあるだけあって、屋外授業する場所も広い。


 土地が余っているため、学校周辺の土地と山が敷地であり、ほかの市町村の学校にはないのびのびとした実践授業が受けられる。

 しかし、入学してから卒業するまでに約四年ほどしかないため、この広大な敷地を(あまね)く堪能するには時間が足りないし、村の子供たちには、いつも山に森にと遊んでいるため授業で山に森には入りたくない。


 そんな学校に俺、ミリエトラルは入学した。

 日本のように一年の一区切りから該当する子供たちをまとめて入学ではなく、入学できるような年齢を迎えたらカバンを持たせてしれっと教室に入らせ授業を受けさせるようだ。

 不届き者が入ってたらどうするんだ……と思うが、全体的に人口が少ないので、村の大人達が入学するであろう子供を常に知っている。

 別に村の子供たちに個体識別番号が採番されているわけではなく、大人達は基本的に魔法が使えるため、属性魔法の残り香とリトマス試験紙のイベント時に見せた顔を照らし合わせて監視するようだ。



 しかし俺について困ったことがある。

 虹があったとはいえ、元々強い無属性だ。無属性の残り香、または魔法が使えないなりに残り香を感じさせない筈なのに、姉さん曰く俺には火属性の気配が異常に強く、ちょっとだけ水属性の匂いがするという。

 どう感じても別人である。


 ただその部分に関しては、虹というこの村では初の属性判定結果で属性が未知数でどう育つか分からないというのと、お母さんと姉さんの人柄で信頼されているというのと、もし成りすましがあったとしても姉さんがべっとりと俺に貼り付いている。そうシールのようにだ。

 そのため、疑う余地もない。

――ああ。この子はあそこの弟好きをこじらせた姉を持つ弟さんだな。

 と、共有で認識されているのだ。


 嘘偽り無く、その通りだがもう少しどうにかならないものか。

 特に姉さんだ。お母さんには愛されているというのは当然分かる。

 だが、姉さんは凄い。姉弟の愛され方ではなく情愛されているように感じる。

 何するにしてもべったり。


 お互いいい歳になったら、俺が襲われるカタチで一線超えるんじゃね? と思うぐらいにべったり。

 何とかしたいと思う反面、精神年齢そろそろ30のおにいさん的に、精一杯背伸びするお姉さんは可愛すぎてこのままでいいか、可愛いし。とほんわかと緩暖かい目で姉さんを見て思う。

 見てください、これが案件になる人の例です。これはいけない。

 いかん、鼻血が。鉄分が足りない。


 とにかく、俺の胡散臭い身元は姉さんが保証してくれることとなった。

 あとはしれっと授業を受けるだけだが、そのしれっとが難しかった。

 前述した通り、姉さんがべったり貼り付いているし、そもそも俺が入学する前に姉さんが俺を自慢の弟と吹聴しまくった。

 そのお蔭で俺または姉さんの同年代からは嫉妬された状態で学校生活スタートである。


 これはひどい、俺が何をした。

 ああ姉さんをそのままほっといたのが原因ですね。

 俺の所為だった。


 身内目から見て非常にクール美人な姉さんに「自慢の弟」と評され、クールな姉さんが俺を膝の上に乗せて、相好を崩す。

 それはそれは野郎から嫉妬を受けるわけだ。

 ……姉さんの膝の上は俺のものだ。

 と、内心喜びながら不服そうな顔をする。こうしておくと、少なくとも世間的には嫌々乗っていると見られて、姉も嫌なのかなと思って弟離れしてくれると睨んでいる。


 ただ、今のところ効果が無い。

 流石に授業までべったりは無いが、ホームルームでひとしきり堪能してから姉さんが自分の教室行くときの流し目は卑怯だ。7歳ぐらいなのに涙交えての流し目。よく出来るな。

 姉可愛い。いかん、俺も割りと姉離れ出来ていない。


 この村では割りと種族の坩堝となっているようで、俺と同時期に入学した者がいた。

 そいつは女の子で、見た限り俺と変わらないがれっきとした『魔族』という種族らしい。

 魔族という存在を知って俺はテンションがハイになった。


 ラノベでもweb小説でも異世界ものでは、ほぼ確実に描写され、大抵は主人公の敵だったり的だったりと、仲間や家族として描写されるのは割りと少ない、そんな『魔族』という種族が

 俺の目の前にいる。

 興奮を隠せない。

 でも、姉の膝を堪能するが少なくとも紳士だ。

 あくまで穏やかに彼女に自己紹介するが、


 ……避けられた。

 そこそこ広い教室の教卓に隠れられた。

 ショックだった。

 俺自身の顔を見たことがないから、なんとも言えないがあの姉さんとお母さんの美人っぷりを見れば、俺もそこそこイケメンな筈だが、それでも隠れられる。

 こっちの世界でもイケメンじゃなくてブサメンなのか。ショックだった。

 因みにその日はキチンと授業は受けました。


 しれっと授業に参加するようになって初めての実践授業があった。

 内容はやはり魔法。但し生活魔法と呼ばれるものだった。

 火球や水球も攻撃魔法ではあるのだが、効果を極端に小さくすれば怪我する心配なくかまどに火をつけたり、瓶に水を満たせることが出来る。

 頭では分かっていても正直、俺にはキツかった。


『十全の理』が起動したお蔭で、俺個人の魔力容量と『十全の理』の各魔力容量とパスが繋がれている。

 あの一瞬だけで精製した分がまだ残っているし、魔力容量も底上げされている。

 イメージで言えば、ストーブの灯油缶1つ程度だったものが、25m学校プールぐらいの容量になったレベルである。


 魔力の貯蔵量が跳ね上がったお蔭で一度に出す量も、比例してたくさん出る。

 つまり、ただの生活魔法としての火球は基本的に1cmにも満たないが、俺が出す火球はめいいっぱい制限しても10cm弱の巨大な火の玉である。

 攻撃魔法でしかない。

 その為、楽観視していた魔法の実践授業の難易度がベリーイージーからベリーハードになった。


 水球辺りはそこそこ生活魔法として完成していた。

 一度に精製する水の量が多いだけで、大きい瓶を使うか、極端な話溢れても心配はない。


 風魔法に関しては、部屋を掃くなどに使うようだが、これもベリーハードだった。

 俺のイメージとして風は竜巻である。

 イメージした通りに魔力を流せば、即竜巻が発生するであろう。

 では、どこぞの"吸引力の変わらないただ一つの掃除機"のように吸引する風をイメージして実践したところ、地面ごと吸い込んで風の内部で粉砕後、圧縮された岩のように硬い小山が出来た。

 休み時間の誰もいない森の近くで良かったと思う。

 屋内でやっていたら建物ごとやっていたと思う。


 今度はそよ風をイメージした。"今日は、小春日和で気持ちのよい風が吹く。河原で寝そべっていたら吹いた涼しく優しい風"というそよ風をイメージし、極限まで減らした魔力を流す。

 結果、突風である。

 木々が騒々と軋むぐらいに突風が吹いた。

「ぎゃあああああ」思わず俺の口から悲鳴が出る。

 そりゃそうだ。なにせ飛んだからな。高さ五メートル距離は二十メートルもだ。


 地属性は変わってイージーだった。

 イメージはクレバス、地震、ストーンサークルなどの天変地異系だ。そんなものは当然使えない。

 地属性魔法はweb小説では割りと人気だが、世間一般的には不人気というのはどこの異世界でも一緒なようで、この世界でも"地味"というのと地属性魔法に"生活魔法"にグループされるものがないという理由で不人気だった。

 鉱石発見などに関しては本人の資質があるし、石を黄金に換えるというのは錬金術にあるようだが地属性とはまた違う。


 ほかの市町村では分からないが、少なくともこの村では住宅の材質は木だ。

 そして、俺が産まれてから地震というものがない。つまり基礎はなくさくっと木または丸太で家を作って、はい完成。が、基本的な家の作成方法。

 基本的に地属性魔法が出る幕がない。

 つまり、俺が頑張って制御しなくてもよいということ。


 地属性魔法を使う実践授業にて、先に入学したクラスメイトが地属性魔法を使う。

 ……なるほど、小石を飛ばすのか。

 俺にも出来そうだということで、こちらも森の近くで実践する。

 結果、小石を飛ばすことが出来た。クラスメイトは5個ぐらいが限界のようだったが、俺はその十倍の小石を飛ばしていた。

 小石というよりもちょっと鋭くなった、拳骨大の石だが。


 火属性と風属性については俺の中では封印することにした。

 ベリーハードよりヘルモードなんだもの。


 同期の魔族の女の子は一人で生活魔法の練習をしていた。

 あっちはなかなか出なくて悪戦苦闘しているようだが、俺は出過ぎで悪戦苦闘している。

 生前、ネットで他人の黒歴史ノートスレに『右手を抑えて「鎮まれ鎮まれッッッ」と喋った。俺は痛い奴だった』というレスがあった。

 それをまさに自分がやっている。


 十全の理が、日本語フォーマットのため、異世界言語では何の反応も示さない。

 だから、この世界で「何を喋っているのか皆目検討付かないが、なんか必死に鬼気迫った顔で右手に向かって喋って、姉に愛されている弟がいる」と噂されるようになった。

 クラスメイトからドン引きされ俺は孤立した。


 姉さんはそんな噂があってもべったりだった。

 少しはドン引いて欲しかった。

 そんなこんなしている内に実践魔法については生活魔法から、自衛用魔法にシフトした。


 自衛用魔法とは簡単にいえば、生活魔法より威力は上で攻撃魔法よりは威力は下というもの。

 つまりは自衛手段として覚えましょうね、という魔法だ。


 生活魔法の枠組みのなかでは高火力過ぎて悩んでいた俺には朗報である。

 ただ、ヘルからベリーハードになっただけである。

 自衛として相手を燃やしたらいけないそうだ。吸引する風で地面ごと粉砕圧縮したら処罰されるようだ。

 結局制御する必要があった。


 ただ、生活魔法ほど制御する必要がないので、精神的には楽だった。

 相変わらず『鎮まれ鎮まれッッッ』って十全の理に話しかける必要があったが。


 そんなある日の放課後、クラスメイトの魔族の女の子が教室で泣いていた。


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