幼馴染みは変どりっくす。
「めりんちゃん。ちょっといい?」
目がくりくりとした可愛らしい男の子、小林 歩兎は、幼馴染みの少女、高幡 芽林を自分の目の前に座らせ、いくらか真剣な顔をして彼女の目を見つめていた。
「なあに、なあに?」と、髪の毛をカニさんWピースおさげにした少女は、期待に満ちた表情で大好きなアルトくんを見つめ返す。
彼女の過度な期待を感じ、逆に少し身構えながら歩兎は「あのね、めりんちゃん。よく聞いて。」と言った。
うん、うん……。
「あのさ、ボクたち春から1年生だろ?ピカピカの小学生になるよね?」
うん、うん……。
「小学生ともなれば、ボクたちはおにーさんおねーさんになると思うんだ。」
芽林が「そうだよね!めりんのランドセル姿楽しみにしててね!入学式当日まで一般公開しないから!モチロンこれは幼馴染みであるアルトくんとて例外ではありませぬ!お洋服もね?それはそれは可愛いんだから~!もうすでに大人なめりんは幼稚園の制服には飽き飽きしていたところです!めりんちゃんはもう赤ちゃんじゃないんだからね!」と、カニさんWピース少女が鼻息荒く顔を近付けてくる。
「良かった。わかってくれて…」と歩兎が少し体を離して固い表情で微笑みながら言う。
「じゃあめりんちゃん。小学生になったら一緒にお風呂入るの、もうやめにしようね?」
……………。
……………。
「はいぃ?????!」と芽林が叫んだ。
「ど、ど、ど、ど、どーして急に、そうなるの?今までの話とお風呂がどー繋がってるの??」と彼女はガシッ!と幼馴染みの少年の肩を掴んだ。
「…痛いよ、めりんちゃん。ほら、よく考えて?…銭湯は基本、男湯と女湯に分かれてるでしょ?だからボクらもそろそろ…」「いやいやいや、イミ分かんないよ??だって私達、幼馴染みだよ??」「…いや、幼馴染みだからなんだって言うの…」と歩兎が肩を掴んでいた少女の手を振り払いながら言った。
「あとさ、1本のジュースを分け合うのも、もうなしにしない?もうボク、それじゃ足りないから。」
「なんで??めりんが何かした??!いきなりひどいよウワァァァァァァァァン」
カニさんWピース少女が口をアメーバの形にして泣き叫ぶ。
「うわ?!な、泣かないでよ、めりんちゃん……」ポカポカポカ……とグーで彼の胸を叩いてくる幼馴染みに、歩兎はすぐに根負けして「……分かったよ、分かった!お風呂もジュースも今まで通りでいいから!だからそんなにぶたないで!?」と言って、降り注ぐ攻撃から自分の頭を守った。
「お、お詫びに今日はお風呂でシャボン玉水鉄砲をするから!!もう許して!ぶたないでよ……」と歩兎はやがてうずくまり、
芽林は、彼のお饅頭のように丸まった背中に馬乗りになって髪を引っ張りながら「じゃあ許す!でも今日はめりんが水鉄砲だからね!分かった??」と言った。
「分かった分かった……」
そう言いながら歩兎は、……あの水遊びの後は、お風呂の壁が石鹸だらけになって翌日の掃除が大変になるから、なるべくやりたくないんだけどな……でも、めりんちゃんが喜ぶからなあ……と考えていた。
―――――――――――――――
浴槽の縁に登り、壁に背をつけた芽林が、足をM字に開いて楽しそうに水鉄砲を構えている。
歩兎はが口に咥えたストローからシャボン玉を連発で発射し、少女が「もっと大きいの作って!」と桃色の頬っぺをして怒鳴ると、
ポワワン………と大きな歪んだ玉が宙に放たれ、それ目掛けて下手っぴな射撃が何発か飛んでいった。
「惜しい!」と歩兎は言い、次は少女の正面を狙ってシャボン玉を吹く。
「キャーーー」と芽林は嬉そうな悲鳴を上げ、彼の顔にびしゃ、びしゃ、びしゃぁぁ!!と水を浴びせかけた。
「ケホケホ……」とむせる幼馴染みを見て、彼女はキャッキャッと興奮して笑い、彼の体のあちこちに水鉄砲を当ててくる。
「やったな??」と歩兎が逆襲に転じ、芽林のピストルを奪うと、意図せず彼は目の前にあったお的の中心にお湯を命中させてしまった。
「いひゃあぁああぁぁ!??」という変な叫び声が浴室の壁に反響し、「そっちこそやったな~~~?」と桃色の体が彼の上に覆い被さってきて、びたぁぁぁ…と抱き付いてくるのだった………。
***************
「アルト……ちょっといい?」
幼い頃は、ちょこん♡としたカニさんWピースでしかなかった彼女の髪は今や長く伸び、少し大人びた顔付きになった少女、高幡 芽林が、目の前にある少年の顔を見つめながら言う。
「……大事な話があるの。」
「…………いや、それ以前に……俺の部屋でナニやってんの?」と小林 歩兎が呟く。
芽林はその言葉を無視して、2つ結びした長い髪を歩兎の顔の上に垂らしながら「……春から中学生になるにあたって……ハッキリさせておきたいことがあるの」と付け加えた。
「……いや、その前にこの状況はなんなのか説明してよ……?」
布団を被ったままベッドに横になる歩兎の体の上に、少女は全体重をかけて跨がっており、「……え?モチロン『おはようのお部屋訪問」よ……」と、何言ってるの?と言わんばかりの表情で返事をした。
「……そうか。…いつも寝坊しているお前がよく起きてこられたな…」と少年が冷静にコメントする。
「ええ。これは春からの学校生活に向けての予行演習よ。正直、昨夜は一睡もしてないわ。寝たら起きれないと思って……」
「いや、それじゃ駄目だろ……」そう言いながら歩兎は慎重に、寝ている間に硬くなった体を気付かれないよう横にずらそうとした。
「なにモゾモゾしてるの?」「……いや、ちょっと……」「 ?」
続けて芽林は「と、に、か、く」と言った。「春から中学生になるにあたって、私たち幼馴染みの関係性をハッキリさせておこうと思って。」「お、おう……」と歩兎は答え、意思に反して反応する体を何とか誤魔化そうと軽くお尻を下に引いた。
「……アルト……、アナタ骨っぽいわね。」と柔らかいお腹の少女が言った。
少年は「い、いいから何の用だ?早く言ってくれ。」と居心地が悪そうな様子で言う。
「伝えたいことを言ったら行くから。少しは黙ってめりんの話を聞いてなさい。」と芽林が言いながら腰を少しずらす。「いや、待て今動かすと……」と歩兎が慌てて言うが、
今まで上から押さえていた重しがなくなり、より血の通った温かい人間となった彼は、素早く手を滑り込ませて、それをおへそに向けて裏返した。
「この際ハッキリとさせておくから。」と全く気付いた様子のない芽林が言う。「中学生になるからには、今まで通りノホホンと幼馴染みムーヴを続けるわけにはいかないからね!」「お、おう……」
「小学生生活を通して、私たちは失敗したわよね?憶えてる?めりん達は学年公認の幼馴染みとして学校中に認識されたことにより、日々、クラスメイトや先生からもからかわれ、事あるごとに恥ずかしい思いをしたでしょ?」と、拳をギュッと握り天井を見上げた高幡 芽林は力強く主張する。
「その失敗を繰り返しちゃダメよ?アルト聞いてる??」「ああ…聞いてる……」
「今後中学校では私たちは他人!た、に、ん、だからね??て言うか通学路から他人よ??小学校の時みたく手を繋いで登校とかあり得ないからね?!」
「……で、今のこれは何なんだ……」と、ようやく落ち着いてきた愛妻団地にホッとしながら歩兎は言った。
「だ、か、ら!Don't Can鈍感!つまり幼馴染みムーヴはプライベートだけにしよう…って言ってるの!この世界、一歩出れば外は敵だらけよ!外では名前呼びも禁止!必ず苗字で呼ぶこと!アルトは私のことを『さん』付けで呼んで!教室で顔を合わせても間違っても微笑んだりしないこと!最近アナタ、イケメンになってきてるからね??注意して!」
「いや、中学で同じクラスになるかどうか、 まだ分からないだろ……」と歩兎が言うと、
「え、」と少女の顔がさっ……と青ざめた。
「ちょ、ちょっと……そんな怖いこと言わないでよ……5、6年の時、別々なクラスだった地獄の日々を忘れたの……」「……今、お前、顔を合わせない利点について話してなかったか?」「それとこれとは別!一緒のクラスじゃないなんてイヤよ!同じ委員会ってだけじゃイヤ!放課後まで待てないよウワァァァァァァァァン!」
「な、泣くなよ……」と少年は、いまだ自分の上に跨がった少女を見上げ、……そろそろ降りてくれないかな……と考えていた。
「だいたい今日は日曜日だぞ。もう少しこのまま寝ていたかったのに……」と歩兎が口の中でぶつくさと言う。
しゃくりを上げる幼馴染みの少女が、「…ひっく……わちゃしだって…ひっく…もう少しこのままでいたいよ……離ればなれはイヤ……」と言って手首を使って涙袋にこぼれてくる大粒の涙を拭く。
「いや、そうじゃなくて……」
やがて少女は疲れたのか、と言うか寝不足のせいだと思うが、肩をがっくりと落とし、彼の横に崩れるようにして体を横たえた。
「おい!ここで寝るなよ!」と歩兎が怒鳴るが、彼女はすでにスピー……と寝息を立て始めていた。
「おい……」と、普段着の白いパーカーを着た芽林の肩を揺すり、彼はゆっくりとベッドから這い出してきた。
「……ったく。」と彼は独り言を呟き、勉強机の方へノロノロと避難する。
……母さんは無用心にコイツを家に上げすぎだよ……。めりんがこんな風に育ったのはうちの親のせいでもある。やれやれ………。
彼は椅子に座り、いったんは参考書を開いたが、思い直して立ち上がり、芽林の体に水色のタオルケットを掛けてやった。
……何のかんの言って、お風呂を別々に出来たのは3年生からだったな……。ホント、俺は、めりんのことが心配だよ。危機感がないと言うか…幼いと言うか……。男に騙されないかキチンと俺が見ていてやらないと……。小さい頃から見慣れていて、実感がわかないけどさ…他の男子はめりんが結構美人だって言うし……。コイツ、そういうとこ自覚があるのか?ホント危なっかしいよな。
芽林が(むにゅにゅにゅ……)と口を動かし、寝返りをうって歩兎の枕に顔をうずめると、「ありゅとのにおい……」と寝言を言った。「おい、涎を垂らすなよ」と彼は聞かせるつもりのない注意を虚しく空気中に吐き出す。
「じゅるるるる……」
……駄目か……。午後は枕カバーを洗濯しよう。
歩兎は芝居がかった様子で大袈裟に頭を振って立ち上がり、そぉっと音を立てないようにして部屋を出ていった。
―――――――――――――――――
「そろそろ、めりんちゃんを起こしてきなさいよ」
と母親が言うのを聞いて、小林 歩兎は家電カタログから目を上げ、最新の洗濯機のページに折れ目を入れてから閉じた。
「……ああ、もうこんな時間か。」と彼は首をコキコキとさせて肩を揉み、「もう勝手にめりんを家に上げるなよ」と言いながら、ニヤニヤとする母親をダイニングに残して廊下へと出ていった。
そしてギシギシギシ……と2階への階段を登り、自分の部屋の扉の前で深呼吸をすると、一度ノックをして反応を待った。
……無音。
もう一度ノック。「おい、入るぞ?いつまで寝てるんだ?」ガチャリ。
まだ遮光カーテンをかけたままの部屋は暗く、彼のベッドの中央で山になったタオルケットにくるまって、少女が寝息を立てているのが確認出来た。
「そろそろ起きろよ?」と歩兎は言いながら、部屋がむわん……と女臭くなっているのを感じていた。
……早く換気して掃除がしたい……。なんかそこはかとなく涎臭いし……。
「おい、いい加減起きろよ?もう昼だぞ」丸まった背中をゆっさゆっさと揺すると、
「う~~~ん……」と芽林が体を捻りながらこちらを向く。寝汗で湿った背中に、歩兎は一瞬ギョッとして思わずベッド濡れていないか手のひらでサワサワと確かめていた。
………さすがに中学生にもなってそれはないか……。
「むにゃむにゃ……」
「もう充分寝ただろ?」
「……むにゃ………ありゅと……?」
「ああ、もう起きろよ。」
「………」「………」
ガバッ!!!
「な、な、なんでアルトがここにいるの??!」
「なんでって、ここは俺の……」
「ギャァァァァァァァァァァァァ??!!」
「お、おい??!」
「夜這い!ヤバい!さよならグッバイ!」と芽林は叫んで、枕を顔面に向かって投げつけてきた。
ボフ!!
……やっぱり涎臭い(涙)……。
「冷静になって??めりんちゃん?!」と言いながら枕を床に投げ捨てた歩兎は、ここが誰の部屋か分からせる為にカーテンをザッ!と開けた。
「う!」と言って、バンパイア少女が昼の光を浴びて眩しそうに目を細める。
「な、なによ?!昼だからといって言い逃れは出来ないわよ?!夜じゃなくても、これは立派な夜這いだかんね??」と彼女は言って…ポッと頬を赤らめた。
「よく見て!ここ、俺の部屋だから!!」
「………」「………」
「確かに……」と芽林は、タオルケットを体の前に抱えながら呟いた。
そして静かに衣服の乱れを見下ろすと、念のためチラッとスウェットのズボンの腰ゴムを引っ張り無事を確認すると
「……責任取ってね♡」と恥ずかしそうに上目遣いで言った。
*****************
やがて訪れた入学式当日。
幼馴染みの少年に中学校の制服姿をお披露目した高幡 芽林は、
「吐きそう……」と言って青白い顔をこちらに向けた。
「大丈夫?」と皺ひとつないブレザー姿が凛々しい小林 歩兎が心配そうに声をかける。今日の彼は前髪を上に上げ、いつも清潔にしているニキビのない額を惜しげもなく見せつけながら、賢そうな目を、俯く少女の頭頂の分け目に注いでいる。
「……同じクラスになれなかったら……どうしよう……」と長い髪を2つ結びにした芽林がすでに涙目になりながら震える声で言う。
「…いや、別にいいんじゃないか。だって俺達、外に出たら他人の振りをするんだろ?」
「………」
「うん。分かってる。……ねえアルト」
「なあに?」
「お願いがあるの……」
「ん?」
「外の世界で一人ぼっちになっても、勇気が無くならないように………めりんに何かアルトの持ち物をちょうだい。御守りにしたいの。」
「な、なにをだよ……」と歩兎は一抹の嫌な予感を感じながら一歩後ろに身を引いた。
「第2ボタンをちょうだい。」
「……いや、今日は入学式だって…。いきなりボタンを取られたら困るし、だいたいうちは詰め襟じゃないでしょ……何言ってんの。」
「じゃあ他の物でもいいよ…(ぶうぅぅ…)。そうだ!交換出来るものがいいな!お互いの物を身に付けていれば離ればなれでも安心だし!」
「……う~ん。」と歩兎が胸の前で腕を組みながら首を傾げた。「そんなものあるか?……考えてみると男と女で入れ替えられる持ち物なんてないよね……。男物はさ、女子が使っても違和感ない物が多いけど、女物はだいたいが女子専用のデザインになってるのが多いよね。」
「そ、そんなこと言わないで……見えない物なら良くない?例えばパ、パソシとか……」
「はあ???」
「いいでしょ?今、アルトが言った通り、男子がレース柄のハンカチとか使ってたら…確かに変だけど…、パソシなら分かんないでしょ?」「お、俺に女物を履けと………」
「バレないよ。男子はズボンだし、女子は例え見られてもペチパソシかと思われるだろうし。」
「いや、そういう問題か?」と歩兎は更に後退りして、部屋の壁に背中をぶつけた。
「幼馴染みだし、構わないでしょ?めりんはアルトと一緒の洗濯機で洗っても構わないし。そういうの全然平気な人だから。」
と、ロングWピースのヘビースモーカーズ女子が、スカートにモザイクをかけながら言った。「いや、まあ、そりゃ俺もそういうの気にしない方だけどさ……」「履いてくれないとこの場で吐くわよ。オエ♡」
「いや、待て待て……つーか履くのか吐かないのかどっちだ?し、しかし俺にだってプライドがある。……ちなみに今履いてるのはどんなデザインなんだ?……俺は黒のボクサーパソシだが、結構ブリーフ寄りのピッタリとしたデザインだから、これはお前が履いても脱げることはないだろう。しかし、その……女子のを俺が履いたら逆にピッチピッチになったりしないか?よくめりんのうちの洗濯を手伝ってるから、見たことあるぞ?今日はあれらのうちのどれを履いているんだ?パステルピンクのか?マメイロクロズミのやつか?チョコミント寄りのアンナチャ☆チャ☆のやつか?」と歩兎が言う。彼はそろそろ壁にある時計の時間を気にし始めていた。
「……ふふふ。今日はそのどれでもないわ……今日は入学式。そう。めりんはこのおめでたい日の為に勝負パソシを用意しておいたの。……見る?」と言って芽林は赤い顔をして、ガバッ!と制服のスカートをお腹まで捲り上げた。
「………いや、勝負パソシならめりんが履いてないと駄目でしょ……。それを俺に履かせてどうするの?」
と、少年は冷徹な瞳で、幼馴染みが見せびらかす紫色のラソヅェリーの、上品なサテンのような光沢を見つめていた。
「確かにそうね……」と言って芽林はスカートを元に戻す。
難しい顔をして考えていた歩兎が、「あ、じゃあさ、こうしない?御守りそのものを交換しないか?」とポン!と手のひらで拳を打ち付けて言った。「小学校の道徳の時間に習っただろ?戦争に行く兵士の御守りに毛を入れたら撃たれないって。」
…………。
芽林は「……ごめんなさい。それは出来ないわ……」と悲しそうに言った。「……それにそのお呪いは、諸事情の生娘は『まだ玉に当たっていないから』『弾に当たらない』という語呂合わせからきてるんだよ?つまりアルトのオケケをめりんの御守りに入れたからといって効果はないわ……女子は保健体育でその辺りのことをしっかり習うの。男子は知らなかったでしょ?」「そうか。めりんもさすがに毛を男子にあげるのは嫌だよな?悪かった。」と言って歩兎は頭を下げた。
「………いや、そうじゃないの……めりんには、あげられない理由があるの……。ごめんなさい。中学生にもなって不甲斐ないわ……ぐすん。」「いいって。」と言って歩兎は顔の前で手を振った。
「……でもさ、その語呂合わせみたいなのに効果があるのなら…、小6の後半から俺なんて常に玉串奉奠でご祈祷を出している状態だから、俺のオケケこそ厄除けになるかもよ?」と最近、より大人っぽくなってきた少年が言った。
「え?」と芽林が真っ赤な顔をして聞き返す。「……ア、アルトは……もう、その、そうなったの……?」「まあね。思えば3年生以来一緒にお風呂に入ってないしね、お互い色々と変わっただろうね?」
芽林は「………」と目を逸らし「変わらぬ思いもある……」と小さな声で言った。
唐突に歩兎が「めりんも髪を伸ばして随分と大人っぽくなったし、中学に入ったらモテるかもな?」と笑いながら言う。
「はあ???」と制服の少女の顔が限界突破して首の根元まで深紅に染まり、ほとんど怒ったように怒鳴り返した。
「あ、そろそろホントにヤバいよ。下で親も待ってるし、行こうか?」と少年が立ち上がる。
「待って待って!!」と顔中が汗でテカった芽林が両手を使って彼の手を引き戻す。
「ん?なに?早く…」「オ、オ、オ、オマモリチョウダイ!!」と少女は目をばってんにして叫んだ。
「……え、ま、まあいいけど……。めりんはくれないのに?」と、どこか納得いかないように歩兎は言った。
「そ、それはホントごめん!ない袖は振れないの!許して!」「?」と歩兎は顎に手を当てて考え込むような素振りをし、「ま、いっか……」と呟いた。
「じゃ、めりんの御守りを貸してよ。1本でいい?入れといてあげるから。」
「い、い、い、入れるとこ見ていい……?」
「……駄目に決まってるだろ……。先に部屋を出てて……。」「はい………」と芽林は残念そうに肩を落として、扉を開けてトボトボと出ていった。
―――――――――――――――プチ。
…………。
………。
……。
「中、開けてみちゃ駄目だよ?こういうのは開けると効果がなくなるから。」と迷信深い村人、小林 歩兎は、握った右手から御守りユラユラとをぶら下げながら言った。
芽林は「……ありがとう」と言ってそれを受け取り、「私、肌身離さず持ち歩くからね!……あとこれの御利益で、めりんにも弾よけが生えたら必ずお返しするね……」と言って、その小さな胸の中に大切そうに呪い袋を抱き締める。
母親が「アナタ達遅かったわね~?ナニしてたのよ~?」と、ニマニマ口を歪めながら尋ねてくるのを、歩兎は紳士的な表情でかわし、「さ!入学早々遅刻はマズいぞ!」と言って玄関で靴を履き始めた。
そして家の敷地を1歩出たところで振り返り、「ねえ、めりん?何のかんのでやっぱり同じクラスになれるといいよな?」と言うと、
制服の少女はツン!!と鼻を上に向けて「はあああ?なに私に話しかけてんだよ小林??言っとくけど私達は幼稚園から顔馴染みってだけでほぼ他人だかんね?」と言い放った。
「あら、アルト?アナタめりんちゃんと喧嘩したの?」と母親が驚いた顔をして言い、
歩兎は「……えーっと……多分、そういうことになるのかな?」と呟いた。
高幡 芽林はプイ!と道の反対側を向き、自分の母親と連れ立って中学校への道を歩いていく。
少女は御守りをブレザーの内ポケットに入れ、
……むふふふふふふ………と不気味な笑顔を浮かべて桜の咲く通学路を突き進んでいった。
小林 歩兎はそんな幼馴染みの背中を見て、
……後が厄介だから、マジで一緒のクラスになれるといいな……と心の底から思うのだった。
そのまま彼は桜並木を見上げ、爽やかな風の吹き渡る青い空と、舞い落ちるピンク色の花びらを目で追っていると思わず繁忙期になり、
ブルッと体を震わせた後ヤレヤレ……と自虐的に笑う。
そして彼はポケットに手を突っ込むと、中学生らしくダルそうに前屈みになって校門を目指したのだった。
面白かったですか?
初めてカレイドスコープ文学に触れた方に朗報!
先生には、他に完結済み長編2本と、中編1本、短編が10本もあります。そしてなんと!連載中の長編『因習村ラプソディー』が怒涛の展開を迎えております!
おおもしろいから、是非読んでみてね!




