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言葉の残り香は、キラキラ。【2000文字】

作者: 有梨束

学校の女子トイレに入ると、洗面器のところに黒いモヤがかかっていた。

「あ…」

私は周りに誰もいないことを確認してから、そのモヤを手でさっと撫でるようにした。

「言の葉よ、祓いたまえ」

そう唱えると、黒いモヤはたちまちと消えていくのだった。


今のは言葉の残り香みたいなものを、祓ったんだ。

言葉にも色があってね、悲しいことや怒りとかは、黒。

嬉しいやワクワクみたいな、そういう誰かが口に出した言葉は、白に見えるんだ。

これは小さい頃からで、うちはそういう家系らしい。

この能力は仕事にならないし、特に何かがあるわけじゃないから、基本放置。

まあ、私はモヤが見えると、埃が溜まっているなあって気持ちになっちゃって祓うんだけど。

そんなわけで、ただ言葉が見えているというだけなの。


「澪、あたし決めたよ!」

親友の麻咲ちゃんが、意気込んで報告してくる。

「何を?」

「筧先輩に告白する!」

「あれ、文化祭の時にするっていうのは?」

「先輩人気者だし、のんびりしてたら他に恋人できちゃうよなあ…って」

「いいね、応援する!」

「一緒についてきてくれる!?」

「近くで見てるよ」

「ええ〜っ、そばにいてよ〜」

泣きつく麻咲ちゃんを、まあまあと宥めていると、クラスの女子のヒソヒソ声が聞こえた。

「わざわざ教室で言うとか、牽制?」

「私告白しますアピールキツいって」

「筧先輩相手に、高望みじゃない?」

…黒だ。

黒いモヤが教室の床にボトボト落ちていくのが見える。

あんなに真っ黒なの、祓うの時間かかりそう…。

聞こえそうな感じで、言わなくてもいいのになぁ。

筧先輩と同じバスケ部の子か、…好きなんだろうなぁ、彼女も。

私は麻咲ちゃんを応援するけど、思いを受け取るのは筧先輩なんだから。

文句の前に、がんばったらいいじゃん、とは思う。

口にはしない。

それが、黒だと思うから。

麻咲ちゃんに「もう、DMでいいかな!?」と訊かれて、直接がいいよ、と答える。

告白は、きっと綺麗な白いモヤが見えるんだろう。

そう思うと、私まで少し楽しみだな。


放課後、みんながいなくなった教室に残って、さっきのを祓おうとしていた。

んー、濃いなぁ。

これ一回で祓えるかな。

祓いの言葉を言おうとした時、ガラッとドアが開いた。

「あ、いたのね」

「うん。三池さんも?」

「そう、忘れ物」

やってきたのは、麻咲ちゃんに不満を漏らしていたうち一人だった。

うーん、三池さんが帰ってからにしよう、祓うの。

そう思って、出ていくのを待っていたのだけれど、なぜか三池さんはこちらに来た。

「どうかした?」

「そっちこそ、私に言いたいことでもあるんじゃない?」

「え、ないけど…」

「さっき、私がここに立っていた時見てたでしょ、こっち」

…まあ、あんなにわかりやすく苛立ってたら、視界に入ると言いますか。

「いいのよ、別に。私も自分で性格悪いと思うもの」

三池さんから、黒色のモヤがふわふわと漂っていく。

怒っているというよりも、悲しげだった。

「そこまでは思ってないかな。告白しちゃえばいいのに、とは思ったけど」

「あっちの味方しなくていいわけ?」

「私は麻咲ちゃんを応援するよ」

「ははっ、何よ口ばっかり」

三池さんは眉を顰めて、こっちを見ることなく教室を出て行こうとした。

「…ありがと」

出る直前、ポツリと零したそれは、白かった。

「うん、がんばれ」

私はもういなくなった彼女に、そう言葉を残した。

私からも、白いモヤが出た。

「言の葉よ、祓いたまえ」

私は黒を祓えなかった。

自分から出た白だけを消した。


「い、行ってくるね」

「うん、がんばれ麻咲ちゃん!」

「ここにいてね…!」

「大丈夫、見てるから」

「…うんっ!」

結局先輩のことは呼び出して、今から麻咲ちゃんは告白しにいく。

泣き顔の麻咲ちゃんの背中を押す。

すごいよ、言えるってすごいんだから。

三池さんがあの後どうしたのかは、私は知らない。

喋ってないし、普段はグループも違うし。

もし三池さんが告白して上手くいっていたんだとしたら、麻咲ちゃんはきっと今日待ち合わせをしていない。

筧先輩は誠実な人だと私も思うから、麻咲ちゃんのことだって応援できる。

だから、三池さんは黒いモヤをたくさん噴き出した日があったのかもしれない。

それを想像すると、キュッとなる。

麻咲ちゃんがぎこちなく先輩に近づくと、立ち止まった。

これ、私が緊張しちゃうやつかも…!

「筧先輩好きです!付き合ってください!」

麻咲ちゃんの言葉と同時に、ブワアッと白いキラキラが舞った。

あたり一面、真っ白なキラキラ。

…ああ、これだから言葉にするって、素敵だよね。

たまに黒いモヤを見て、勝手に凹むことがある。

それ以上に、私は言葉の残り香が見えることが好きなの。

こんな瞬間が見られるから。

先輩の返事は私には聞こえなかったけど、白い湯気のようなものが浮かび上がったのは見えた。

「澪〜〜〜、うまくいったあ〜!」

「おめでとうー!」

キラキラは飛んで、私は麻咲ちゃんに向かって手を大きく広げた。



毎日投稿30日目。お読みくださりありがとうございました!

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