第1章
「....そう。....私悪役令嬢に生まれ変わったのね」
目を開けて見覚えのない景色。けれど鏡に映る私の姿は見たことのある姿だった。
真っ黒な長い髪に、赤の瞳。不健康な青白い顔。
「ユリアーナ様、本日の体調は如何でしょうか」
ユリアーナ。彼女は私が前世で読んでいた小説の悪役令嬢だった。王太子の婚約者でありながら、体の弱い彼女は王太子に滅多に会うことができず、学園で再会した際、彼には他の女ができていた。それも、私と同じ黒髪の女だった。
嫉妬に駆られたユリアーナは彼女に嫌がらせをしたが、最後には王太子の卒業パーティーで断罪され、幽閉を言い渡された。そしてその時ユリアーナは魔力を暴走させ、死んだのだ。
これが、私の読んだユリアーナの末路だった。
そして小説は新章に突入するはずだったのだが、私はそれを読むことはできなかった...。事故で。
「...体調...ね。サリー、私今いくつかしら?」
「?12歳になられました」
「そう。12歳...ね。サリー、私体調が思わしくないわ。今すぐにでも倒れそう」
12歳。私が王太子と婚約した年は11歳。ということはもう婚約もしていれば顔合わせも済ませてしまっている。このまま原作通りに進んでしまえば待っているのは死のみだ。
「えぇ!?大変!今すぐ主治医を呼んできます!」
そう言って部屋から飛び出そうとしたサリーを引き止める。
「待って。サリーはもし私が森の中でひっそりと暮らしたいと言ったらどうする?」
「え?森....ですか?...そうですね、空気は澄んでて体には良さそうですが、森にはたくさんの生物がいるので危ないとも思います」
「...そうよね。でもサリー、私ここの空気は私の体には合わないみたい。空気の綺麗な森で療養という名の隠居がしたいわ」
「ええ?それは以前お嬢様が王都から離れたくないと言って白紙になった話ではありませんか」
身に覚えのない話だったので驚くけれど、よくよく考えてみればユリアーナはただでさえ王太子に会えないのに王都から離れたら本当に会うことは無くなってしまうだろう。それが嫌で、ユリアーナはここから離れたくなかったのかもしれない。
でもそれは私ではなくユリアーナの話で、私は今すぐにでも離れたいのだ。
「そう。以前話が上がっていたのなら簡単ね」
そう言って私は両親に話をするため起き上がる。
「お嬢様!?体調が悪いのでしたらお休みください!」
普通に体調が悪いと言っていたのに起き上がる私にぎょっとしながら駆け寄ってきた彼女に私は、もう大丈夫になったと言い、食堂に案内をしてもらった。
「おはよう、ユリアーナ」
「おはようごさまいます、お父様、お母様」
食事をしていた2人に挨拶をして私も席につく。
そしてすぐに話を切り出した。
「お父様、お母様、私以前話していた療養の話、やっぱりそこに行きたいですの」
「あぁ、私の姉が隠居している森のことか。でも前は嫌だって言っていただろう?」
「気持ちが変わりました。お父様、どうか行かせていただけませんか?」
「....ふむ。.....まあ、そうだな。姉上に聞いてみるよ。」
そうして何度か体を壊しながらも私は返事を待った。季節は春から夏になった。そしてようやく手紙の返事が来た。
「来ていいそうだ」
そう言われ、私はやったと喜びを噛み締めた。
少し原作を変えることに成功した。そしてあとは私はあの学園に入学さえしなければいいのだ。
そうして胸を躍らせながら訪れた森はたくさんの小動物のいる綺麗な森だった。
「こんにちは」
森の中に小さく佇んだ可愛らしい家。その扉をコンコンすると中から綺麗な女性が出て来て私を見て言う。
「あら、まあ、ダリーにそっくり」
ダリーは父の名だ。
「ユリアーナと申します。本日よりお世話になります」
父の姉は結婚をしないと言って家を出たらしい。それからは森の中で隠居しているらしい。
「マリベルよ。よく来たわね。....そう、貴方...」
何かを呟くと彼女は私の腕を掴んで呪文を呟き目を閉じた。
「貴方、体が弱いんですって?...これは魔力回路がおかしくなっているせいね。感情が揺さぶられて魔力が放出される時に正常に回らないせいで体を壊す症状だわ」
「.....魔女...ですか?」
私がそう言うと彼女はニヤッとした。
この国には魔法がある。けれども誰もが持っているわけではなく貴重なものとされ、国から重宝された。聞こえはいいけれど、裏はそんなにいいものではない。重役に任され国に使われ自由はない。それが魔女の行き着く末路だ。だから平民はお金、地位の欲しさから魔法を自己申告する人が多いが、貴族は魔女の苦労を知っているため申告しない隠れ魔女の人もいる。
「そうよ。この国は魔女ってだけで五月蝿いから逃げ出してやったの」
「父も知らない様子でした」
「言ってないもの」
あっけらかんと言うけれど、それは父を信用していないのではなく、彼女なりの父への優しさだと私は感じた。魔女だと知られれば彼女は自由をなくし、父は嫌でも王家に従わなくてはならず、この人を探さなくてはならないし、下手すれば王家への忠誠を疑われかねない。ならば、ただの令嬢が家に嫌気を差して隠居したと言うことにした方がいいのだろう。
「....治りますか?私の体」
そう聞くと笑顔で頷かれた。
「私の細かいことするの得意なの」
そう言うと、彼女は私のお腹に手を当て、呪文を呟くと光を放たれた。
それから体が温かくなり、数分が経った頃、マリベルの手が私の体から離れた。
すると光は消え、体の温かさも消えた。
「ふぅ。なんとかなった。もう大丈夫。魔力を正常に流れるようにしたわ」
額の汗を拭いながら私にそう言った。
その言葉が本当ならまた一つ私は原作の話を変えたことになる。そしてこれは私が死ぬ原因となった魔力暴走を抑えてくれたと言うことでもある。...これは私死亡フラグが折れたのでは?と期待するほどの結果だ。
「本当ですか?もう私、健康ってことですか...?」
この体に入ってから数回体を壊した。体の節々が悲鳴をあげ、ビキビキと私の体にヒビが入るような痛みと、意識が朦朧とするほどの苦しい高熱を経験した。
それは私にとって苦しいことだった。これを死ぬまで何度も起こることだと思うと怖かった。
それがもう起こらない....?
「健康そのものよ。なんなら魔法も訓練すれば使えるわ」
そう言われて私は飛び上がった。
初めてこの世界に来て良かったと少しだけ感じた。
それから3年私は森でマリベル姉様と過ごした。
そして私はマリベル姉様から魔法を教わり、魔法が使えるようになった。
ただ一つ、どうしても呪文を言うことが恥ずかしかった私はなんと無詠唱魔術を使えるようになった。
これは私が前世で学んだ原理を知っていたからできることだった。マリベル姉様は元素などを知らずに感覚で魔法を使うため呪文を必要としたけれど、私は元素を知っていため水、炎、風、土、星、様々な魔法を無詠唱で使うことができるようになった。
それから私は森で魔法を使いながら生活した。
楽しかった。
この3年は。
父から手紙が届いた。学園へ通うようにと言うことだった。王妃になるには必要なことだと書かれていた。
一気に原作を思い出す。
一度少し前に体の弱さを理由に婚約破棄したいとも言ったこともあったけれど原作通りそれは通らなかったため、私はまだ王太子の婚約者という立場にある。
「....結局逃げられなさそうなのね....」
私は原作の通りになるしかない、そうどこかで感じていた。
だから一つ、賭けをした。
私の人生を賭けた、大きな、大きな賭けだ。
「マリベル姉様、私来月から学園に通うことになったため、王都に戻ることになりました」
そう伝え、私は3年ぶりに王都に戻って来た。
「....やっぱり空気が悪くて私の体には合わないわね」
前世も私は田舎育ちで都会の人の多さ、建物の多さ、澱んだ空気が苦手だった。
それから久しぶりに会う両親に向こうで元気に暮らしていたと一緒に食事しながらたくさんの話をした。勿論、魔法のことは秘密にして。
「とうとう来たのね、」
私は自分が断罪される場所を前に見上げた。
入り口前に噴水があり、私はその美しさに見惚れた。
「そう言えばこの小説はイラストレーターさんも天才だったな」
私は前世ではこの作品が大好きだった。原作も、絵も、好きだった。中でもこの噴水の挿絵の美しさは言葉に表せないほど神秘的だった。
「これが見られただけ、ここにきて良かったかもしれない」
そう言って私は校舎の中に入った。
そしてやはり原作通りに成長した王太子を見つけた。
隣には私と同じ黒髪の令嬢を連れて。
「あぁ、俺の婚約者じゃないか。体の方はどうだ?」
そう言って笑う王太子に私も笑って挨拶する。
「ご心配ありがとうございます。問題ございません。」
「ユリアーナ、少しでも体調が悪くなったら無理せずにな」
そう言うと王太子は私に手を伸ばすも、触れることはなく腕を下ろした。
そして1年後の王太子の卒業パーティーで私の断罪イベントがやってきた。
「ユリアーナ、お前はレアに嫌がらせをしてきたな。____よってユリアーナを幽閉に処する」
レアは例の彼女だ。
断じて私は彼女に原作のような嫌がらせをしてきたことはない。けれど、原作通りに話が進んでいく。
やはり、悪役令嬢は逃れられない運命だったか。と私は心の中で呟いた。
そして、私は魔力暴走を起こす______ふりをした。
「あぁあ"あ"ぁ"ー!!!」
火を燃やす。私の体を水で膜を張る。そうして私は自分の体を骨も残らず燃やし尽くした事にして、転移する。
そう。
あの森に戻ってきたのだ。
「あら、戻ってきたのね」
そういって笑うのはマリベル姉様。
「...賭けに、勝ちました」
そう言ってVサインをした私にマリベル姉様は
「髪の毛、ちょっと焦げ臭いわ」
と言って少しチリチリになった私の髪の毛を整えてくれた。
そして私は原作通りに終わり、第二の人生が始まると、逃げきれたと、信じ切っていた_____。
「.....ユリアーナ」
暗い部屋で男女が絡まり合った状態で男はつぶやいた。
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