大地震と龍神様
地面が大きく揺れた。
微震動から始まり、今も大きく揺れ続けている。
2回の衝撃とも言えそうな激震もあった。
〈またこの交差点!?〉〈言ってる場合?〉
立っていられなくなった響をソラが支え、落下物から庇う。
〈暗くなった!?
これじゃあ この世の終わりでしょっ!〉
〈響、落ち着いてよね。
何があってもボクが護るから。
狐儀様と理俱様のお話を思い出して。
周りをよく見て〉
〈そ、そうね……あ、ソラも避難誘導しないの?
ほら、声が聞こえてない?〉
大きな揺れが続く上に暗くなった為に人々は動けないままパニック状態に陥り、その叫び声で避難誘導の声は掻き消されてしまっていた。
〈サーロンは彩桜と一緒に飛行機に乗ってるから行けないよ〉
〈あ~、さっき言ってたね。
あれ? 明るい?〉仰ぎ見〈龍神様!?〉
〈うん。ドラグーナ様だね。
きっと彩桜達は内側からドラグーナ様を支えてるよ。
そろそろボク達も動こう。
ドラグーナ様が輝いてるから見え辛いけど、負の感情だらけで怨霊が増えてる〉
〈うわぁ……戦わないとね!〉立ち上がった。
〈たぶんドラグーナ様が揺れのパワーを吸収してるんだよ。
それに建物からの落下物も止めてる〉
〈うん、収まってきたよね〉御札を構えた。
〈わぁ♪ ホントに重力無視か時間が止まったかみたいになってる!〉
大地震に怯え、逃げたくても頭を抱えて踞るしか出来なかった人々には空に目を向ける余裕は皆無で、光に気付いたとしても空で輝いているのは陽だとしか思えていなかった。
しかし古風な狐や狸の和面を着けた学生や若者達の声が耳に届くと、揺れは既に収まっており、建物が崩壊しかけたまま止まっていると気付いていった。
そして天の輝きを仰ぎ見る者が増えていった。
〈ヒビキ、お面だけでマーズスタッフの忍者だと信じてくれるらしいよ。
忍者なら弱禍を膨らませないから祓い屋も忍者しようね♪〉
具現化面を渡した。
〈不思議なものよね~♪〉喜んで着けた。
〈あ、黄緑マーズ達だよ♪〉
〈メグルくんも走ってるね♪〉
〈バスも……輝竜さん家の白だね〉
〈うわ荒巻さんだぁ〉〈そうだね〉苦笑。
狐面の若そうな人達が建物から人を運び出してバスに乗せている。
黄緑マーズ達も背負って走る。
〈皆さんマーズを追って北に動き始めたから、もう大丈夫だね♪〉
と話しつつ、響は御札で怨霊の動きを封じ、ソラが浄破邪の剣で普通霊に戻して魂納袋に入れていた。
〈移動しよう〉〈向こうね♪〉瞬移♪
〈ヒビキ!?〉追って瞬移!
――〈ん?〉
〈瞬移したのに気づいてない?〉
〈ええっ!?〉
〈先に怨霊!〉〈そうね!〉
次々と怨霊を普通霊に戻して回収する。
其処此処で祓い屋達が怨霊と戦い、忍者や面を着けた者達が避難誘導していた。
戦い続けて暫く。
響が周りをキョロキョロ。
〈マーズって何人いるの?〉
〈ヒビキってば余裕なの?〉
〈多いな~と思って。ほら〉
〈確かにね……あ、神様達〉〈ええっ!?〉
〈サイオンジも忍者してる〉〈えええっ!?〉
遠くに居たので響が応援を頼んでいたが、気は感じるものの姿が見当たらないと思っていた。
そのサイオンジが名を出されたので来た。
当然、くノ一なトクと手を繋いでいる。
〈集中しろやぃ〉〈〈ですよねっ!〉〉
各々が怨霊と対峙する。
〈マーズは信頼されてるからよぉ、避難誘導に最適なんだぁよ。
それに瞬移も出来るからよぉ、渋滞も起こさねぇし、速いだろ~がよっ!〉
戦いながらの説明。
〈オイラもコッチに戻る迄は財閥グループ社員に紛れてたんだがよぉ、神様達が忍者してるのを見て最善だと思ったんだぁよ♪〉
〈そうだったのね♪ あっ!〉指差す!
〈ヒビキ、集中は?〉
〈だって雨! あの家だけ雨!〉
〈狐の嫁入りだ♪ ま、ただの消火だ〉
紫マーズが一瞬だけ姿を見せた。
〈御札にもある筈だぞ〉
〈えっ……えっと、、あったわ!〉
修行の成果で現れる幻尾は知識の倉庫。
急いで『狐の嫁入り』を探し出した。
〈大火事になる前に消してくれ〉〈はいっ!〉
そうして数時間。
べったり暗い曇り空は仄かに夕の色。
ようやく静かになったので、響はエィム専用の神呼びの鈴を鳴らした。
〈それじゃエィム、お願いね♪〉
街の結界の外に出た響は怨霊だった人魂が大勢 入っている魂納袋を手渡した。
〈うん。預かるよ〉水晶玉に込めた。
〈ん? 昇らないの?〉
〈今は……。
もっと明らかになったら、また社か稲荷堂で お師匠様から話して頂くよ〉
〈教会は?〉
〈どちらでも。でも今は無理だから〉
〈そ。でも、これからも渡していいのよね?〉
〈うん。預かるよ〉瞬移。
〈響、避難所に行ってみよう〉〈そうね〉
―◦―
東へ東へと移動しつつ忍者と一緒に救助と避難誘導をしていた力丸 ショウ モグは、今夜も稲荷堂の作業部屋で話があるかもと戻ってみた。
〈カケルだ……〉〈まさか ずっと寝てたの?〉
〈起きて~♪〉ゆさゆさ。
「ん? あ……そうか、もう夜なのか」
〈〈〈じゃなくて!〉〉〉
「ん?」首傾げ。「あ、夕方か」窓の色が。
〈地震にも気づかずに寝てたとか?〉
「・・・地震!? 奏は!?」
〈やっぱ馬鹿者だな〉〈探す~〉〈うん〉
〈落ち着け!! 何処に行く気だよ?〉
瞬移ではなく普通に部屋から出ようとしたカケルを力丸が押さえつけた。
「奏の所に決まってるだろ!」
〈何処に居るんだよ?〉
「あ……」〈見つけた~♪〉〈避難所~♪〉
〈連れてってやるよ〉〈〈行こ~♪〉〉瞬移。
――パーティションで囲まれた小ブース。
ドアには『居住ブース U01-021』のプレートが外側は勿論、内側にもある。
その中で奏と響が向かい合って話していた。
「奏っ」抱き締めっ!
「お兄、何処に居たのよ?」響が肩ツンツン。
〈作業部屋〉〈〈寝てた~♪〉〉「うっ……」
響だけでなく奏までもが呆れ視線をカケルに向けた時、ソラが戻った。
「あ、お兄だ」
「地震にも気づかずに寝てたんだって」
「ある意味、凄いよね」呆れ溜め息。
〈確かにな〉〈〈凄い凄い~♪〉〉
何も言い返せないカケルだった。
「夕食、少し早いけど貰って来たんだ。
この玉から出してね」
「物見水晶?」「綺麗ね」
「保護水晶だよ。
指を入れて、引き出すだけ」お手本。
「へぇ~♪」「あら……」やってみた。
「お姉ちゃん食べよ♪」
「そうね」ふふ♪
「犬用は緑玉なんだって」
器を具現化して玉を振るとカリカリフードが出てきた。
〈〈わ~い♪〉〉〈あ、ウマッ♪〉
「きりゅう動物病院のだからね♪」
水も別の器に注いで配った。
夕食を終えて寛いでいると、別のブースに居る奏と響の両親が様子を見に来た。
そこに遠くから地響きが伝わった。
不安気に両親と奏が崩落音が続いている街の方を向く。
『何事でもありません!
避難が完了して誰も居なくなったから、街の瓦礫が落ちているだけです!
マーズのヘンゲ龍がずっと保ってくださっていたんです!
復興はお任せください!
元よりも良い街にしますので!』
男性の声が通路を走り去った。
〈こんなに長い時間、落ちるのを止めてくれてたのね〉
〈それも世界中のをね〉
〈ヘンゲ龍って、ドラグーナ様よね?
輝竜さんって凄いよね〉
〈うん。だからボクの目標♪〉
〈お弁当も輝竜さんでしょ?
味が黒瑯さんとリーロンさんだもん〉
〈うん。備えてくれてたんだよ。
病院だけでなく発電所とかにも耐震装置を埋め込んでたから電気もスマホも使えてるんだよ〉
取り出して確認。
〈ホントだ……ちゃんとアンテナある〉
〈荒巻さん運転の白バスがアウトレットパークとは逆に曲がったのは見た?〉
〈うん。渋滞を避けたんじゃないの?〉
〈それもだけど、市民体育館が救護所になってるんだよ。
軽傷者とか持病のある人用のね。
重傷・重症者は総合病院か南陽病院へ。
黄緑マーズが時々総合病院に向かってたよ。
たぶん赤バス(輝竜家2号車)は南渡音行きになってたんじゃないかな?〉
〈輝竜さん、ホントに凄いね……〉
〈たぶん、だけどね。お兄が爆睡できたのも耐震装置のおかげだと思うよ〉
〈そっか~♪ でも お兄なら~♪〉
〈耐震装置がなくても起きないかもね♪〉
〈ねっ♪〉
そのカケルが慌てて出て行った。
「お姉ちゃん?」
「ご両親を探しに行くって」追い掛けた。
犬達はチラッと見たが、寝たフリ瞑想を続けた。
「それじゃあ部屋に戻るからな」
「ん♪ お互い無事で良かったね♪」
「そうだな。翔君ありがとう」
「え? ボクは何も……」
響の父がソラの耳に口を寄せた。
「マーズなんだろ?」
「あ……」
「それじゃあ早いけど、おやすみ」
「お義父さんこそ避難所を整えたりとか、お疲れ様です! おやすみなさい!」
〈バレちゃってたね~♪〉
〈そうだね。でも、どうしてなんだろ?〉
―◦―
「あなた?」
「うん。僕を現場から此処に運んでくれたマーズは翔君だろうからね」
ただの勘違いだった。
昼に揺れて夕方までのお話でした。
人世を保ったのはドラグーナ様だけではありませんが、とりあえず『ヘンゲ龍』で納得してもらえるので目立つ役目をドラグーナ様が担ったようです。
稲荷堂で作っていたのは耐震装置でした。
レストラン・ノワールドラコでは保護珠に食料を込めていたようです。
避難誘導をしていたのは彩桜の友人達。
避難所を整えたのは響の父が勤める栄基土木と白久のミツマル建設の社員達でしょう。
神様も人も可能な限り備えていたんです。




