災厄に備える勉強会④
狐儀と理俱が修正してもカケルの神力漏れは直りきらず、何度も寝落ちるので響が御札攻撃で叩き起こしていたが、明け方にはカケルが完全に神力尽きて何をしても起きなくなった。
【あれれ? にゃ~んか騒がしいと思ったら~】
現れた彩桜が浄治癒(強浄化+強治癒)で作業部屋を満たした。
【ありがとうございます彩桜様】疲労困憊。
【コイツ何か憑いてるのかぁ?】同じくだ。
【学校から帰ってでいい?】
【いいけどな】
【探偵団活動は終わったのですか?】
【解決した~♪ やっぱり災厄には無関係♪
でもねぇ……あ、コレも帰ってからねっ♪
だから今日は分身いらにゃいの~♪
毎日ありがとでしたっ♪】瞬移♪
【彩桜様、張り切っておられますが、今日は授業はありませんよ?】
【水泳大会 頑張るの~♪
これから犬のお散歩なの~♪】
【【僕も行く~♪】】【俺も走るからなっ!】
【来て来て~♪】
犬達は大喜びでサーロンがリードを持って待ってくれている勝手門へと瞬移した。
【響は?】【行かないのですか?】
【ずっと偽装してもらってたから……】
【この姿でしたね】偽装。
【わ……あっ! 行ってきます!】走った。
【兄様、授業が無いんならカケルの面倒を見てくれよ。
俺は死神もしないといけないんだからな】
【そうですか。
ですが私もレコーディングがありますので……桜華殿にお願いしましょう】
【そりゃいいなっ♪】
狐神の兄弟も作業部屋から離れた。
そしてまたまた赤虎の弟子達に発見され、炎に包まれて目覚めるカケルだった。
「まただ。ど~してなんだろなぁ……」
「集中力が散漫なのと神力漏れが繋がっているようね。
一点集中、今日はそれだけよ。
夕方迄これを音読していなさい。
ただし心話で。周囲に迷惑ですからね」
「お経!? 読めませんって!」
「力丸、読み仮名を」〈はいっ〉
そこでやっとカケルは気付いたのだが、とっくに犬達は爆走散歩から戻っていて瞑想していたのだった。
〈ったく、どこまで馬鹿者なんだよ〉
てってってっと来て、サッと紙を撫でると読み仮名が浮かび上がった。
〈他の邪魔にならないように桜華様にだけ向けた獣神秘話法で読むんだ。
今日中に暗記しろよ。お経じゃなくて術だからな〉
言うだけ言うと元の位置へ。瞑想再開。
【力丸が伝えた通りです。始めなさい】
【ええっと――】【ウルサイ!】
【お兄、話す相手 絞れないの? 音量も。
トリノクス様に教えてもらったでしょ】
悩み中。いや、思い出し中か。
【ショウ、お願いできるかしら?】【は~い】
大神力持ちの大問題児を押し付けられてしまったと、心の中で頭を抱える桜華だった。
もしかして……これも超越者様の妨害かしら?
と、考えてしまう程に。
―◦―
ソラはサーロンとして楽しく水泳大会。
So-χのレコーディングは順調。
カケルの修行は……これだけは難航しているが、時が止まる事はないので昼になった。
響は昼休憩を利用して茶畑探偵事務所を訪れていた。
「彩桜クンは解決したって言ったんだけど……」
「あらあら。それじゃあ私達の収穫ナシも問題なさそうね」
「って、依頼先が見つからなかったの?」
「たぶん、なんだけどね、依頼していないと思うのよ」
「勘でしかないんだけどね。
依頼していないって証拠を掴むのは難しいから」
「そっか……捜す気がなかった……?」う~ん。
「実は居場所を知っていたのではないかしら?」
「妻子を先に逃がして、後で合流するつもりだったとか」
「そうね。落ち着いてから両親も迎えて」
「元通り、家族揃って平穏に暮らすつもりだった……のかもね」
「可能性、あるよね」う~ん……。
輝竜家に向かう道すがら、考え考え歩いていた響が大門から庭に入ると、稲荷堂の作業部屋が騒がしかった。
『またか』と怒りも覚えつつ足を向ける。
引戸を開けると案の定だった。
「もういいっ! 力丸も相手しない!
狐の女神様! お兄を封印してください!」
思わず叫んで御札を放った。
カケルが固まり、力丸が離れて伏せる。
怯えているモグの盾になっていたショウが響に近付いた。
【ヒビキ、イライラ?
止めてくれたの ありがと~だけど、落ち着いてね~】
赤虎の弟子達の盾になっていた桜華も来て微笑む。
【私達には見えない何かが潜んでいる可能性を考えて炙り出していたの。
でも暴れ過ぎよね。ありがとう。
お礼に御札を成す神力を引き上げるわね。
気を鎮めてね】
【あっ、はいっ】
強化は響の額と腕輪に手を翳しただけ。
すぐに終わった。
【よく修行しているから引き上げ易かったわ】
にっこり微笑んでカケルの方へ。
【あのっ、見えない何かって闇禍とか?】
【そうではないようね。
強いて言えば呪かしら?
人神の呪の多くは獣神には見えないのよ。
でも負の感情と共に、魂のオモテ面に浮かび上がったりもするの。
力丸は半狐半人神だから確かめてもらっていたのよ】
カケルに翳した手を頭から足へと動かした後、力丸の頭と背を撫でた。
【怪我は治したわ。
社を卒業してからも よく修行しているのね】
【はいっ! もっと頑張ります!】えへへ~♪
【ええっと、お兄は呪われてるんですか?】
【可能性は有るわね。
修行に集中できない、成果が蓄積しない、貯めようとしても神力が漏れてしまう……】
【なんかぁ俺の話みたくて……馬鹿者と同じはイヤなんですけどぉ】
【そうね。力丸や鮒丸と似ているわね。
全く同じなのかは分からないけれど、呪を受けているのは確かなようね】
【俺とサーロンただいまなの~♪
力丸 ショウ モグ大丈夫?】
声と共に2人分の軽やかな足音が駆けて来た。
バッと店側の襖が開いて双子みたいな少年達が犬達を抱き締めた。
【見ていたの?】
【うん。今日、授業なくて水泳大会だったから。
桜華様またカッコつけ中?】
【真面目に調べていただけよ!
時間が無いのでしょう?】
【そぉでした~】
今度はカケルの心音を確かめるかのように胸に耳を当てた。
【コッチも魔女の置き土産だねぇ。
ショウと飛翔父ちゃんには絡んでないのにねぇ】
【解けるの?】
【やってみる~んるん♪
サーロンお手伝い浄化お願いねっ♪
響お姉ちゃん、レコーディングは?
後で説明するからねっ♪】
【そ、そうねっ!】走った。
響は真剣に演奏しつつも休符になると考えを巡らせていた。
オヤツが届いて休憩に入ったので、食べながら考えの方に集中する。
磯前さん家のも、お兄のも
魔女の置き土産なのね?
魔女って理子叔母さんにも憑いてたのよね?
じゃあ お兄を呪ったのは理子叔母さん?
可能性は十分よね。時々ショウを撫でてたから。
でも お兄だけが呪われたのは?
まだヤンチャなチビッ子お兄だった頃?
でも、お兄が目覚めたのは3月で
魔女がオモテに出たのは5月だったよね。
もしかして! お兄の昼寝って
眠り修行じゃなくて、ただ寝てたとか!?
理子叔母さんが撫でてた時って
ショウが丸ごと寝てた時だけよね。
ショウも逃げちゃうから。
眠り修行な神様達と飛翔さんとショウには
かけられずに、お兄だけは……きっとそうね!
磯前さんの方は? 叔母さんは無関係よね。
でも他にも魔女は憑いてたよね。
その誰かが磯前さんを狙っていた?
何が目的で? 財産や地位じゃないよね。
皇帝とか社長じゃないんだから。
あ! 狙いは中に入ってた神様ね!
強引に抜き取ったのよね。その神様は?
いつ抜き取ったのかな? それに――
「お~い響、再開するぞ~」「あっ、はい!」
響のソロの録音データを確認中、作業部屋から歓喜が伝わった。
【解けたようですね】
ソラが微笑みを向けた。
【中渡音支部長ハイパースーパー彩桜クン……】
【連ねると凄いですね♪】ふふ♪
【あのっ、説明するする詐欺になりそうなくらい待たされてるんですけどっ!】
【それで苛立っていたのですか。
音にも出ておりますよ】
「響、まだ体調万全じゃないのか?
録り直しだとよ」
「うわ……」やっちゃったぁ。
【本当に説明しますので、音楽に集中してくださいね】
【はいっ!】
―◦―
その後はレコーディングに集中して夜。
響が稲荷堂の作業部屋に行くと、浮かんでいる小さな白狐姿の狐儀と理俱、その隣には薄紅色の狐の女神も大きさを合わせて浮かんでいた。
右側には犬達が並び、左側には彩桜とソラ。
部屋のまん中でカケルが寝ていた。
【お兄ってば……】
ソラの隣に座る。
【強制的に眠り修行をさせているだけですよ。
目覚めさせますね】
狐儀から光が飛び、カケルは目覚めた。
「うわ……なんで皆で見てるんだよ」
【馬鹿者、お話を伺う時間だ。座れよな】
【お兄てば暴れた記憶ナイの?】【ね~】
「あ~」座って力丸を睨んだ。
【挑発するよう指示したのは私よ。
呪に縛られていた自覚は?
それすらも無いのなら封じるわ】
「ん~~」首を傾げて暫し。
【いや、スッキリしましたから、呪と言われれば確かに、と思います。
話の続き、お願いします!】
【本当に解けたようね。
でも態度次第で いつでも封じられるのだから心してね。
敵神のように最も大切な者を封じるなんて悪どい事はしないけれどね】
【最も大切な? ……!!】
【そう。カケルなら奏ね。
そういう卑怯な事を躊躇なく行うのが魔なのよ】
【そんなの許せるかよ! マジで戦うからな!】
【その前に修行よ。知識を得るのも修行なの。
静かに聞きなさい】
【はい!】【どっちにしてもウルサイのかよ】
【コノッ――!】【お兄ウッサイ!】【ね~】
何の事はない――いえ、カケルにとっては一大事でしょうか。ダメっ子の原因は呪でした。
そんな騒がしい毎日の裏側で彩桜とサーロンは事件を解決したようです。
どちらも魔女オーガンディオーネの置き土産。
次は その話になるでしょう。




