すれ違う心
ザブダクルが ふらりゆらりとマディアの近くに飛んで来た。
「マディ――」「エーデ行こ」ぷいっ。
「マディア?
さっきは優しくしてたじゃないの?
もう反省しているのだから許してあげて?
マディアを元に戻すのにも倒れるくらい頑張ってくださったのよ?」
「そもそも酷い事したのはソッチでしょ」
「でも復興の為にも手を取り合う必要があるでしょう?
せっかく親しくなったのだから友達になったら?」
「親しく? エーデは見てなかったの?」
「封珠の外は何も見えなかったし、聞こえなかったのよ」
「そう……知らなくていいけど、とにかく今は無理だから。休みたいし」
エーデリリィの手を取って瞬移した。
「マディア……」
「今は、そっとしておいてあげてください。
僕も個神的には無理ですので。
ですが王としては未来に目を向けなければなりません。
貴方の事も考えます。
少し時間をください」
ティングレイスもユーチャリスの手を取って礼をしたまま瞬移した。
項垂れていたザブダクルがハッとして見回すと、獣神達は居なくなっていた。
「ま、それだけの事をしたんだ。
時が必要だろうねぇ。
オーロザウラがルサンティーナやお前さん達兄弟にした事、お前さんがマディア達にした事、各々が神世にした事をよ~く考えな。
今日は もういいから部屋に帰って休みな。
ほらほら泣くんじゃないよ。
獣神達は お前さんにも部屋をくれたんだ。
お前さんは破壊しようとしたのにねぇ。
まだ見捨てられちゃあいない。
挽回したいんなら今のうちだよ」
動こうとしないザブダクルの腕を掴んでアミュラも瞬移した。
―◦―
ルサンティーナをラピスリに頼んで、響はソラを連れて離れた。
「私だって恥ずかしいから夜のなんて見せないわよ。
一番いい思い出のキスを見せただけ」
「一番って?」
「どれだと思う?♪」
「あのねぇ」ムッ。
「こっちに来て最初の……♡」
「ボクが護るから……?」
「そう。
私ね、心に壁作るの得意だから~、無意識にソラにもカッコつけてたのよね。
祓い屋として先輩だし、生きてた長さもね。
常に前でないと、って思ってたの。
でも……ユーレイとしてはソラが先輩で、一生懸命 護ってくれるソラがカッコよくて。
惚れ直したキスだったから♡」
「そう、なんだ……」真っ赤っか~。
「だから、そんなに心配しないで?
少しは信用して?」
「うん」
「ねぇ、男としては、こういうのって?」
手を繋いで共有した。
「うっ……ボクは……あんまり……」
「ん?」
「こういうのが好きな人が居るのは知ってるけど……僕が響に、とか逆とか考えたくもないよ」
「そ♪ でも~」
「ん? 何?」
「どこで、どーやって知ったの?
生きてた間じゃないわよね?」
「えっ……いやソレはそのあのっ」アタフタ!
「お兄? ナンジョウさん?」
「違っ!」
「興味持って調べた?♪」
「違うからっ!!」「お~い」「あ……」
「飛んで火に入るユーレイね♪
お兄、白状なさい!
ソラに変なこと教えたでしょ!」
「イキナリ何だよっ!?」
「お兄のヘンタイ!!
お姉ちゃんにも言ってやる!!」
「ソラ! どーゆーコトだよっ!?」
「逃げるなソラ! お兄も!!」
〈俺はただギクシャクだらけだから手分けして前向かせに行かないか?
って言いに来ただけだっ!!
ナンなんだよっ!!〉
〈あ、そうね。動かないといけないわね〉
〈俺、ザブダクルんトコ行ってみるよ。
気になるから〉
〈サイオンジの部屋の近くらしいわよ〉
〈そっか。じゃあ聞いてみる〉
〈私とソラは王様に会うわね〉
〈イキナリ!?〉
〈難関でしょうから先にね。
アポだけでも取らないとね。
でも作業の後になるけどね〉
〈そっか。んじゃあ後でなっ〉
―◦―
カケルが案内された部屋に入ると、ザブダクルは踞って項垂れていたので、とても小さく見えた。
「失礼します。大丈夫ですか?」
「君は……さっきのユーレイ……?」
「カケルです。
さっきルサンティーナ様とマディア様に拒否られて落ち込んでるだろうなと思って来たんです。
少し話せたら、って思って」
「何を……?」
「俺の父は ただの人で、ただのサラリーマンです。
俺も生きてた頃は新人サラリーマンでした。
ユーレイになってからは響やソラに怒られっぱなしのダメなヤツです。
でも……ダメ息子なのに、いい親子関係だったなって思ったんです。
人として大事なことは、ちゃんと教えてくれてたし、愛情もあったなって。
こないだのと今日のでソレ気づけたんです。
だから、真っ先に言いたかったのは、ありがとうございます。なんです」
「礼なんぞ……」
「そうでしょうけどね。
でも、人として大切なことだと思うから礼は言わせてください。
その父の口癖が『態度は言葉よりも雄弁』なんです。
不言実行なんて言葉もありますけど、ソレとはチョイ違うんです。
言葉を重ねても言い尽くせない時とか、いい言葉が見つからない時とか、あと、言葉じゃ上っ面にしか聞こえなくて心が伝わらない時とかに、行動で誠意を示し続けていれば、ちゃんと伝わって心に響くって教えてくれたんです。
つまり、まだまだこれからチャンスはあるって言いたいんです」
「私には……もう……」
「ありますって。
諦めるとオシマイだけど、伝え続ければ ちゃんと伝わりますって。
俺、結婚前に死んだんです。交通事故で。
すんごい多重事故で逃げられなくて。
でも奏を諦めるなんてムリで……いろいろあって結婚できたんですよ。
生きてる奏とユーレイの俺が新婚なんです。
諦めずに、ルサンティーナ様にはこれから護りたい、護らせてって。
マディア様には ごめんなさいって態度で伝え続ければいいんですよ。
ルサンティーナ様は顔向けできないって言ってただけで、嫌いになったなんて、ちっとも言わなかったし、態度からも拾えなかったし。
逆に『好き』ならテンコ盛り拾ったし。
きっと、耐えて待つって約束が果たせなかったから飛び込めないだけなんだろうなって思うんです。
響は、もしもあの姿にされてソラに見られたら死ぬしかない、って言ってたからソレもあると思うけど、それって好きだからこそだろうし。
だからこそ、操られてた間の事はルサンティーナ様じゃないって分かってるって示さないとだし。
そっか。じゃあマディア様には、操ってた間のは自分だって示さないとだよな。
うん。
とにかく、今はまだ諦める時じゃない。
頑張る時なんですよ。
頑張って前向かないと、本当に見捨てられますよ?」
「既に私は見捨て――」
「られてませんって!
前に響が言ってたんです。
カラッと太陽みたいな響が泣いたんですよ。
響は小さい頃に神様の力が開いちゃって周りの皆に怖がられて、気味悪がられてイジメられてたらしいんです。
負けず嫌いだから何もかも勝ってやる!
って頑張ってホントに何でも1番になったみたいなんですよ。
でも、そしたらもっと怖がられて。
イジメるのもできなくなったヤツらは無視しやがったそうなんです。
響は、それでもう友達なんかいらない!
って壁作っちまって。
ソレ後悔して泣いたんです。
その壁、響自身は気づいてなくて、夫になったソラと、弟子になってくれた結ちゃんが気づかせてくれたって言ってたんです。
神様にエラソー言ってるって自覚ありますけど、言わせてください。
自分から壁作っちゃダメです。
ずっと両手広げて待ってないとダメなんですよ」
「壁なんぞ……私は作っておらぬ。
ルサンティーナとマディアの方が――」
「だ~か~らぁ、ソレですよソレ!
閉じ籠ってるじゃないですか!
確かにマディア様にはガッツリ嫌われたかもだけど、ルサンティーナ様は違います。
好きだけど飛び込めないとしか思えません。
だから諦めてメソメソして閉じ籠らないでください。
少なくとも俺達ユーレイは味方ですから独りで閉じ籠らないでください。
ここに来たのは俺だけですけど、仲間達はアッチコッチで話してるんです。
これからの神世が良くならないと人世だって良くなりませんから。
ザブダクル様は敵でも悪神でもなくなりましたし、これからの為に必要な神様ですから。
誰が何言っても、俺は そう思ってますから。
前向いて、その力を善く使ってください。
そしたらきっとルサンティーナ様と手を繋いで歩ける未来が来ますから」
「私に未来なんぞ……」
「ああもう鬱陶しいねぇ!
キレイサッパリ記憶を消してやるから おとなしくしてなっ!」
「えっ!?」
「――ってアミュラ様に言われますよ?」
「……確かに……」苦笑。
「ですから前を向いてください。
諦めないでください」
初めてカケルがマトモだ~。




