行方不明事件
「おばあちゃん♪」「あらあら~♪」
ソラと響が玄関に向かっていると、ちょうど祖母が出て来た。
「どうしたのかしら?」
「夏休みになったから顔出してみたんだ。
どこか行くの?」こんな暑い時間に?
「お隣にね、お昼を届けにね」
隣家には祖母より歳上の女性が一人暮らしをしているので世話をしているようだ。
「すぐ戻るから上がって待っててねぇ」
行ってしまった。
「こっちの隣は?」響が指す。
「空き家になったのかな?
住んでなさそうだよね。
2つ上のお兄さんが居たのにな」
寂しく思いながら祖母の家に入った。
犬達を庭に放して居間で待っていると、祖母は すぐに戻った。
「お昼は?」
「連絡してなかったから食べて来たよ。
おばあちゃんは食べてね」
「そうそう頂き物の水羊羹があったわねぇ。
デザートなら入るわよねぇ?」
「はい♪」「響ってばぁ」
「嬉しいわぁ。一緒にねぇ」
そうして一緒に食べて、近況を話して本題に。
「夏休みの間、一緒に居たいんだけどレコーディングとかもあって、お盆もどうなるか分からないんだ」
「そうなのね……でも仕方ないわよねぇ」
「だから分身で、どうかな?」
「分身?」ぱちくり。
「うん分身」分裂した。
「あらあらまあまぁ……」
「どっちもボクだから」「安心してね」
分身を8歳に戻してから12歳くらいに。
「生きてたら このくらいだよね。
この姿で。誰かに聞かれたら遠縁とでも言ってね」
「そうねぇ、そうねぇ……」
「泣かないでよ。毎日一緒に居るからね。
でも東京に戻ったら離れすぎて消えちゃうから、次は連休とかにね。
冬休みも春休みもいいかな?」
ただただ頷いている。
「遠縁だから、名前はシドで。
8歳のボクがソラだから歳上はシド♪
家の中なら どっちで呼んでもいいけどね♪」
「ソラシドねぇ」ふふ♪
「うん。覚え易いでしょ♪
隣のカジ兄ちゃんは?
これで久しぶりに遊べると思ったのに引っ越したの?」
「そうねぇ、カジちゃんは引っ越した、になるかしらねぇ」
ぽつりぽつりと話す祖母の話を纏めると、全ては1年半前にカジキの両親が離婚した事から始まったようだ。
母親に連れられてカジキは何処かへ。
全くの音信不通になったらしい。
父親は月に一度は息子に会える約束だったのだからと街に行って調査を依頼したらしいが全く消息が掴めず、費用が大きいので漁師よりも稼ぎの良い就職先を見付けたからと家を出たきりになったそうだ。
祖父母は息子と孫を心配するあまり病に臥せり、祖父が先に、追うように祖母が亡くなったのが6月だったそうだ。
【事件よね】
【でもユーレイ絡みか――】【調べましょ!】
【団長、どこから調べる気?】止めるのは諦めた。
【まずは茶畑探偵事務所でしょ♪】
【はいはい】心の内で溜め息。
―◦―
祖母宅で夕方まで過ごし、シドを残して帰路に着いた響とソラは茶畑探偵事務所に行って薫と暎に話した。
「昔ながらの郵便受けだったから家族の名前は書いてあったの」
書き写した紙を見せた。
当然ソラは隣家が『イサキ』なのは知っていたし、カジ兄ちゃんが『カジキ』なのも知っていたが、親の名の読みは彩桜に頼んで拾知(情報収集能力)してもらった。
「行方不明は この3人ね?
父親が磯前 勝士さん。
母親の旧姓は不明で沙由さん。
男の子は勝士喜君で13~15歳ね」
「よく読めたわね♪」
「それはソラの隣の家だから~」誤魔化した。
「幼かったのにシッカリ覚えてるなんて~♪「将来有望な探偵ねっ♪」」
具現化体なのに、なんだかムズ痒い。
―・―*―・―
その夜は薫と暎に父親が息子捜索を依頼した先を調べてほしいと頼んだだけにした。
筈なのだが、翌朝――
【響、ボクは彩桜と学校に行くから後で説明するけど、カジ兄ちゃんとオバサンは見つかったからね】
――とだけ言って、ソラは響との心話をオフにした。
「とんでもない起こし方よねっ」
ぷりぷりしつつも身支度を整えて姉の部屋をノック。
「お姉ちゃん、レコーディングの話、どうなったの?」
返事が無い。
何度かノックしてから神眼で確かめると、部屋には居なかった。
「昨日は早寝で今日は早起き?
じゃあ お兄は……アパートで寝てるね。
アレって眠り修行じゃなくて ただの睡眠よね?
ユーレイだって自覚すらもナイとか?
お姉ちゃん探さないとね~。
まずは輝竜さん家ね♪」
稲荷堂に行くもよし、スタジオに行くもよしだと出掛けた。
自由なユーレイ犬ショウは居なかったので、真面目に瞑想していた力丸とモグを連れて。
輝竜家に着くと、先に稲荷堂に入って若菜と話した。
「前から使ってた魂筆は予備にしてもいいんですけど、繭子お婆ちゃんが作ってくれた魂筆に合わせるとかってできますか?」
「見せてもらえるかしら?」
「はい」
「どちらも笹村さんが作ったものね。
少し待っていてね」
「はい♪」期待大♪
出してもらっていた修行スイーツのクリーム餡蜜を味わいながら待っていると、戻った若菜が笑顔で1本になった魂筆を差し出した。
「何か書いてみてもらえるかしら?」
「手に馴染む~♪ 試し書き♪」
浮かんだ妖秘紙に筆先を向けてサッと薙ぐ。
複雑な模様が浮かび上がった。
「快適です♪」
「笹村さんが心を込めて作ってくださったからよ。
これからも魂筆と仲良く、大切に使ってくださいね」
「はい♪」
次は庭を通って洋館へ。
放していたモグが駆け寄った。
〈ヒビキ~、あのヒト心配~〉
〈えっ、人?〉既に陽が高くて暑いのに?
庭に居るなんてと探していると、バスケコート近くのベンチに腰掛けている中学生くらいの男の子を見付けた。
目は開いているが、何も捉えていないかのように虚ろだった。
その男の子に小柄な女性が走り寄る。
「また外に居ったのか。
海は見えぬからの、後で連れて行ってしんぜよぅぞ」
そう宥めると手を引いて家の中へ。
〈ね、モグは誰なのか知ってるの?〉
〈知らな~い〉
〈夜遅くに彩桜とソラが連れて来たんだってよ。
此処の犬達もソレしか知らないって〉
力丸も来た。
〈じゃあ、あの子がカジキくん?〉
首を傾げたが、答えてくれる者は居ないのでアトリエのスタジオへ。
行くと、既にSo-χは集まっていて、誰かが化けているソラも居た。
【もしかして狐儀様?】
【その分身です】ニコッ。
うわあ~、ソラの笑顔カンペキだ~。
とか何とか思っていると視界が遮られた。
「響なら練習なんて軽くていいからな。
体調優先で休むのもアリ。
考えて動けよ?」
「リーダー……えっと、もう元気ですからっ」
ソラが遅刻理由を体調不良としてくれたのだろうと頭を下げた。
今日の集合時間、何時だったっけ?
ギターを調弦しつつ暫し考える。
あ~、8時半だった~。
すっかり忘れてた~。
時計をチラリ。10時ほんの少し前だった。
久々の探偵団活動に浮かれて、すっかり記憶の彼方になっていた。
【遅刻理由って何に?】
【昨日、張り切り過ぎて疲れたらしく起き上がれない、とだけですよ】
ぐだぐだ寝てたのを美化すると、そうなる?
「修正した楽譜な」
爽がギターケースの上に置いて行った。
「はいっ」あれ? お姉ちゃんは?
【隣のスタジオでメーア、青生様とご一緒に歌詞を詰めていらっしゃいますよ】
【よーし! 私も真剣に!
全力でやらないとねっ!】
【そうですね。
ですが……このシングルは災厄後となります。
そう、青生様と彩桜様が仰ったのです】
【え……あっ、でも『後』があるんですよね?
災厄で終わりじゃないなら全力で仕上げます!】
【そうですか。
彩桜様が仰った通りですね。
この曲は人世の復興を支えるものとなる、と。
全力で完成させましょう】
【もっちろん、です♪
あっ、リグーリ様にお願いしてた件は?】
【今宵から、で如何です?】
【はい♪ お願いします♪
狐儀様は庭に居た男の子、ご存知です?】
【はい。私が預かっておりますので。
母親も別件で保護しておりました。
母子共、同じ神を内包していたと考えておりますが、現状は痕跡のみ。
神が何方なのかも不明なのです。
意識が虚ろなのは、神を乱暴に抜き取った結果なのでしょう】
【記憶とかも?】
【はい。魂内は外からは探れない状態です。
おそらくは自身ですらも見えなくされているものと。
昨夜はマーズとしてライブ活動が御座いましたので深くは探れず、今宵、彩桜様がお調べになられると。
父親は見付かっておりませんのでね】
【じゃあソラはサーロンくんするのかな?】
【そうでしょうね。相棒ですのでね。
団長殿は如何に?】
【彩桜クンと相棒してるのがいいって、お兄が見捨てられそうなんですよね。
お姉ちゃん泣かせたくないから、私はお兄の監視役に徹します】
【そうですか】ふふっ♪
【どうして笑うんですかぁ?】
【それも彩桜様から聞いておりましたので】
【うわぁ、彩桜クンって……】
【中学校では『ハイパースーパー彩桜クン』と呼ばれておりますよ】ふふふ♪
【確かにハイパースーパーだわ……】
ソラの幼馴染みの行方不明事件は彩桜とサーロンが動いているようです。
響も探偵団したいんですけどね。




