解呪
「ザブダクル様……さような――」「具現化!」
声を上げたのは響だけだったが、ソラもカケルもルサンティーナに手を当てて強く具現化していた。
「早まるんじゃないよ、ルサンティーナ。
全て解くと言ったろ?
嬢ちゃん達、すこぶるいい動きだよ♪
さて、弟子達も揃ったことだし始めるよ」
アミュラの視線の先を追って見ると、マディアを身体に戻した辺りに真四獣神やドラグーナ達が戻っていた。
「ルサンティーナの話も聞いたし、カシスの記憶も見たからね。
術が決まったよ。
術毎に最適な唱者を指名するから、先ずは囲みな。
ユーレイ嬢ちゃん達、ルサンティーナを真ん中にね」
魔法円が現れる。
「はい♪」手を当てたまま運んで行く。
アミュラは大臣達の方を向いた。
「ほらほら皆、そろそろ顔を上げなよ。
人神も獣神も神力は同じだ。
アンタらも鍛えりゃ同じ事が出来るんだよ。
よ~く見ておきな」
そしてカシスを連れて魔法円を描いた場所に行った。
「まずは、まだルサンティーナの中で生きてる神達を出すよ。
喰らったとか言ったが、この娘は意識を封じられても滅さなかったんだ。
心が強い娘だよ。
ドラグーナ、ラピスリ。正面と対面だ。術はコレだ。頼んだよ。
娘と弟子達、分かってるね?」
「はい!」一斉。
「ザブダクル、アンタもコッチだよ。
禍も噴き出すからね、頼んだよ。
ローブを着けていないルサンティーナの近くじゃあ浄化も破邪も解呪術も使えやしないからね」
「わ、私が……? よろしいので……?」
「他に誰が居るんだい?
モグが言ったろ。
どんな神力だろうが善でも悪でもない。
使い方次第なんだよ」
「は、はいっ」
―◦―
「「――放玕呪縛!!」」
神魂と禍と呪が噴き出した。
アミュラの娘と弟子達が水晶玉を手に周囲を飛び交い、神魂と呪を込めていく。
禍はザブダクルが消していく。
小さな黒い何かが床に落ちた。
「ん? これは――」
摘まんで拾い上げたアミュラの指先に、水晶玉からの光が針となって集まった。
黒い小塊が弾け散り、その小さな塵にまで光針が刺さって全てを滅した。
「そうかい。どうしても怨みを晴らしたかったんだねぇ」
「アミュラ様、さっきのは?」
〈響、静かにしようよ〉〈でも~〉
「オーロザウラの残滓だよ。
ルサンティーナの炎だからねぇ、滅しきれずに取り込んでたんだよ。
無意識なままにねぇ。
その僅かに残ったオーロザウラに封じられてた神達の怒りがトドメを刺したんだ。
それじゃあ次は宙ぶらりんの絆を断つよ。
術は引き続きドラグーナとラピスリだ。
エーデリリィ、ユーチャリス。左右だよ」
各々に術を飛ばした。
術が始まるとアミュラは弟子達を集め、水晶玉を回収して2つの籠に分けた。
「呪はアンタ達に任せるから解いておくれ。
アタシは神達と話すからね」
籠を1つ持って離れた。
弟子達は各々に小さな魔法円を描き、中央に水晶玉を置いて詠唱を始めた。
「ユーレイ嬢ちゃん、ルサンティーナの姿が変わるだろうからね、その時その時で頼んだよ」
「は~い♪」
「犬達も遠慮せず手伝ってやんな」
ワン♪×3。
解呪が進むに連れ、ルサンティーナの姿が不安定に揺れたり、輪郭が崩れそうになったりする。
力丸とショウも具現化に加わる。
モグは身体中に散らばっている支配の残滓を消していった。
小さな小さな欠片まで慎重に、丁寧に。
浮かんでいるルサンティーナからゾロリと鎖のようなものが床へと生えた。
そして身体中を雁字搦めに縛っている鎖が浮き出、下に垂れた鎖と繋がっているのが見えるようになった。
〈ナンか……腐りきってボコボコになったワイヤーロープみたいだよな〉
カケルが床の鎖だけを神眼で見て顔を顰めた。
〈うん。でも朽ちても切れない粘り強さだけはあるみたいだね〉
ソラも嫌な腐呪鎖だと神眼で見ている。
〈ああ。シツコイ感じビシバシだよな。
ストーカー? そんな感じしないか?〉
〈そうだね。もしかしてオーロザウラってルサンティーナ様が好きだったのかな?
本当は何を考えていたのか知りたいね〉
〈だな。本当はフツーに夫婦したかったのかもしれないよな〉
〈あれ? 術が止まった?〉〈みたいだな〉
カケルとソラは、見られたくないだろうと考えたのもありで、目を閉じて具現化に集中していたが、当てている手に伝わる感触が変わったので少しだけ様子を窺った。
すると、岩のようだったルサンティーナの輪郭が揺れており、足の多い蜥蜴のような姿に変わっていった。
「「「「解放破縛!!」」」」
その変化を待って放った術光に包まれて朽ちた鎖が弾け散った。
打ち上げ花火の残光のように光の尾を引いて落ち消えていく。
ルサンティーナからも光が湧き、人らしい輪郭になった。
空かさず響がドレスを具現化する。
〈そうか。
さっき止まったのは、ルサンティーナ様が光を浴びても大丈夫な状態になるのを待っていたんだね〉
〈そっか。燃やすなんてできないよな〉
〈ドラグーナ様って凄いね〉
〈彩桜達、今どーなってるんだろな?〉
〈そうだね……〉
カケルとソラは穏やかに微笑んでいるドラグーナを見詰めた。
1つ目の連術が終わった。
「次はフェンラーグ、タートガイアが正面と対面。
ああ、ちょうど南と北だねぇ。
それじゃあエアラグーンとサンタイラーも東と西に頼むよ。
オーロザウラが最初にルサンティーナに喰わせ――いや、同化させたものはシャルダクルなんだ。
融合も進んでるし、呪とも絡んでる。
支配の核もソレだから、かなり厄介だ。
術は知ってるね? そうコレだよ。
続けてコレが最適だと思うんだが、どうだい?」
朱雀と光球をやり取りしている。
「更に続けて、この術は如何ですか?」
「いい術だ。
モグみたいに言うとアフターケアだね♪
やっておくれ」
「はい」中央を向いた。
「ユーレイ達、正念場だ。
ルサンティーナは不安定極まりないからね、気合い入れて具現化しておくれよ。
アンタらしか其処に入れないんだからね」
「「「「「「はい!」」」」」」
「あの……」
「なんだい? アンタ、宰相だったかね?」
「はい。
本当にユーレイが神世に?
何故、入る事が出来たのです?」
「あのユーレイ達は神力を持ってるんだよ。
ダグラナタンがしちまった事の副産物さ。
それと犬は王子だからね。
人と王子だから神力射もスルー。
入れて当然なんだよ。
あの子らは神世の救世主だよ。
人と神の中間的存在だからね、大活躍さ。
これから地下に閉じ込められてる神を助け出せるのもユーレイ達だけだ。
アンタらのヘナチョコ神力より、ず~~っと強いよ、あの子らはね」
「閉じ込められて?」
「ザブダクルが都やらを破壊した時に邪魔になる神達を地下に閉じ込めたんだよ。
そこそこ以上に強い神達をひとっからげに滅するなんて無理だからねぇ。
そこの4神、そうなんだろ?」
クラベルスが立ち上がる。
「はい。禍々しさを感じた一瞬後には地に引き込まれておりました。
上には蓋がされたように出られず、横に空間を拡げつつサティアタクス様と仲間を捜しました。
動いているうちに仲間を見つけ、サティアタクス様も見つけました。
脱出しようと掘り進めましたが、見えぬ壁に阻まれ、破壊も出来ず、困っていたところを助け出して頂けたのです」
「神には どうしようも出来ない障壁で都周りグルリと上下とを囲んでるんだよ。
やったザブダクルにすら、どうにもならないモンを作っちまったんだ。
ああそうか。
その王子達が助かってるし、蓋って事は誰も滅されてなさそうだねぇ」
「とは?」「それは?」「何故?」
宰相と大臣達は首を傾げ、王子達はポカ~ンとしている。
対して4兵士は理解したらしく、嬉しそうに頷いた。
「アンタら、政を担うんだろ?
もう支配なんか微塵も無いんだろ?
ちったぁ考えなっ」
少し待ったが誰も手を挙げないので立ったままだったクラベルスが話し始めた。
「マディア様は魂を封じられ、身体を操られながらも皆を助けたのですね?」
「そういう事だよ。
マディアは何も見えず聞こえやしない封珠の中で赤子にされ、身体はザブダクルの好き放題に使われちまってたが、それでも障壁の上部分だけは蓋にして、持ち上げられるようにしたんだよ。
つまり障壁を成した神力もマディアの神力だったんだろうねぇ。
ザブダクルは破壊の邪魔になりそうな神だけを封じようとしたんだろうけどね、マディアは全ての神を助けたんだよ。
夫婦で作り上げた理想の神エーデラークを操られるがままの悪神になんかしたくなかったのかねぇ。
それとも、ただただ助けたかったのかねぇ。
おかげでザブダクルも神殺しにならずに済んだねぇ。
マディアも強い子だねぇ……」
オーロザウラに好きに使われてしまったルサンティーナ様の身体を元に戻しているのを見ながら、ザブダクルに好きに使われてしまったマディアを思うアミュラ様。
いくら神の親子は似ているとは言え、と防げなかった事に悔し涙を浮かべていることでしょう。




