古の出来事
夜になり、ようやく懺悔が終わった。
「ルサンティーナ、言いたい事はあるかい?」
「えっ?」
項垂れていたザブダクルが顔を上げると、ルサンティーナが姿を見せた。
アミュラと並んで聞いていたのだった。
「あなた……」
悲し気な呼び掛けに続く言葉は発せられず、ルサンティーナは聞いていた者達の方を向いた。
「愚かな夫がしてしまった事は、言葉では償いきれるものではありません。
私の神力が尽きようとも、今の世に尽くさせて頂きます。
私共は古の者。
本来でしたら、とうに命を終えている者なのです。
それなのに……とんでもない事を……。
ザブダクルが、このような事をしてしまった原因は古の世にあります。
それも お話しさせて頂きます。
今の神世の『最果て』の向こうには、人神の地が在りました。
此方は獣神様の地でした。
人神の地には3大国と12の中小国が在り、私の母国サミル王国と、ザブダクルのカリュー王国は大国でした。
ザブダクルの父オーロザウラは神世の全てを手中に収めようとし、虐げる為だけに君臨しようとする悪王でした。
オーロザウラにとってはザブダクルも、その弟シャルダクルも、私も、悪逆な覇道を進む為の道具にしか過ぎなかったのです。
オーロザウラは他者から神力を得て強くなり、王と成ろうとしました。
神として許される事ではありません。
その為に呪われ、持っていた強い神力を封じられてしまったのです。
そこで、子に込めれば変化し、再び使う事が叶うだろうと考えたのです。
オーロザウラは強い女神を無理矢理に集め、生みかけの子に祝福を込めるよう強要しました。
そうすれば祝福ではなく、呪に近い何かを込めるだろうと目論んでの事でした。
その目論見通り、女神達は呪に極めて近い神力を込め、それらは相乗効果を起こしたのです。
ザブダクルには禍を自在に生み、操る操禍の神力を。シャルダクルには神をも操る支配の神力を込めておりました。
それらがオーロザウラの目論見通りに変化したのです。
オーロザウラは2つの神力を己が使いたいが為だけに子を育てました。
誤算は子供達が優しく賢かった事。
その為、意のままになりそうもない子供達を滅し、神力のみを奪おうとしたのです。
また、オーロザウラは己の妃として私をと父に申し付けたそうです。
ですが父は、あまりに幼いと断ったそうなのです。
すると今度は王子の妃にと……。
断る理由を見つけられなかった父は戦になる事を避ける為に受け入れざるを得なかったそうです。
オーロザウラが来るのは嫌なので、王子に迎えに来させる事を渡す条件として」
「そこにアタシが通りがかったんだね?
邪魔をして悪いけど補足させてもらうよ。
アタシは あの頃、月で暮らしていてね、禍を滅していたんだ。
禍の滝近くに在る転送道はアタシが作ったんだよ。
どうやらドラグーナが改良したみたいだけどねぇ。
強い浄化と破邪を地に込め、禍を封じて消えてくれりゃあいいが、消えなかったら転送するようにね。
だから あの地は『禍の墓所』だったんだ。
オーロザウラは神力と妃を奪う為に息子達を殺そうと、国境の山脈に禍をてんこ盛り放ったんだ。
ついでにアタシが現れるだろうと、隣国タタマトの都付近にも たんまりとね。
タタマトの方は弟子達に任せて、アタシは王子達を護ったんだ。
けど帰りまでは面倒見きれない。
オーロザウラは負の感情を爆発させるのなんて得意中の得意だ。
集めてた禍は山とタタマトに放っちまったから、何処にでも現れてくれと無差別に禍を生みまくってたんだよ
だから別の道をと言ったのに、アンタら谷の道を通ったろ。
シャルダクルは禍に包まれて、支配の神力はオーロザウラの手に。
神力を取り込んだけどねぇ、オーロザウラには使えなかったんだよ。
シャルダクル自身が必要だったんだ。
だから血眼でシャルダクルの欠片を探したんだが、そう簡単に見つかるもんじゃない。
だから探すのに専念しようと、一先ず譲位したんだ。
そうして見つかったからザブダクルが邪魔になった。
だから悪事をザブダクルの所為にして追い出したんだよ」
「シャルダクルを見つけたけれど小さ過ぎて再誕させられない。
私を護って命を落としたのだから命の欠片を分けろと言われました。
確かに私を迎えに来て、私を護って亡くなったので、私は欠片を渡しました。
その欠片を利用してオーロザウラは私と結婚の絆を結んだのです。
その後でシャルダクルを再誕させるのにも使い、私とシャルダクルも別の絆で結んで私の神力を好き勝手に使えるようにしたのです。
小さな小さな欠片から再誕したシャルダクルは長く意志の無い赤子でした。
オーロザウラの操り人形そのものとなったのです。
そして結婚の絆と支配の神力を使って私の魂を封じ、身体を操ったのです」
ルサンティーナはザブダクルを見た。
「オーロザウラは私の身体を邪魔になった神達の棺としました。
誘き出しては喰らわせたのです。
強い神達の神力を吸収した身体を使い、更に更にと悪行を重ねさせたのです。
そうしてザブダクルとシャルダクルの母でもある女神様方も……」
「ルサンティーナ様っ!」
カシスがルサンティーナに抱き着いた。
「言葉になさるのは、あまりにも!
ルサンティーナ様がなさった事ではありません!
なのにルサンティーナ様のお心が傷ついてしまいます!
私が! 私の記憶をご覧ください!
一瞬に纏めて流しますのでっ!」
聞いている者達へと沢山の光粒を放った!
ある者は頭を、またある者は口を、目を、胸や腹を押さえて踞るように身を低くしていった。
「カシス、ありがとう。
続けるわ。
喰われた神達は強き者ばかり。
当然ながら反撃としてオーロザウラに向けて呪を放ちました。
ですがオーロザウラは結婚の絆を使って全ての呪をこの身体に向けたのです。
カシスの記憶から、お分かりになりましたよね?
私の身体は醜く変貌したのです。
その上、陽の光や浄化の光を浴びれば焼け爛れるようにもなってしまったのです。
その後、取り込んだ神達は私の魂を見つけ、封印を解いてくださいました。
私は父に全てを話し、ザブダクルを保護してほしいとお願いしました。
そしてオーロザウラを追い、ザブダクルを追い詰めていた所に間に合ったのです。
私はオーロザウラを雷で串刺しにして城に戻りました。
オーロザウラが溜めていた禍や、他神から奪った神力を悪用しようと変えたものなどを全て取り込み、オーロザウラも取り込んで己を滅してしまうつもりでした。
ですがオーロザウラは夫。
私が唯一 滅する事が出来ない存在です。
それを取り込んだ私は、私をも滅する事が出来なくなってしまったのです……」
ルサンティーナは、またザブダクルに視線を向けた。
そうして暫く見詰めていたが、言葉は掛けずに視線を戻し、話を続けた。
「オーロザウラが私と結婚の絆を結んでいたと気づいたのは、その時でした。
それを悪用されていたと、やっと分かったのです。
取り込んだオーロザウラから記憶も流れ込んで参りました。
それで封じられていた間の事を知ったのです。
行き詰まってしまった私が気を取り直し、方法を思案している間にオーロザウラは、私の内で生き残り、共存していた神達を取り込んでいったのです。
そうして再び神力を得、私の身体を破って出たのです。
深手を負った私から遮光ローブを剥ぎ、神力封じの縄で縛って吊るし、
『これが極悪王妃ルサンティーナだ!
報いを受けた醜い姿を見よ!』と叫びながら飛び回りました。
昼間でしたので私の身体からは炎と煙が立ち昇りました。
オーロザウラは悶え苦しむ私を見て嘲笑しておりました。
飛び回りましたので、下の様子も目に入ったのです。
ザブダクルが逃げていて……様々な国の軍が追っておりました。
父はザブダクルを受け入れず、他国にも呼び掛けて追手を放ったのだと……。
そう思った瞬間、私の怒りや悲しみと身体から立ち昇る炎が ひとつとなってしまったのです。
私は……私を吊るして飛ぶオーロザウラを包むよう、炎を激しく高く上げました。
私自身では滅せなくても炎なら滅せるかもしれないと思ったのです。
燃え始めましたので、後は一気に……灰すらも残らないように燃やし尽くそうと炎を上げ続けました。
この男さえ燃え尽きてくれれば、私は『悪』と共に己を滅することができる。
やっと死ねると思いながら……。
そこまでは覚えているのですが……」
「意識を失ったルサンティーナは、人神の地を燃やし尽くしたんだよ。
己を滅そうとしたんだろうけどね、火口に飛び込んだら更に強い火力を得ちまって、剥き出しの怒りの炎塊となってねぇ」
「やはり……そうなのですね……」
「無意識だから止められやしないと、已む無く水晶に封じたけどねぇ。
人神の地は、もう易々と消せる状態じゃなくなってたんだよ。
ルサンティーナの怒りは、まだ あの地で燃えてるくらいなんだからねぇ」
「あの時……オーロザウラを連れてルサンティーナが消えた時、アミュラ様は追いましたよね?」
ザブダクルが縋るような視線をアミュラに向けた。
「ああ。追ったよ。
けどね、ルサンティーナに拒まれて、飛ばされちまったんだよ。
ルサンティーナは最強女神だからねぇ。
何処とも知れない宙で漂っていたアタシが、やっとこさ戻ったら火の海だったんだよ。
そもそもだ。
月から久し振りに戻ったら神世は酷い有り様だった。
禍が増えるのも当然だと納得したよ。
それよりも酷いのはルサンティーナの状態だった。
だからアタシはルサンティーナの中の神達に呼び掛けて、助けてくれと頼んだんだよ。
だから あの時アタシはルサンティーナに付き添ってたんだ」
「あなた……これを聞いてもなお私と共に、とは思えないでしょう?
私は――」
ファサッとローブが床に落ちた。
「――化け物なのですから」
赤と黒の斑模様が蠢いている、手足の無い、頭から胸まで程の大きさで縦長の岩のような塊が浮かんでいた。
頭に当たりそうな部分に目らしい赤い2つの点と、その下の横長の割れ目が、かろうじて顔らしさを呈している。
「ルサンティーナ!!」
ダッと床を蹴ったザブダクルがその塊を抱き締めて泣いた。
「どんな姿になろうともルサンティーナは私の妻だ。私の愛は変わらないよ」
「ありがとう、あなた……ですが私は『悪』を封じる棺なのです。
一緒になんて……居てはならないのです。
あなたは……私が愛したザブダクル様に戻ってくださったのですね。
あなたを封じる必要が無くなって良かった……。
ザブダクル様……さような――」「具現化!」
ルサンティーナ様からの古の話、そして今の姿。
消えたくなるのも頷けますが、できるなら幸せを掴み直してもらいたい。
そう思って動くユーレイ探偵団です。




