ジョーヌと心咲の結婚式②
キリュウ兄弟の友・龍神ジョーヌと、カケルの従姉・心咲との結婚披露宴は順調に進み、So-χの出番になった。
バンド紹介がアナウンスされる中、So-χメンバーとメーアは楽器をセットした後ろの扉から入ったが、キリュウ兄弟はフロアの丸テーブルから移動して来た。
フロア中が騒めいているが、メーアは後方のマイクに着く。
今日はコーラスと新曲のガイドボーカルに徹するつもりだ。
響と奏が祝辞を述べて曲に移る。
1曲目は響が『大好きだから一緒に歩こう』と込めた『想い』を歌い、2曲目で奏が沢山の『ありがとう』を綴っていく。
終わったかとフロア中が拍手しようと身構えたが、曲は再びサビ前の間奏に続き、響が歌い始めた。
『大好きだよ。大好きだよ。
重たい荷物が増えてしまっても、一緒だから持てる』
メロディも『想い』のサビのままだ。
奏が続ける。
『時の流れで想いは変わるものだとしても。
『ありがとう』を忘れなければ良い方向にしか変わらない』
こちらは『ありがとう』のサビ。
また響。
『大好きだよ。大好きだよ。
だから一緒に歩こうね』
そして奏。
『重たい荷物が増えてしまっても。
荷物を持つ手が増えていっても。
変わらず一緒に歩きましょう』
『大好きだよ。大好きだよ。
ずっと一緒に歩こうね』
『ありがとう。ありがとう。
大好きな『あなた』と一緒に歩きましょう。
『ずっとずっと寄り添って』』
各々が結婚しても仲良し姉妹は変わらないと歌っているのだが、この場では子供が増えていっても恋人だった頃と変わらず仲良く寄り添って生きていこう、に聞こえる。
暖かい拍手に姉妹が礼を返す。
その拍手が鳴り止まないまま、新郎新婦はお色直しの為に退場した。
―◦―
出番を終えた響とソラは、西海村のソラが育った家に向かっていた。
「西面さんと東面さんも来てたなんてね~」
この2人はSo-χが所属する十九音楽事務所のスカウトマンで、暫くはSo-χ担当者も兼ねている。
今はリーダー爽とマネージャー魁と向かい合ってレコーディングに関しての打ち合わせ中だ。
「輝竜さん達に見事に隠されてしまったね」
「とんでもなく忍者よね~♪
あ、お兄 忘れてた~♪」あはっ♪
犬達は後部座席で昼寝中。
「お義姉さんも居るし、ご両親と帰るでもいいよね。
最悪 彩桜が連れ帰ってくれるよ」
「ソラってば お兄ど~でもだ~♪」
「そうでもないんだけどね。
だからこそなのかな? 相棒なのに彩桜とは大違いで、危機感も全然で。
今朝も少しイライラしてしまったんだ」
「少しならいいんだけど、ユーレイなんだから怨霊化しないように気をつけてね?」
「うん、解ってる。
ただ……うん。またリグーリ様にお願いしてみるよ」
「何を?」【呼んだか?】「「ん?」」
神眼で探すと、車の屋根上に死神爺様。
【お兄に現状を話して頂きたいんです。
ボクでは話していい悪いの判断が難しいので】
【確かに、カケルは父様の神力持ちだからなぁ。
災厄が迫っているとすれば、戦力外のままって訳にはいかないよな。
兄様に相談して話す内容を決めるよ】
【ありがとうございます!】
【あの~、私も聞いていいですか?】
響は話に加わろうと、少し広くなっている場所に車を止めた。
【たぶん響は知ってる話だぞ?】
【おさらいと言うか~、整理したくて】
【そんなら店にカケルを連れて来てくれ。
俺は夜ならいつも作業部屋に居るからな】
【はい♪】【夜ならボクも】【僕達も~♪】
【あれ?】【起きてたの?】【うんっ♪】
ショウだけは起きていて、モグと力丸が縺れるように寝ている上に浮かんで尻尾を振っていた。
【来ていいのは犬達までな。
メグル達は呼ぶなよ? まだまだだからな】
【飛翔さんは?】
【漏れ無くトシが来るから呼ぶな。
飛翔には機を見て話すからな】
【はい♪】【解りました】【トシ兄ダメ?】
【アレは……龍神だと自覚するまでは戦力外だ】
【それにウッサイだけだし~♪】【そうだよね】
【あ~、だよねぇ】犬にまで苦笑される龍神。
【そんじゃあ俺は行くぞ】
【【は~い♪】】
【呼んでしまってスミマセン!】
リグーリは笑いながら昇った。
「もうすぐだから休憩おしまいね♪」発進♪
【それにしても神様って地獄耳ね♪】
【失礼なコト言ってたら聞こえるよ?】
【あ~、エィムとか?】【呼んだ?】「えっ!?」
【エィム様も近くに?】【居たよ。それで?】
【神様って名前出したら聞こえちゃうんですか?】
また車を止めた。
【大神ならね。中の上くらいから聞こえるかな?】
【エィムって?】
【上位職神。大神だよ】
【じゃあ、この鈴は?】チリン♪
【中位職神用だけど、それも聞こえるよ。
名を出せない時には鈴で呼んで。
それで何か用だったの?】
【ちょっと名前出しただけ~】【スミマセン!】
【そう。それならいいけど。
近くに大勢、神もユーレイも集まっているから、安易に名を出さないで。
聞こえたら僕のように来てしまうから】
【は~い】
【近く、って西岬山の保養所ですか?】
【そうだね。音神様の音色を聴くのも神力増強だから。
僕も昨日の回復の為に来たんだよ】
【え? 今も演奏?】【あ、してるよ】
【ええっ!? 世界のキリュウ兄弟がBGM!?】
神眼で確かめると、披露宴会場で楽しそうに生演奏していた。
【億……】
【まさか。友人への御祝いだとしているけど、これも災厄に備える為だよ。
大勢の神力を短時間で高められるからね。
それに今回は事前に許可を得たらしいから、5月のような騒ぎにはならない】
【5月?】【紗ちゃんのフルート発表会だよ】
【騒ぎ?】【後でね】【うん】
【それじゃあ僕も聴きたいから行くよ】
【はい♪】【ありがとうございました!】
エィムは薄く笑って保養所の方へ。
「ビックリしたぁ」また発進。
「それで騒ぎって?」
「あの時は受賞したばかりだったし、身内だけの演奏会だったから世界文化芸術機構に許可を得ないといけないとか考えていなかったそうなんだよね。
でも誤配信でバレてしまったんだ。
いい教訓になったってお兄さん達は言ってたけど、たとえチャリティーだろうが事前連絡しないといけないらしいね」
「何か、ペナルティとかあったの?」
「それは話してくれないんだ。
でも何度か平日に彩桜ヌキで外国に行ってたみたい。
もしもそれが無報酬で演奏するように求められたのなら、普通は大損だから罰金みたいなものだよね。
罰金も払ったのかもだけどね。
それとは別に、報道の方も騒いでいたのを鎮火しないといけなかったし。
フォレストにも押し寄せそうになってたのを遠ざけたりとか、発表会の次の日は大変だったみたいだよ」
「フォレストに? 誰が? どうして?」
「報道も、一般の人達も。
報道が過熱する前に対処したから、クラシックに興味のない人達はキリュウ兄弟を知らないまま『もう一度 聴くには?』と手がかりを求めてとか、マーズの中身じゃないかと確かめに、とかね。
あと、また食べたいからとか、美味しいと聞いたからとかもね。
So-χは誤配信でメジャーデビューに至れた。
それは確かなんだけど、その裏ではお兄さん達が動いてくれてたんだ。
自分達じゃなくボク達をアピールしてくれて、フォレストにも集まってくれて、サポートメンバーズだって……」
「もしかしてメーアさんも?」
「だと思うよ。本当に優しい人達だよね」
ソラの祖母が住む家の前に着いていた。
「じゃあ行ってくるよ」「私も行くからっ」
「うん、ありがと」「いつも一緒は当然!」
「ありがと♪ それじゃ一緒にね」「ん♪」
結婚披露宴よりは移動中のお話でしたが、今回も現状説明です。
主人公だった筈のカケルは、はたして活躍できるのでしょうか?
とっくにソラと響に主役を奪われていますから、もうど~でも~かな?
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第1話では説明しきれませんでしたので、ここで輝竜兄弟と翔兄弟について少々。
外伝ではお馴染みの登場人物ですが、本編では脇役なのにチョコチョコ出てきますので。
7分割堕神にされた龍神ドラグーナ様を魂内に持っている輝竜兄弟は、キリュウ夫妻としてクラシック界で有名な両親とは離れて暮らしている7人兄弟です。
長男から順に、金錦 白久 青生 黒瑯 紅火 藤慈 彩桜で、中学生の彩桜を除いて既婚者です。
育ての親は狐の男神のキツネ様と狐儀で、輝竜家にある稲荷堂はキツネ様が始めた祓い屋道具店です。
前年9月にクラシック界にデビューさせられた輝竜兄弟は『キリュウ兄弟』と呼ばれ、瞬く間に評価が高まり、出演料は億単位と言われるアンサンブルユニットになりました。
そんな兄弟が馬頭の被り物で顔を隠して白馬に跨がり演奏しながらの馬ダンスをした事から『馬頭雑技団』が誕生。
ドイツでのニューイヤーライブでも顔を隠してフリューゲルと共演したり、スノボ競技会でパフォーマンスしたりと認知度が急上昇。ついにはフリューゲル&マーズとして音楽ジャンル無差別級デビューしてしまったんです。
マーズは正体不明の音楽忍者ユニットとしてメンバーを増やして音楽活動をしつつ、魔化した神と戦っている集団です。
ソラもサーロンとして加わっています。
というところで翔兄弟です。
驪龍 颯龍 羽龍の3兄弟は輝竜兄弟のイトコという設定です。
リーロンはドラグーナの子オニキスで黒瑯の相棒です。
サーロンはソラで彩桜の相棒、ユーロンは5歳でユーレイになってしまった男の子で飛鳥の相棒です。
血の繋がりはなくても楽しく兄弟していて、輝竜兄弟ともイトコしているんです。




