決意、そして消失
序盤元気マンはまだ舞える。
「…へ?」
「いや、だからお前を殺す手段がないんだって。」
「いやどういうことだよ。」
今現在俺はとてつもなく混乱している。
目の前にいるカズキという中年ぐらいの男がカッコつけて【魔女焼きの炎】とかいうやつで俺を殺せるみたいなことを言っていたのに、俺は死なずに炎の中でピンピンしているからだ。
いや、殺すんじゃなかったのかよ!…自殺願望者とかそういうのじゃないからね?
「困ったなぁ、【魔女焼きの炎】以外現在魔女を殺す方法ないんだけど…」
「え、じゃあタカシは死なないんですか?」
「うん、まぁね。」
「よっしゃあ!やったな、タカシ!」
まぁ、助かったのは嬉しいんだけどね?死ぬ覚悟して人生振り返ったのはなんだったんだ?え?
「ていうか魔女ってなんすか?」
そう、それ。トモノリよく聞いてくれた。まじでなんなんだよ魔女って。
「魔女っていうのは、我々の今いる世界とは別の世界に存在する人間のことだ。我々は超能力が使えるんだが、魔女は魔法が使える。そして我々は魔法は使えず、魔女は超能力が使えない。そして無理に使おうとすると体が拒否反応を起こし、穴という穴から出血する。」
「カズキさんって想像力豊かなんすね。」
「いや、ほんとにいるんだって。現に見たでしょ?えーっと…」
「タカシです。」
「そうそう、このタカシ君のすんごい身体能力。こちらは平和な世界だが、魔女の世界は実力主義。気に食わない奴はぶっ殺す、そんな世界の出身だから体はとても頑丈だし運動神経もすごいんだ。」
「はえ〜。」
「あ、そうそうタカシ君はこちら、魔女撲滅委員会で預かられてもらうよ。」
「は!?」
「うーん?」
。イマイチどういう話が急展開すぎて入って来ないんだが、とりあえず自分が誘拐されそうになってるのはわかった。ていうか、そろそろこの炎解除してくれないかな…夏だからあっついんだよね…
「いや、俺行きませんよ?そのー何でしたっけ?魔女撲滅委員会でしたっけ?明らかにヤバい奴じゃないですか。」
「いや、君に拒否権はない。」
「ええ…」
「いや、そんなことはさせませんよ!」
「いくらカズキさんでもタカシは渡せないっすね。親友なんで。」
お前ら…やっぱ最高だよ!……良い加減鬱陶しいなぁ、この炎。
「いくぞ…!【念動】」
「そうか…それは残念だ。乱暴なことはしたくなかったんだが…【精神干渉】」
「うっ…」
「トモノリ!タケル!」
急にトモノリとタケルの目から光が失われた。
「お前…何をした!」
「【精神干渉】だ。これはカートリッジ式超能力使用装置と言ってなぁ。うちの部下の超能力を一時的に使用可能にできるのさ。今彼らから自己決定を剥奪した。同行するなら返してやろう。」
【精神干渉】、相手の精神に干渉する超能力。主にカウンセラーの人たちが病んだ人たちに使うのだが、使い方を間違えれば人間を廃人(ここでは、無気力になって何をしようと思わなくなってしまう症状のことを指す。のちに呼吸することも面倒に思ってしまい、死んでしまう。主にご老人たちが何故か発症しやすくなってしまっており、老人ホームに勤務する【精神干渉】が使える人は重宝される)にすることも可能だ。
「俺について来い。ついて来ないとお前の親友を廃人にする。」
「なっ!」
「時間経過で解除されるのを狙っても無駄だぞ。3分以内に同行する決意をしなくても廃人にする。」
「…っ!」
完全に詰んだ。クッソどうでも良いことで時間稼いで、時間経過で助けるという案も無くなった。
なら、ついていくしかないだろう?親友のために、あの時俺に手を差し出してくれた彼らのために!
「…わかった、ついていくよ。」
「懸命な判断だ。こんなことをして申し訳ないとは思っている。だが、君にはどうしてもきてもらう必要があったんだ。」
「行く………な………タカ…シ……」
トモノリ…お前、【精神干渉】を受けても俺のことを…
「…トモノリ、タケル…行って来る。また戻ってきた時は…」
「タカ……シ…」
タケルの目から涙が落ちる。ポタポタと、雫が落ち、ついさっきまで遊んでいたトランプカードが濡れる。
泣くなよ、俺も泣いちまうだろ…
そういうことを考えていたら、炎のせいでわからなかったが、ずっと泣いていたことがわかった。
「…ありがとう」
「…」
「…カズキさん、案内お願いします。」
「本当にすまない。」
「謝っても許しませんよ。でも、言ってたんですよ『復讐は何も産まない。』って。そんなことやるぐらいなら魔女にでも、大富豪にでも、何にでもなってやる。アンタを利用して。」
実際俺は知りたいことができた。俺の親は魔女だったのか。もし、魔女だったのなら今も何らかの形で生きているのか。兄弟はいるのか…。
そちらが俺を利用するならこちらも利用させてもらおうじゃないか。
「車だ。乗れ。」
「はい。」
「…いい加減炎解いたらどうだ?」
「いやお前の超能力だからこっちは解けねぇんだわ。こっちもやりたくてやってんじゃねぇよ。」
「あ…すまない。」
「で、今からどこに行くんです?」
「撲滅委員会本部に本来なら行くんだが、今回はスキップする。そのまま研究所だ。」
「え、それって結構まずいのでは?」
「いや、俺がリーダーだから大丈夫。」
なんだコイツ〜。お前がリーダーだったのかよ。
……
……
……
やっべぇかれこれ20分は経過したけどなんも会話なくてちょーっと気まずい。相手、殺しにきた人間だからね?とにかく気まずい。
「…ところで、さっきの『復讐は何も産まない』って誰が言ってたんだ?」
さっきって言っても、もうさっきの規模じゃないと思うんですけど。
「…青年ですよ。俺が何もかも自暴自棄になって、孤児院の人や周囲の人間に復讐しようとしていた時に止めてくれた。」
「…そうか。」
-研究所-
「ほぉん、君が魔女でありながら超能力が使えるっていう…」
「タカシです。」
「そうそうタカシくん。まぁ、茶でも飲んで話し合おうや。」
そう言って、ティーカップに紅茶を注ぐ博士らしき人。あとなんか知らんけど仮面付けてんなぁ。
「まずね、君が超能力を使える理由について1つ仮説を立てたんだ。」
「仮説…?」
「そう、『君がこちら側の世界に適応した』という仮説だ。生き物というものは環境に合わせて変化する。そして、タカシくん。君は聞いた話的に幼少期からずっとこちら側の世界に住んでいたね?」
「まぁ、はい。」
「だから、君はこちら側の世界に適応し、超能力が使えるようになったんだ。超能力を使うと人の何倍も疲労を感じやすいんじゃないかい?」
「あ、当たってる…!」
「ほらね?それは君の体にもともとあった超能力に対する拒否反応の名残だ。」
なるほど、そういうことだったのか。つまり俺はオサムシだったのか…(多分違う)
「まぁ、私からの話は以上なんだけどもカズキ委員長は何か言っておくこととかあります?」
「ん?一応これからタカシ君にしてもらうことを教えておこう。」
「はい。」
「君にはスパイとして魔女の世界に潜入してもらいます。」
「……は?」
「ああ、ごめん言葉足らずだったよな。魔女の学校に通ってもらいます。」
「いや、待てや。」
魔女の世界に潜入?こちとら高校生だぞ?そんなスパイできるわけねぇだろ。
「そんなに心配するな。お前なら大丈夫だ。」
「どう考えたら大丈夫って思考に至るんだよ!」
つい声を荒げてしまった。いや、でも普通そうでしょ。だってだよ?殺しにきた人間が全く知らないところでスパイしろっていうんだぞ?こちとら一般人だぞ?流石に責任感ないんじゃない?
「ああ、魔女の世界についてはちゃんとまたいつか話してやる。明日中には説明できるはずだから。」
「あ、説明はちゃんとしてくれるんだ。」
「てことで、博士お願い。」
「了解。」
何をするんだろう。そう思っていると博士がなんかエナドリの入った瓶みたいなやつを持ってきて
「ほれ、飲め。」
「…なんですか、これ。」
「これか?何って、性別を反転させる薬だけど?」
「うーん、馬鹿!」
「魔女の世界は女性以外生まれた瞬間に殺されるか一生奴隷だから女性になる必要があるのさ。」
なんだよそのツイ◯ェミが大歓喜しそうな世界は。
「なぁに言ってんだお前。じゃあ、カズキさんたちがなれば良いじゃないですか、女に。」
「いや、前魔女因子を持たない部下を送ったんだが、脊髄と下半身を除去されたホルマリン漬けが送られてきてな…」
「余計にダメじゃねぇか!!!」
「まぁ、お前は魔女因子持ってるし大丈夫だろ!」
「コイツまじでなんなん。ていうかなんか拘束されてるし。」
いつのまにか動けなくなっている。手は鎖で繋がれて、頭は髪を天井に引っ張られて固定されているような感覚。
「ふっ、私の超能力(?)だよ。さぁ、勘弁して飲め。」
「…質問いいですか。」
「ん?」
「その仮面なんですか?」
「ああ、力を封印してるんだよ。」
「なんだ、ただの厨二病か…」
ピキッ
「…遠慮はいらないな。普通1本で足りるが3本飲ませてやる。」
「えっちょ…ムグッ!」
「安心しろ、デカすぎるダメージを喰らわない限り薬効は無くならないから。あと、毎月飲むんだぞ。」
こうして、俺は名実ともに魔女になった。
ちなみに薬の味はというと、そこら辺で取った雑草の味がした。
そして消失した。(何がとは言わないが)
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