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『生物研究部』の彼女たち

『こんにちは。『生物研究部』部長の安藤(あんどう)です。私たちの部活では主に……


安藤青蓮(あんどうせいれん)——彼女の顔を俺はよく知っていた。


だからこそ、強い衝撃を受けた。なぜ彼女がそんな部活に入ってしまっているのか、ということに。



彼女と俺は同じ中学校の先輩・後輩の仲である。


しかしそれだけならば、いわゆる陰キャな俺と、対して陽がすぎる彼女が出会うはずも無かったのだ。部活動——俺が入ろうとした美術部に、すでに彼女はいたのだ。


容姿端麗、才色兼備。透き通るような銀髪にスラリと伸びた手脚。成績は常に学年上位なうえ、運動も、さらには芸術まで達者であった。 


そんな彼女の評判や逸話は、学内で(とどろ)きに轟いて轟き尽くしていたため、やはり友達のいなかった俺の耳にさえ入ってきていた。


全く面識もなく、中学までの13年弱しか生きてこなかった俺でさえ、彼女が天に二物を……いや、それ以上を与えられた超人なのだと確信していた。


中学校では部活こそあれ、『部活動紹介』なんて丁寧なシステムが無かったため、最も(ラク)(ゆる)そうな美術部への入部を決め打ちしたのだが、それが彼女と出会うきっかけとなってしまったのだった。


幸いなことに、彼女の周りには常に複数人が群がっており、彼女が卒業するまでの2年ほど、まともに喋る機会も無く済んだのだった。


俺が彼女を避ける理由——これは畏敬に近い。近寄りがたい。俺にとって彼女は、月のように美しく輝いていて、太陽のように強く見えたのだ。


月にも太陽にも、手を伸ばしたところで掴めるはずもない。遠くから眺め、崇めるくらいがちょうどいいのだと思っていた。


高校に入学して、2週間が経とうとしている今日この日まででも、彼女の噂話を耳にしない日は無かった。あいも変わらず彼女は超人なのだった。



だからこそ、謎なのだ。彼女が『生物研究部』に在籍していることが。


『私たちの部活では主に、ハムスターや金魚の飼育をしています。現在活動している部員は少なく、私を含め2名です。アットホームな部活ですので、ぜひ一度見にいらっしゃってください。以上です。』


以上だった。


なぜ。


なにがあったら《《あの》》安藤青蓮がこんなプレゼンをすることがあるのだ。なにがあればそんな程度の低い活動を、部として認められることがあるのか。なぜそんなブラック企業のような文言で締めくくってしまうのか。


気になった。あまりに興味を惹きつけられた。目が離せなかった。


体育館がざわつく中で、彼女の瞳が俺を捉えた気がした。


俺もまた、彼女の周りに群がっていた彼・彼女らのように、魅入られてしまったのだろうか。



「……まぁ、覚えられちゃいないか。」


校舎1階東側の突き当たりにある生物室に向かう階段を降りながら、俺は呟いた。


『覚えていて欲しい』という希望からか、『覚えていて欲しくない』という願望からかは定かではないが、そんなことはどうでもいい。今はただ、謎を探求する冒険家が、未開のジャングルに踏み出すような、晴れ晴れとした心持ちが胸を満たしていた。


そうして俺は、ダンジョンの最奥に待つ魔王へと続く最後の扉——生物室の引き戸になっている扉の取手に手をかけた。


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