あなたはなにが『好き』ですか? 弐
「え~、佐々田夏瑪です。1年生です。好きなものは……えっと、カレー? です。」
青蓮の次に俺は指名された。が、内容を考えるのをすっかり忘れていたため、ご覧のあり様となった。
「うんうん~。私も好きだよ、カレー。具材を突っ込んで煮るだけだもんね~。」
「つまんな。もっと面白いこと言いなさいよ。」
「カレーか。ふむふむ。それだけでは物足りないね。他に好きなものは無いのかい?」
「カレー美味いよな! 甘口かっ? 辛口かっ?」
一部から散々な言われようであるが、それも黙って飲み込まざるを得ないクオリティであった。
「……中辛。」
「中辛か~! あとで作ってやるからな! 楽しみにしとけよっ!」
隣の煤牛は、バシバシと俺の肩を叩きながら、興奮気味に言った。左肩の鈍痛を涼しい顔で耐えながら、俺は水仙と青蓮の意に答える。いや、水仙のものに答えられる自信は無いが。
「他に好きなのは……。」
好きなのは……なんだ? 俺はなにが『好き』なんだ? カレーは好きだ。しかし、カレーの《《なにが》》好きなんだろう。味か? 『味が美味しい』と感じるから好きなのか? 『美味しい』とは、感覚器官が刺激を受け取り、信号を感覚神経から中枢神経へ伝えること……つまり、俺が好きだと思っているものは、この『刺激』か!
例えば、煤牛が俺の左肩をしばくことによって皮膚が受け取る『刺激』。俺は、自分でも気づかないうちに、こういった類の『刺激』に快感を覚えていたのか……?
「……『痛み』?」
「えっ。」と、そこにいた全員が言った。俺も言った。俺も自分の口を疑った。完全に無意識だった。
「お、お前……なんかおかしくないか!? 痛いのなんてヤダろ!?」
俺への加害歴がダントツで多い、煤牛だけには言われたくなかった。
「えっと~、ごめんね~。そこまで赤裸々にカミングアウトしなくても良いんだよ~?」
同情するな。あんたも他人のこと言えないだろ。
「ふむ、なるほど。ちなみに『痛み』というのは、どの程度までを許容しているのかな? 爪を剥ぐとかは?」
深掘りするな。それを聞いてどうする気だ。
「きっっっも。」
ありがとう。今はそう言ってもらったほうが潔い。
「……冗談ですよ。青じそ……青じそドレッシングが好きです。あらゆる食べ物に合いますよ。俺は万能調味料だと思ってます。」
「お、おう……? なんだそれ?」
「取り繕うにも遅すぎかな~?」
「ふむ。青じそドレッシングも好きなのか。青じそドレッシングは、水責めにも使えそうだね。」
「そういうの邪道じゃない? なんにでもドレッシングかけるヤツ嫌いなのよね。」
色々とツッコミたい気持ちを噛み締めて、俺は黙って席についた。『自己紹介』で思い出したが、入学式の日にクラス内で行われたものが最も記憶に新しいものなので、今回のものを踏まえて、失敗したのは約2週間ぶりであった。




