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銀髪のエルフ  作者:
三章
14/22

銀髪のエルフ⑭

 二階建ての小さな建物だった。穴や傷が出来た看板に、冒険者ギルドと書かれている。俺は、冒険者として金を稼ぐためにここに来ていた。建物に入ろうとすると、小柄な女が出てきた。右頬に軽い切り傷があり、首筋がなぜか赤くなっている。女は俺達を一目見て、すぐに去った。扉が閉まりかけ、中に数人の人間が見えた。閉まろうとする扉をもう一度開き、中に入る。テーブルが目の前に数件並び、奥にカウンターが長く伸びている。数人と言った人数は、カウンターに並ぶ者、テーブルの席でくつろぐ者、カウンターで仕事をする者を含め、十人しかいない。カウンターには若い女に二人の男が並び、三十路の女の前には誰一人として並んでいなかった。俺はわざと三十路の女の方に向かい、それから横目で若い女を見た。三十路の女は俺の行動に何か反応するかと思ったが、俺が近づくと薄く笑うだけだった。

「・・・ご用件は?」

 三十路の女は笑いながら俺に訊いた。女の目線がゆっくりとアリシアの方に移動する。黒く長い外套で全身を隠す彼女は、違う意味でよく目立った。が、俺は彼女の目線を無視した。

「冒険者登録をしたい」

「はぁ・・・そうですか。この町で?・・・いえ、結構ですけど。冒険者登録ですね・・・少々お待ちください」

 三十路の女はハスキーな声で言うと、頭を下げ、カウンターの下を弄った。それから、ああ、これこれ、というと、カウンターに二つそれを置いた。小さな手のひらに収まる木の板の周りに銀色の鉄の枠がつけられた、ちょっとした小物だった。

「これが?」

 俺は小さく疑問を漏らした。

「ええこれが冒険者が皆身に着ける・・・というより、持ち歩くものです。冒険者である証明書となります。依頼人やギルドの職員に見せてください」

 女は説明しながら、アリシアの方に目線を不自然に動かしていた。俺は女の顔を見、すると女は俺の方を向いた。

「この方も、登録ですよね?」

「ああ。俺の相棒だ」

「何か、魔術でもしてらっしゃるのですか?」

「は?魔術?」

「いえ・・・そういうものを専門に扱う方もいらっしゃると聞きますから」

 女は、今度はしっかりとアリシアの方を見た。アリシアは目元までフードで隠している。エルフとはばれまい。俺は少し考え、女に合わせようと思った。

「少し違うが、そういうものだ」

「やっぱり。私、初めて見ましたよ」

 女の顔に、少しだけ生気が戻る。

「珍しいのか・・・」

「ええ。とっても・・・ついでに、依頼でもされますか?」

「依頼?」

 俺は木の板を二枚とり、一枚をポケットに入れ、もう一枚をアリシアに渡した。

「ええ・・・依頼ですよ。ついでです。この町には依頼が来ることなんて少ないですから・・・いつ訊いてもらっても内容は余り変わらないので」

 女は少し機嫌のいい声を出し、微笑んだ。隣の男が一人カウンターから離れ、もう一人の男が若い女に近づいた。

「依頼か・・・」

 俺は考えながら、女を見た。彼女は笑顔を浮かべている。

「今日中に旅路の護衛でもあれば受けよう」

 なければ、馬車に乗って今日中に町から出よう、と考える。襲撃者が闊歩する町に滞在する理由はなかった。女が、俺の声に嬉々として答えた。

「ありますあります。そこの、後ろの・・・そう、あの少し剥げてるおじいさんが居ますよね。彼が、今日の午後南に出発する予定なんです」

 振り返ると、扉から二つ左の席に禿げた年老いた男が一人座っていた。息を深く吐きながら室内を眺めるように目線を常に動かしている。俺と目が合った。すぐに視線をそらし、女の方を向く。俺が何かを言おうとすると、女がすぐに口を開いた。

「彼、一週間か、二週間にここに来ては、皿を売って、帰るためにああして自分の護衛をしてくれる輩を待ってるんです。少し、気味が悪いですけど、うちの常連なんですよ・・・依頼、受けますか?」

「南に何をしに?」

「さぁ・・・実家でもあるんじゃないですか?いつも南ですし。まあ、そういう細かいことは本人さんに訊いてください。それと、手数料はもう頂いているので、金額の方はご本人との相談でお願いします」

「分かった。ありがとな」

 踵を返し、老人の方に向って歩く。彼は先ほどから、俺のことをずっと見つめていた。それが気になって仕方ない。それに、彼女の話を聞く限りこの依頼を断る理由がなかった。できれば、金を払い移動する馬車よりも、金を貰いながら移動する護衛の依頼をした方が効率が良い。机を三つ通り越し、老人の前に腰を掛ける。アリシアが俺の右隣に座った。

「新人だな・・・ちょうどいい」

 老人は頬を膨らませ、ぐもった汚い声を出した。

「あ?しっかり喋ってくれ」

「おうおう、怖い怖い。わしゃエルリックだ。よろしゅうな」

「ファルだ」

「威勢よいのう若いのは・・・そちらの方は?」

 エルリックの視線がアリシアに向く。それを見て、アリシアが顎を微かに上げて俺に指示をこう。俺はアリシアを横目で見、すぐに口を開いた。

「カナデラという俺の幼馴染だ。口がきけないが、力はある」

「ほう。しかし不思議な方だなぁ。魔術師とか言うやつかな?まあ良い、それで、依頼は受けてくれるんじゃな?」

 エルリックの目が、俺を捉える。

「内容次第だな・・・報酬は?」

「銀貨五枚でどうだ?」

「どこまで行く?」

「南の小さな町じゃ。そうだな・・・日数にして半日かかるくらいの距離じゃな」

「旅路にしては短いな」

「だが、危険は多い。知ってるだろ?魔物という存在を。力あるものにとっては危険度は薄いが、わしのような老人にはゴブリン一匹に勝てるかも怪しい」

 エルリックは微かに笑う。俺は少し考えたが、考えるまでもなくこの依頼は俺が受けるべきものだった。

「・・・まあ、いいか。その依頼受けるぜ」

 俺の言葉に、エルリックが小さく笑い、次第に大きな声で笑った。周りの目線が全て、俺たちの方に向く。俺が怪訝な顔をすると、エルリックは笑いを収めながら口を開いた。

「いや、すまんすまん。何、嬉しくてな、二日待っても誰も依頼に来りゃせんもんだから、わしゃもうだめかと思ってたんじゃよ」

 エルリックはもう一度小さく笑い、俺達二人をなでるように見た。

「お二人さん、飯はまだだじゃろ。金はある。わしが景気祝いにおごってあげるから、飯にしようか」

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