銀髪のエルフ⑫
さて、この小説は一体どんなジャンルなのだろうか。
ひげを生やした男が一人、俺の目の前で腹を抑え胎児のように縮まっていた。この男は先ほど俺が殺した男の仲間だという。確かに戦闘力はあるが、先ほどの男ほどではなかった。男の腹からは血液が流れだし、土の色を次々と赤く染めていく。何故か、日光が血の赤色を美しく輝かせている。男が土に肌をこしつけながら顔を上げ、俺を睨んだ。俺が鼻息で返事をすると、男は立ち上がろうとし、失敗した。広くなった視線の先に、煉瓦の壁があった。まだ、角を二つ曲がったばかりだった。視線を向けると、俺を左右から挟むように三人の男が居る。右に二人、左に一人。俺を始末しに来た男達。鼓動が早くなる。俺はゆっくりと息を吐き、一度目を閉じ、すぐに開く。心を落ち着かせようとする。が、失敗した。興奮で目の周囲が痛くなる。何故かいつもとは違い、視野が格段に広くなっている。全身がしびれるような快感を覚える。全方向からの風の勢いが肌に直接感じられる。まだ、殺せる。俺は今、とてもいい気分になっている。不意に、後ろから暖かい気配を感じる。アリシアが俺の後ろに居る。俺がアリシアを守っている、と強く意識する。心臓の鼓動がさらに早くなる。集中力が増す。右から男が一人こちらに走ってきた。その後ろに連なる様にもう一人。縮まっていた男の手が、なぜか俺の足に伸びる。俺は男の頭を蹴った。男は頭を揺らしながら地面にひれ伏す。左から一人迫る。こいつは速い。左手の短剣を右手の剣に持ち変える。剣の刃から滴る赤色が輝いた。左の男が一歩踏み込んだ。ぎり、間に合う。左手を伸ばし、剣の刃を男に向ける。男は刃から逃れようと右の開いたスペースに体を大きく動かす。その間に右から男が一人迫る。一度、右を見る。男との距離は近い。俺は男に迫るよう一歩右に動く。左の男が少しスピードを上げてこちらに向かってくるのが見える。右の男が俺を前に捉え、剣を振り上げた。その時、短剣を左の男の腹に向かって投げる。当たればいい。横腹に当たる。男の顔が歪む。何かを言う。少し、男の動作が遅れる。その間に、左の男が斜めから迫る。剣を振り上げている。俺は無理やり右足を男の前に出し、左手の剣で男の剣を止めた。不安定な体勢。柄を持つ手が若干ずれる。その瞬間、強い重力が腕を伝い筋肉が痺れ、握りつぶされるような痛みが走った。叫びながら力を入れ、さらに右手で剣を持ち、何とかこらえる。尻目に負傷した右の男がふらふらと右の腹を抑えながらこちらに近づいてくるのが見えた。その横に、後ろに居たはずの男がもう居る。早い。アリシアを狙っている。男は武器を持っていない。だが、今の俺は動けない。男が、アリシアに近づく。
「さあ、シャル様。こちらに」
「え・・・」
「アリシア。短剣を使え!」
俺は叫ぶと同時に剣を押し出すよう力を入れ、男に抵抗する。右の負傷した男を警戒し、少しずつ左に足をずらす。後ろはもう見えない。風が冷く肌に当たる。両腕が不自然に熱くなる。ズブッと、後ろで奇妙な音がした。
「え・・・シャルさま?」
「なんか、ごめんね」
目の前の男が何かを見て、驚愕な顔をした。剣に込める力が若干抜けている。押せる。一歩前に踏み込む。男の顔が歪む。力が強くなる。が、俺の押す力の方が強い。男の腕がどんどん押されていく。もう一度、背後で何かを刺す音がする。
「シャル様、どうして」
右に居た男が、うめき声のような声を出した。目の前の男が視線を右に移そうとし、すぐに俺に向く。顔に余裕がない。一歩、また踏み込む。男のバランスが崩れ、数歩ふらついて後ろに下がった。俺は剣を突くように構え、男の腹に刺した。すぐに剣を引き、横でぼんやりしている負傷した男に迫る。男が俺を見、わずかに動揺する。剣を構えようとし、それより先に俺が剣を振り下ろした。男の前腕に深い傷がつく。傷口から赤い血が勢いよく流れだした。男は叫び声をあげ、必死に左手で患部を抑える。もう一歩踏み込み、今度は男の腹を目がけ剣を引く。男が怯えた目で俺を見る。剣先から粒子となった血液が飛び散り、鼻に付着する。男が逃げようと体を後ろにねじり、俺はそこに一刺した。肉を貫く感触。すぐに剣を引き、男が唖然とした顔で倒れる。血が、水のように地面に流れている。俺は満足し、アリシアを助けに行こうとして、彼女の冷えた声が聞えた。
「敵は殺さなきゃ、ダメだよね」
アリシアが男の背によりうまく見えない。俺は少し横にずれる。アリシアが、男に短剣を突き付けていた。
「え・・・」
誰かの鈍い呟き声と同時に、アリシアが短剣を前に動かし、目の前の男にとどめを刺した。心臓に一突き。俺と、姉がやってのけた技。俺は急いでアリシアに近づき、男を横から蹴る。ドン、とまるで木材のように男は倒れた。心臓・溝・腹・男は三か所から血を流していた。アリシアの刺した短剣が、まだ男の胸に刺さっている。俺は、呼吸が荒くなる。男のか、自分のか分からない浅い呼吸音が脳に響く。アリシアの白い手に、赤い血液が付着していた。また、鼓動が早くなる。アリシアの顔を見る。彼女は、その瞳に涙を浮かばせ、男を見下しながら、狂ったように笑っていた。
「私、人を殺したの初めてだよ」
俺は、彼女を抱きしめた。ようやく、抱きしめれるほど彼女が俺を必要としたのだと思った。
「お前は何も考えなくていい。俺が守ってやる。俺がもっと強くなってやる」
アリシアの腕が、俺の背中に回される。暖かい体温が、心臓の鼓動が、すぐそばにある。心地いい。ずっとこうしていたい。太陽の光が、永遠の俺たちを温めてくれる気がした。
ここまで見てくれてる方、本当に感謝しています。一応完結はさせるつもりなので、結構な駄作ですがお付き合いください。