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銀髪のエルフ  作者:
一章
1/22

銀髪のエルフ①

「はははっ。まさか、あなた様が買われるとは。ですが・・・ご注意ください。この銀髪のエルフ、なかなか高価な服を着ておりました。もしや、どこかの王族やもしれません。確か、うちの国の王女様が銀髪のエルフだとか・・・そうでないとか言いましてね、私はその王女様でないかと、少しばかり疑っております。気を付けてください。もし、この銀髪のエルフが王族でなくとも、この銀髪のエルフを買うということは、何かしらの大きな存在に追われるということを意味します。・・・信じてませんね。本当ですよ。私は忠告しましたからね。あと、もうここには来ないでください。私は、巻き込まれたくありませんから。・・・ああ、よかった。あなたが買い取ってくれなければ、始末しようかと思っていたとこだったのです」

 奴隷商人は、最後に俺にそう言った。この俺の実力を知ってなお、そのようなことをほざくのだから、最近の闇商人というのは臆病になったものである。銀髪のエルフは確かに珍しいが、王族様が奴隷にされるなど、そのようなへまはしないだろう。したら、失笑ものだ。まして、こんな可愛らしい王族が居てたまるか。銀髪のエルフ・・・名を聞いてなかったな。まあ、起きたらでいい。起きたら、いろいろと話がしたい。銀髪のエルフなど、やはり、珍しい生き物だから。


 古びた木製ベッドの上に、何とか白色を保っているシーツがあり、その上に銀髪の髪が腰まであるエルフが仰向けに眠っている。それだけで、俺の日常に一輪の花が挿したような、さわやかな印象を受けた。銀髪のエルフというのは、美しくある。俺は、この銀髪のエルフを見て、まず、その外見の美しさに惹かれた。俺が奴隷商店で目にしたときには、すでに奴隷商人が言う「高価な服」を銀髪のエルフは着ていなかった。今と同じぼろ布一枚であったが、その美しさは衰えることなく、逆に暗い世界に咲いた一輪の可憐なバラのように、際立っていた。「高価な服」はどこかに売られたのだろう。銀髪のエルフは、銀髪のエルフという存在自体に価値があり、たとえ裸であろうと、価値は下がらないはずだった。銀髪のエルフは、ぼろ布一枚で、他の鉄柵に閉じ込められた奴隷達とは離れた個室に収容されていた。扉は鉄で作られ、固いロックが施されていた。まるで大きな金庫であり、奴隷を収容する部屋ではないことは明らかだった。しかし、銀髪のエルフはそれだけのことをする価値があった。奴隷商人が恭しくロックを解き、頑丈な扉を押した。ゆっくりと、ゆっくりと扉は動き、少しづつ室内から冷気のような冷たい風がこちら側に届いた。部屋の中は無機質で何もなく、美しい生命体だけがベッドの上にちょこんと座っていた。銀髪のエルフはその細まった瞳で俺を見つけると、美しく微笑んだ。まるでそれが、自分の定めだといわんばかりに美しく微笑み、即席で用意されたであろう汚いベッドの上におとなしく座っているのだった。俺は、その時、心の底からこの美しい生命体が欲しくなった。これほど美しく、これほど俺の中の衝動を刺激するものはなかった。俺はすぐに、奴隷商人にこの銀髪のエルフを買うことを言い、それから何度も、これは本当に奴隷なのかと疑問に思った。奴隷商人は笑顔で俺の言葉にうなずいていたが、俺には本当に、これが俺の手に渡るのか不安だった。こんなに美しいものは、ほかになく、きっと誰もが手に入れたいと思うはずだった。奴隷商人だって、売りたくはないはずだった。俺は、なぜか疑心暗鬼になりながら、奴隷を買う手続きを済ませ、奴隷の証である赤い首輪をつけた銀髪のエルフを貰い、片方の手で彼女の細長い手首をつかみ、もう方の手で、銀髪のエルフを従えるためのリードを受け取った。俺はその瞬間、神になったような、有頂天な心地になった。だから、俺は奴隷商人が最後に吐いたあのセリフが、負け惜しみにしか聞こえず、次第にどうでもよくなくなっていった。もう、俺は彼のそのセリフの大半も覚えていないが、彼がどうして銀髪のエルフを自分の手元に置こうとしなかったのか、その時は分かった気がした。が、そんなことはもうどうでもよかった。

 今、俺の目の前に、手の届く範囲に銀髪のエルフが眠っている。それが全てであり、俺はもう全てにおいて満足していた。奴隷商店から離れ、少し歩くと、銀髪のエルフはふらつき、そのまま倒れるようにして眠ってしまった。俺は、銀髪のエルフを起すかどうか迷った。外は暗く、銀髪のエルフはもう六時間は眠っているはずだったが、なかなか起きなかった。俺は、その間中、その白い肌に幾度も触ろうとし、そのたびに触れることをためらっていた。彼女の肌には、神秘的な何かがあり、俺が触れることを阻害していた。が、それは錯覚であり、実際は俺がその白い肌に触れることを怯えているだけだった。だが、なぜ怯えているかは分からず、俺は無意味に葛藤した。次第にこの無為な葛藤に苛苛し、腕を組み、今にも倒れそうな机の上に置かれた、小さな蝋燭の炎を眺めた。暗い世界に揺らめく炎はどこか神秘的だったが、俺のその感想は、銀髪のエルフを見た感想がそのままこの炎に引きずられているだけのことだった。俺は別に、暗い世界に揺らめく炎を神秘的だと思うような人間ではなかった。しかし、その炎の淡い光に照らされた銀髪のエルフはとても美しく、昼のそれよりも何倍も幻想的で、儚い存在に見えた。


 やはり、銀髪のエルフは特別だった。俺は、この買い物を一生後悔しないだろうと思った。この銀髪のエルフを、俺は眺める権利があり、手に取る権利があるのだと思うと、興奮した。俺は性欲に似た何かを感じ、体の中から何かが飛び出しそうな勢いと共に、銀髪のエルフの隣に寝転んだ。銀髪が俺の顔の横にあり、滑らかな肌が、かすかに俺の肌に当たる。それだけ、興奮し、俺は少しだけ、馬鹿になった。が、馬鹿になればなるほど、思考が緩めば緩むほど、俺はその神秘的な存在に近づけなかった。触れることすら、神の天罰でもあたるかのように、躊躇してしまう。何度か、己の本心がままに接触を試みたが、イメージでは身体が自由に動くが、本物の身体は一切動かず、次第に天井を見つめることしかやることがなくなった。俺は何かの罠にはまってかのように、動けなくなり、やることもなくなり、いつしか眠っていた。

一応プロットは最後まで完成している!

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