そうね誕生石ならルビーなの
「アビゲール!宝石商を呼んどいたぞ」
閣下がご機嫌で私の部屋に入ってくるなり言った。
「ご機嫌うるわしゅう、閣下。……なぜ宝石商を呼ばれたのですか?」
「そなたの誕生日に宝石を贈ろうと思っておる。好きな石を選べ」
またこの人は、金に物を言わせて。私は気づかれないようにため息をついた。
「そなた、誕生日は何月だ?」
「七月です、閣下」
「七月。誕生石は……」
「ルビーです」
「おお、ルビーか。ピジョンブラッドの大きなものがあるといいな」
「あのう、閣下。私、ルビーは嫌いなんです」
「なんと?」
「赤いものが好きではありません。緑とか青とか紫とかが好きです」
「さて、困った。だが、幾つでも買っていいぞ」
「何をおっしゃいます。結婚指輪をいただいただけでも充分です」
質素倹約を心掛けなければ。一度タガがはずれたら破滅への道をまっしぐらよ!
「アビゲール?」
「はい、閣下」
「宝石商を呼んだのはいけなかったか?」
しょんぼり。
しょんぼりした閣下があまりにかわいくて、危うく吐血しそうになった。
「そんなことはございません。ただ、今の私にはもったいないです」
上目遣いで彼は私を見上げた。
「私のことが嫌いなのかね?」
「まさか!だ、大好き、です」
顔を真っ赤にして私は言った。
「うーおほん」
おつきの者が咳払いした。
「お2人とも、ラブラブなのはいいですが、公務に差し支えない程度にねがいますぞ」
「はい、すみません」
「ラブラブ?ラブラブか?そなたから見て我々はラブラブに見えるか?」
閣下がまくしたてた。
「はい。充分ラブラブです」
その言葉に閣下は有頂天になって、次の公務があるからと連れ去られた。
はー。
毎度のことながら疲れるわ。