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悪夢と醜聞

ある晩、ミーナはうなされた。夢にはいつかの美しい獣がでてきた。

国王一行が帰ったようで辺りが静かになった。


入れ替わるようにお祭りが近づいてきた。今年は温泉滞在者も遊びに来ることを見越して出店の数も多い。


今までのお祭りは近所の人と行ったり、冒険者の男の子のグループに誘われて行ったこともあるが、今年は早くからフィルと約束している。いままでで一番楽しみだ。


お祭りは昼間はお店で食べ歩き、夜はそれにダンスが加わる。フィルは両方楽しむと張り切っている。


わたしも久しぶりに髪を念入りに結うと、聖女の力で加工した花を飾った。花が長持ちしてなにかの拍子に光るのだ。


食べ歩きをしているとき、うなじにちかっとするものを感じることがあったが、フィルのような素敵な子の横にわたしのようなおばちゃんがいるので嫉妬されているようだ。


いよいよ夜になってダンスがはじまった。フィルはおもったよりダンスが上手で、あの頃妖精の踊りと言われたわたしを軽々と操って踊った。


わたしもフィルのリードに身をまかせていると全然疲れを感じずに、何曲も踊れた。


曲が変わった時、フィルは踊りながら空いたテーブルにわたしを導くと座らせて


「休憩しましょう。飲み物を持ってきます。ここで待っていてくださいね」と去っていった。


後ろ姿を見送っているとそばのテーブルに顔見知りの冒険者がすわっていた。


お互いに手を振って挨拶した。


するといきなり後ろから


「やだこのおばさんがフィルの連れなの?彼も可哀想に。こんなおばさんのお世話をさせられて」と声がした。


みると美しい金髪を結わずに垂らした令嬢が、歪んだ笑みを浮かべて立っていた。


そばにいるのはエスコートだと思うが、身なりのいい整った顔立ちの男性だった。


「失礼だよ、エミリー」とちいさな声で令嬢・・エミリーさんね・・に言っている。


「聞こえた?おばさん。フィルに迷惑かけるなって言ったのよ」


言い返すには情報が少ないわね・・・この威張り様とださい雰囲気はここの城主のお嬢さんかしら?


不確かな情報で動く訳にはいかないし・・・・あまり恥をかかせて恨まれてもいやだし


「あのどちらのかた?」


「気取っても無駄よ。おばさん。フィルはホントはあたしとお祭りを楽しみたかったのにおばさんに気を使ったのよ。だいたいお父様のはやぶさ隊にも入れたのに、はやぶさ隊で認められたらわたしを付き合えるのに、わたしがはやぶさ隊に誘ったのに・・・フィルは断ったのよ・・・おばさんが余計なことを」


『困ったわね、余計なことをぺらぺらと父親のことまで・・・バカは困るわ・・・えっと』


「あの、どちらさま?」


そのときフィルの声が聞こえた


「名乗ってもらう必要はない。あなたが知る必要はない」


「フィル、おばさんに気を使うことないのよ。やさしくすればつけあがるんだから」とエミリーさんは媚びるようにフィルを見上げた。


「お前がわたしの連れのことを話題にするな。汚らわしい」


「なにを言うの?フィルったらぁ」


「わたしの名前を呼ぶな」


「さぁ帰りましょ。こんなのと一緒にいたらあなたが汚れてしまう」


そういうとフィルはわたしを連れて、さっさと広場を後にした。


あの知り合いの冒険者が目を丸くして見ていた。



帰り道でフィルが話してくれた。


ある日、はやぶさ隊に入らないかと誘われた。優遇すると言われてミーナの世話の合間に働いてもいいかと・・・ほんとにミーナの世話の合間って言った・・・・・城に行って話を聞いたら全然、優遇じゃなく時間は長いし、あげくはエミリーの護衛をやれだの。全然話にならなかったので、さっさと帰ってきたってことで・・・・なるほど、エミリーさんの話でおばさんに気を使ってというのはここから来たのかと納得した。


ただ、ここの城主のお嬢さんに恥をかかせたのはちょっとまずいのではと・・・・・まぁエスコートを断ったからといって罪を問えないと思うが・・・・権力者っていうのは、なにをするかわからないから・・・・と経験に基づいて心配してみるが・・・


今から考えても仕方ない、なんとかなるし。なんとかするし。ということで家に戻って昨日フィルが焼いてくれていた、さくらんぼのパイを食べると、やはりダンスで疲れていたので早めにベッドに入ったのだった。



その日、フィルは近所に呼ばれて留守だった。なんでも鳥のひなが木から落ちてしまったというので助けを求められたのだ。


フィルは急いで出ていきわたしはお店を開ける日だったので、家にいた。


客が来たのでドアを開けた。そこにいたのはネルフ。宰相の息子・・・・いやもう宰相だった。


20年経っていてもすぐにわかった。粘りつく視線に背筋がぞっとした。


彼は強引に部屋にはいってくると、椅子にすわり


「座らないのか」と言った。


逆にわたしが家をでようとすると、強引に椅子に座らせ、


「話をしたいだけだよ。そんなに警戒されるなんて悲しいな」と言った。


「話すことはないわ」


「わたしは話したい。ずっと好きだった。あのバカの婚約者なんて勿体無いと思っていた。追放する振りをして屋敷で保護したいと思っていたが、事故で・・・階段から落ちたのだ。それでなにもしてやれなかった。だが先日、ローゼンブルグが話しているのを聞いて調査したんだ。20年がうそのようだ・・・・ここで待っている。一度ゆっくり話したい」


そういうとカードをテーブルに置いた。


「お断りだわ」


「せめて考えて答えてくれ」


「考えても同じだわ」


「まぁいい、権力を使うしかないのはわかってる・・・・ある日この街が火事になるような気がする・・・逃げ道がなぜか塞がれて・・・・老いも若きも焼け死ぬ・・・・お祭りを楽しんだ連中も、君に親切な近所の人も・・・・死んじゃうかもね・・・・」


「けだもの!」


「あぁけだものだよ。だけど君には優しいけだものさ・・・・」


そういうとネルフはカードを指差して


「今日から三日間そこで待っている。いや、急がなくても大丈夫だ。君にも予定があるだろうから・・・・三日間、独り寝ってわけじゃない・・・相手は準備してある。楽しんで待ってる。・・・・」


そういうとネルフはわたしの手をとりくちづけをすると出て行った。



どれくらい、座っていただろう・・・ノックされて飛び上がった。


フィルだった。部屋にはいりながら


「どうしたの?ぼっとして」と言ったので


「なんでもないわ」と言ったわたしに


「無理に聞きませんがいつでも話してくださいね」というので


「ありがとう、フィルがいてくれてよかったわ」と言うとにっこり笑って


「うれしいですね」といいながら、お礼にもらった野菜を台所に運んで行った。


「今日は、サーモンをソテーして、かぼちゃをスープにして後、野菜ときのこをそうですね。これもソテーしましょうか? お好きでしたよね」


「・・・・・」


「ミーナ??どうした?」


「あぁフィル素敵ね」


「聞いてませんでしたね」


「ごめん・・・」


「熱じゃないですよね」とフィルはわたしの額と頬をさわると


「レモンで飲み物を作りますね。飲むとシャキっとしますよ」


「ありがとう」



「ねぇミーナ、なにか気になることがあるの?教えて欲しいな?」


「ううん、なにもないわよ」


「あの娘のことは気にしなくていいですからね」


「もちろん、気にしてないわ」


「うーーん。それも悲しい。ちょっとは気にして欲しいかも・・・・でもどうでもいい相手です」


「そうなの?城主のお嬢さんに喧嘩売るってよくないなって」


「気にすることないと思いますよ」



その夜はフィルの料理のおいしさにもかかわらず、わたしはスープを少し飲むのがやっとだった。


この事態をフィルは心配して、早くにベッドに入れられた。そして今日もミルクを飲むとフィルは髪をなでてくれた。


油断すると涙がでてくるので、毛布に潜り込み眠ったふりをしていた。


フィルはかなり長いことそばにいてくれた。そしていつのまにか眠ったわたしは夢をみた。


ネルフの夢だ。ネルフが待つ部屋に行くと、はだかの女性が鞭打たれていた。


ネルフはわたしをベッドに押し倒すと腕と脚を固定した。


「きみのことだから、抵抗して大暴れするだろ。怪我させるのは本意じゃないから縛らせてもらうね。そこからみていて、あの女を・・・・・あれは道具だから・・・・壊れるまで」


彼女のうめき声と鞭の音・・・耳を塞ぎたいのに・・・・


そこにエミリーさんが来て・・・彼女も裸にされる・・・


「助けて やめて・・・ゆるして・・・ル  フィ・・・・どうして」


誰かの名前を呼んでいるが・・・聞き取れない・・・・」


そこにしなやかな体をくねらせて・・・・・尻尾が・・・ゆれるとわたしをなだめるように撫でていく。


この尻尾を知ってる・・・・


いつのまにか自分のベッドに戻っていた。安心して毛布に潜り込んだ。




不意に意識が深いところから浮かび上がった。額に冷たいタオルが乗っていった。


そこからまた、眠りに落ちた。今度の眠りに悪夢ははいってこなかった。


目が覚めると明るかった。額のタオルはもうなかった。


うんと伸びをすると力が沸いてきた。ネルフのところへは明日行こう。あいつを殺してわたしも死のう。


あんなのは殺す方が世のためになる。そう思っていたら人の声がする、朝、早いのになぜ?


朝早くではないが訪問するには早い、ドア越しに気配を伺うとご近所さんたちだ。


急いで着替えると部屋に顔をだし


「おはようございます」と挨拶をした


「あぁミーナおはよう、熱は下がったみたいだね」とフィルが言うので


「うん、大丈夫になったみたい。昨日はタオルを?」


「うん、苦しそうだったから・・・気がついてたの?」


「うん、なんとなく・・・お礼を言おうとしてもすぐに寝ちゃって」


「ミーナ、回復したならよかった。うちの孫も具合が悪かったし、わしも昨夜はうなされた。ずいぶんといやな夢をみたよ」


「あら、昨夜はなにかこわいことでもあったんでしょうかね」


「あぁそれで孫に気持ちを落ち着けるポーションをもらえないか来たんだよ。そしたらみんな、孫のためとか家族のために買いにきてて、フィルが気がついてなかにいれてもらったんだよ。で話を聞いたらミーナも具合が悪いってなんだろうね」


「話を聞いてなんとなく分かりました。今からポーション作りますからお昼まえとお昼過ぎに取りにきて下さい。えっとお昼前には食欲がでて元気が出る薬を作ります。お昼過ぎにはよく眠れる薬を作ります。病気じゃないから、よく食べてよく眠れば元気になります」


「悪いね、ミーナだってうなされたのに・・・・」


「大丈夫、ポーション作れば元気がでるから」


それまでだまって聞いていたフィルが


「それではミーナの好きなパンケーキを焼きましょう」と言った。それを聞いた人たちは


「それではまた・・・」と出て行った。


そうだ。わたしは最後にいっぱいポーションを作って恩返しをしてあいつを殺すんだ。


わたしは、フィルが焼いてくれたパンケーキをほおばった。おいしかった。



それからわたしは気合をいれてポーションを作り始めた。


ポーションを瓶に詰めていると、近所の人がとんでもないニュースを持ってやって来た。


宰相とエミリーが死体でみつかったというのだ。同じ部屋で死んでいたというのだ。


気分を落ち着けてもらうためにポーションをコップにいれて飲んでもらった。


皆さんの言うことがいろいろ違うので、フィルがギルドへ行って正確なところを確認しに行った。


皆は家のお惣菜やお菓子を持ち寄り、我が家で食べながらフィルの帰りを待った。


フィルは疲れた様子で首をひねりながら帰ってきた。


二人が死んでいるという知らせがギルドや城主のところなどに来て、調べに行ったら死体があったらしい。そのなぜ二人が一緒なのか、わからないし娼婦も死んでいて娼館も絡んでいて宰相だから王宮もでてきてとかで・・・・なにがなにやらだったとフィルは話してくれた。


とりあえず、エミリーさんは気の毒だけど、まぁ私たちは今日、生きていることに感謝して美味しいものを食べてその日の午後を過ごしたのだった。



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