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従姉妹と同居が決まりました  作者: 甲本ひより
8/17

気持ちの整理

 

 ーー翌日の放課後


 昨日直也さんと話して帰ってから美花に話しがあるから明日の放課後付き合ってほしいとLINEを送った。

 いざ話すとなると話しにくくて逃げ出したい気持ちになる。


 「放課後に颯太くんといるのって久しぶりだね! そう言えばこの前言ってた人は無事別れたの?」


 嬉しそうに話しかけてくる美花の顔を見ると余計に罪悪感が溢れてきて目を見れない。


 「確かにあの話しして以来か。久々だな。うん、俺も間に入って話しして別れた感じ」

 「そっかそっか! 良かったじゃん! てか颯太くんがそんな面倒臭そうな状況の間に入るなんて珍しいね」


 確かに俺は面倒な事には巻き込まれたくない性格だ。

 ましてやドロドロとした他人の恋愛の世話なんて頼まれても嫌だった。


 「で? 今日は改まって話しってなに?」

 

 美花が横から俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。

 あまり人が居ない所で話したいからカラオケに向かう事にした。


 ◇◆◇◆◇◆


 

 カラオケに着き小さめの少人数用の部屋に入り向かい合って座った。


 「カラオケなんて久しぶり! 歌ってもいい?」

 

 ここまで来て話す気持ちが固まっていなかったので頷いた。

 美花が楽しそうに一曲歌い終える頃には店員がドリンクも持ってきており話しをする状況は整っていた。

 意を決して美花に向かって話し始める。


 「あのさーー」

 「待って!」

 

 話し始めると同時に言葉を遮られる。


 「ひとつだけ聞いておきたいんだけど…… 今から話すのって良い話? それとも悪い話?」

 

 恐らく捉え方によっては悪い話しだろうが、俺が話すのはお互いの為に話すと決めていた。


 「どっちとも取れると思う。言いにくい話しだけど俺にとっては話しかないといけない話しだし、このままにしておけない話しかな」

 「そっか…… わかった。話して」


 そこから俺は今の自分の気持ちを話した。

 美花のことを好きかどうかわからないという気持ちから今まで黙っていた従姉妹の存在、嘘をついて告白を受けたりしていた話しも全て本当のことを淡々と話し最後に謝った。


 「ーーごめんな」


 美花は黙ったまま俯き俺の話しを聞いていたが、顔を上げ笑顔でこっちを見てきた。


 「実はそうなんじゃないかな?って思ってた。嘘つかれたりしてるんじゃないかな。とも思ってた。でも予想してたのは他の子を好きになってたり女遊びだったけどね」


 そう冗談ぽくけらけらと笑いながら話す。


 「好きって気持ちがわからないってだけなら他の子を好きになったって事はなさそうだね! 言わなくていい従姉妹の事とか告白された事まで話すとこを見ると嘘を言ってるようには見えないし」

 「嘘言うためにこんなかしこまって2人になんてならねえよ……」

 

 美花は胸の前で手を勢いよく合わせパンッと音を鳴らすと


 「じゃぁ次は私からの話しね」


 そう言うと俺の隣に移動してきた。


 「私は颯太くんの事は今も大好き。他の子の事が好きでも私に少しでも気持ちがあるなら許せるって思ってたぐらい好き」

 「いや、それは……」

 「うん、それはないのはわかってるよ。でも私に対しても気持ちがないってのもわかっちゃった…… 好きかどうかわからないって言われるなんて捉え方によっては嫌いになったって言われるよりキツいよ」


 美花は笑顔でいてくれているが目には今にも溢れそうなほど涙を溜めていた。


 「ごめん……」

 「それで、颯太くんはどうしたの?」

 「お互いの為にも一度別れた方がいいと思ってる」

 「お互いの為?」


 聞き返された時に昨日の直也さんに言われた言葉を思い出した。


 『颯太はなんでも上手く取り繕おうとしすぎ』

 『思ってる気持ちを素直に伝える』


 「いや、違うな。俺は美花にそこまで言ってもらっても気持ちで答えることができない。それに対して罪悪感を感じる。そりゃ口先だけでも言えるかもしれないし、そっちの方が丸く収まると思う。でもそれじゃ俺自身が納得できないし辛い。だから別れよう」


 思っている気持ちを全てそのまま伝えた。

 さっきの美花の目に溜められた涙を想像するとまともに顔も見れなかった。

 

 「わかった!」


 美花の返事が沈黙を破ったと思った瞬間抱きつかれ長いカラオケのソファに押し倒される形になると、そのまま唇を重ねた。

 美花とは何度かキスもしてきたし、身体の関係ももっている。

 しかしこの時は今までで一番濃厚なキスをしていた。

 咄嗟に唇を離そうとしたが美花の頬に流れる涙が俺の頬に落ちてきてそれ以上拒否できなかった。



 ーー何分間ぐらいだろうか。

 感覚では数時間にも感じるほどに抱きしめあってキスをしていた。

 唇を離すと美花の目にはもう涙はなく少し赤くなった目で笑っていた。


 「こういう事しても受け入れるから勘違いしちゃうんだよ。フラれた瞬間にこんなことしちゃう私も私だけど」

 「ごめんな。でも何回も言うけど、嫌いだから別れるとかじゃないから」

 「わかってるよ。さっきは嫌いになったって言われるより辛いって言ったけど今はそう思ってないから」

 「そっか…… 最低だよな。ごめんな」


 俺も美花も落ち着いた所でカラオケをあとにする。

 駅までぶらぶら歩いていたら美花が腕を組んできた。


 「今日一杯で別れるから今はまだこうしてていいでしょ?」

 「なんだよそれ。全部話して切り出すのも勇気いったのに」

 

 おそらく2人とも今までで一番落ち着いた気分で一緒にいる状態だっただろう。


 「そういやついこの間、俺って学校で結構モテてるって冬馬に言われたんだけどさ」

 「そうだよ? え、自分で言っちゃう?」

 「そうじゃねえよ! それ聞くまで自覚なかったんだけどさ。美花は自覚あんの?」

 「自覚ないとかまじ? てか私? なんで私がでてくるの?」

 「やっぱり自覚ないよな。美花、結構モテてるぞ。俺と付き合った時なんて隣のクラスの男子に文句言われたからな」

 「え、嘘だー! たまたまその人が気に入ってくれてただけじゃないの?」

 「そう思うだろ? 男子に聞いてみ。ちゃんと答えてくれるから」

 「そんなの自分で聞くのも嫌だよ!」

 

 やはりモテるなんて言っても本人たちはこんなもんだ。

 

 「颯太くんはまた誰かに告白されたら付き合うの?」

 「俺こんな話しして別れたのに告白されたからって付き合ってたら頭おかしいだろ」

 「ほんとだね!」

 「美花はどうすんの? 多分俺ら別れたってなったら色んな奴が告ってくると思うけど」

 「んー…… どうだろうね。颯太くんと付き合う前なら適当に付き合ってたかも。でもさっきの颯太くんの話し聞いてると、それが原因で私ら別れたのに同じような事はできないな。って思ってる。どうなるかわかんないけどね」

 「たしかにな。俺と同じ理由で次は美花から別れ切り出すことになるぞ」


 今までなら何の話しをしようか悩んだり、一緒にいる時間をどうやって潰すかなど考えていたが今日は話しているとあっという間に駅に着いた。

 

 「じゃぁもうこれで恋人としてはお別れだね」

 「そうだな」

 「今日一番辛かったけど、一番楽しかったかも! ありがとう」

 「お礼言われることなんて何もしてないって。俺も楽しかった。明日からもよろしくな」

 「うん、じゃぁ行くね!」


 改札に向かう美花が最後に軽くキスをして走っていった。


◇◆◇◆◇◆


 家に着くと疲れがどっと押し寄せたので自分の部屋に直行してベッドに倒れ込んだ。

 美花と別れてスッキリしたのか?

 自分の気持ちに整理がついたのか?

 ベッドに倒れながら自問自答するが答えは出ずにいた。

 美花と歩いたカラオケから駅までの道のりは本当に楽しく感じて、あのままずっと一緒にいてもいいと心の底から思った。

 別れを告げて傷付けた相手にこんな気持ちになる自分が許せなかった。


 「はぁ…… 最低だな。俺」


 自分の気持ちがどうなっているのかわからず自分で自分が嫌になってくる。

 

 コンコンーー


「颯ちゃん、今日晩御飯どうする?」


 ドアの前から明奈が声をかけてきたが返事をするのも面倒になり返事をしなかった。


 ガチャーー


 「颯ちゃん? どうしたの? 大丈夫?」

 

 俺はベッドにうつ伏せたまま無言で首を振った。

 明奈はゆっくり部屋に入ってきて俺が倒れ込んでいるベッドに座り頭を撫でながら優しく話してきた。


 「今日は晩御飯いらない?」

 無言で頷く俺。

 「じゃぁ今日は私もいいかな。お菓子食べてあんまりお腹空いてないし」

 「身体しんどいの?」

 俺はうつ伏せたまま首を横に振る。

 「心が辛いの?」

 

 本当は首を縦に振りたいが、そう聞かれても自分が最低な事をしている自覚があるから反応できなかった。

 なにも返事をせずにただ頭を撫でられている。


 「そっか。辛かったね。大丈夫だよ」


 明奈はそういうとベッドから立ち上がり部屋を出て行った。

 しかし、しばらくするとすぐに戻ってきた。


 「颯ちゃん、上向ける?」


 涙が出ている姿を見られたくないから首を横に振った。


 「顔見ないようにするから上向いて」

 

 明奈が俺の頭を持ち上げ自分の膝の上に乗せた。

 横向きになった俺の目に温かいタオルを乗せてくれた。


 「目、腫れちゃうから。温めないと」


 泣いている事はバレていたようで、その瞬間更に涙が溢れてきた。

 声を抑えてるつもりだが鳴き声が漏れる。

 その日、明奈は俺がそのまま泣き疲れて眠るまで膝枕の上で目を温めてくれていた。

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