初登校
授業が終わるといつものように美花が駆け寄ってきた。
「颯太くん! 一緒に帰ろー!」
「ごめん、今日は冬馬と寄る所があるから先に帰ってて」
「そうなんだ……。 わかった、じゃぁまたね!」
少し離れた所にいる冬馬に聞こえるぐらい大きめの声で断りの返答をした。
目をキラキラさせながら小走りで近づいてくる冬馬を見ながら言い訳を間違えたと後悔した。
冬馬が俺の前の席に座り、美花が教室から出た事を確認すると
「なあ! 俺と寄る所って従兄弟の所行くってことだよな!?」
「美花に言い訳考えてなかったからつい名前出しちゃったけどマジで来なくていいからな。」
「はあ!? ……いいよ。じゃ、俺は美花と帰ろっと。口滑らせたらごめんなー」
「あーもー、わかったよ。んじゃ行くぞ」
小さくガッツポーズをする冬馬を殴り飛ばしたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ニコニコした冬馬と一年の教室が並ぶ階に行く。
二年の生徒が歩いているからか廊下にいる一年生がチラチラ見てきたり、教室の窓から覗いてくる生徒が多い。
「おー、相変わらず人気ですねえ」
ニコニコ顔からニヤニヤ顔になった冬馬がそうつぶやいていると明奈のクラスの前に着いた。
窓から教室を覗くと数人に囲まれた明奈がいた。
転校生の特権だな。と思いながら帰宅を促した。
「おーい、明奈ー! 帰るぞー!」
「あ、颯ちゃん。うん。今いく」
作っていたような笑顔から一転して助かったと言わんばかりの笑顔で返答してきた。
明奈がカバンの用意をしていると隣の馬鹿が騒ぐ。
「めっちゃ可愛いじゃん! お義兄様早く紹介して!」
「黙れ」
「てか似てなくない!?」
「従兄弟でそんなソックリな奴見たことねーわ」
馬鹿がうるさいからまだ用意に時間かかってるのかと教室を覗いてみると明奈を囲っていた数人の生徒が俺と明奈を交互に見ながらなにやら騒いでいた。
「明奈ー! 早くしろー!」
「う、うん!」
「ごめんね! また明日話すね」
周りの人達を半分振り切る形でこっちに来た。
「ごめん。 お待たせ。」
「えらく友達できてたな。 転校生あるあるで囲まれてたの羨ましいわ。」
「高校になってからの転校生って珍しいもんね。でも話しかけてくれたからありがたかったよ。てかさーー」
明奈が何かを言おうとしたが横から冬馬が俺をヒジでツンツンしてくる。
人見知りの「ひ」の字も知らない奴なんだから勝手に話せばいいのに。と思いながら冬馬を紹介する。
「あ、忘れてた。こいつは同じクラスの冬馬。従兄弟が転校してきてるってあんまり周りには言ってないんだけど冬馬には言ってるからついてきてもらったんだ。」
「そうなんだ。 初めまして。」
「んでこっちは明奈。俺の従兄弟。また学校ででも会ったら話しかけてやって」
「初めまして明奈ちゃん! 颯太の友達やってます! 颯太とは超仲良いから帰る時はよく一緒になるかも! よろしくね!」
わかりやすい程に毎日一緒に帰ろうと思っているようだったからハシゴをはずしてやろうと思い
「俺がこれから毎日明奈と帰るわけじゃないから俺と仲良いアピールが明奈との下校には繋がらないぞ」
「そうか、美花とも帰らないとだもんな」
たしかにその通りなのだが何か少し憤りを感じた。
「美花って人は? 颯ちゃんの好きな人? 彼女?」
「そうそう! 颯太の彼女! ラブラブだからねえ」
「へー、そうなんだー」
明らかに俺に向かってしている質問に得意気に答える冬馬の反対側でちゃかすように、目を細める明奈。
「そういや学校はどうだった? 囲まれてたから友達とかできたんじゃないの?」
変にちゃかされる前に会話を変えた。
「うん。 何人かにLINEやSNS聞かれたりしたかな。 さっき見たら皆からスタンプとかメッセきてた」
「俺にもLINE教えてよ! スタンプ送るし! 」
「スタンプだけ送られたい訳じゃないですけどね。 これQRコードです」
「ありがとう!」
冬馬は羨ましいぐらいに言いたい事を言葉にできて羨ましい。
明奈のLINEをゲットした冬馬は嬉しそうに手を振りながら自分の降りる駅で降りていった。
急に静かになった空間で明奈は溜まっているLINEを1つ1つを確認している様子だったので俺もスマホを確認したら美花からLINEが届いていたがいつもより疲れていたからか開かずに閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
自分たちの降りる駅に着いたのでまだスマホを見ている明奈に降車を促した。
「ほら、降りるぞ」
「もう着いたんだ。 はーい」
駅のホームから長めのエスカレーターで降りていると前の段にいる明奈のスマホ画面が目に入ってきた。
ハッキリと全文は見えなかったが相手から短い文章がいくつも届いていて明奈からの返事は
「はい」
「ごめんなさい」
といった内容だった。
明奈は小さく溜め息をしながら画面をすぐ閉じた瞬間振り返り俺と目が合った。
覗いたつもりはないが少し気まずくなった。
「そうだ! ステーションデパート寄ろ! タピオカ屋があるから奢ってやるよ。」
「そうなの? 行く行くー」
覗いてしまった罪悪感と、一瞬元気のなさそうな雰囲気を感じたから誘ったのだがいつも通りの元気そうな返答がきた。
俺の気のせいなのかと思いながら少し心にモヤモヤを残しつつタピオカを飲みながら2人で帰宅した。
小説投稿は初めてなので至らない点があれば遠慮なくお声を頂ければと思います。