少女の覚悟
しばらく魔族少女のナータの後をつけていたが、明らかに不審な動きをしていた。
「見て下さいニース様!」
ウルがそう言った瞬間、魔族少女のナータは目の前で別人の女性に変化していた。
でも、それに気づくものはいない。
「魔族の体質ですかねー?あのまま城内に行くようです」
「ウル、中にいるユガ王が今どこにいるかわかる?」
「ちょっと待って下さいね……はい、今は地下の特別室にいるみたいですからまず安全でしょう、とは言え彼女にとっては命を賭ければ吹き飛ばせるようですね」
そう、ナータのスキル『自爆』
それは周囲のあらゆる全てを瞬時に爆発に巻き込むもので、珍しいものではない。
爆発範囲は火属性のランクに比例し、SSランクであれば城程度なら簡単に吹き飛ばせる。
城の中に入ってしまった今、誰かに捕まれば城ごと吹き飛ばすかもしれない。
「ニース様、王だけ助けましょうか?許可さえ頂きましたらニース様の身体をお借りしてちゃちゃっとやっちゃいますがどうでしょうか?」
「それくらいのことが出来るなら、王だけじゃ無くナータや城の皆を助けることもできない?」
「出来ますけど、別に助けるのは王くらいでいいと思いますけどねー」
表情というのはスライムなのでわからなかったけど納得はしていないということは理解出来た。
「ウルと僕2人合わせれば皆を助けられて幸せ、僕はそうだと思っているんだけど……」
「う、うぅ……わかりましたよ!あの子を助ければいいんですね、本当にお人好しですねニース様は!」
「ありがとう!」
「それでは見ていてください、一瞬で終わらせて見せます!」
ウルは僕に纏わりついた直後、ぐわんと身体に負荷がかかり僕は一瞬目を閉じてしまう。
「……は?」
そして、僕の腕の中には一糸纏わぬ姿のナータが抱かれ、いつの間にか城から遠く離れた森にいた。
「どうなってるの!?」
「先程言ったように助けたまでです。身包み剥いで隠していたナイフも没収しました、猿ぐつわはスキルを使わせないようにするためですよ?」
いや、確かに凄いけど!
これじゃ僕がナータを襲うために身ぐるみ剥いだみたいになってるのは気のせいかな!?
ナータもすぐに目を覚ます。
急に全裸にされてさぞかし怖がっているだろうと思っていたけれど、その眼差しは予想とは正反対の憧れを感じ取れるものだった。
(ウル、代わりに説明してくれない?これで中身が男だとバレたら完全に変態だから)
(承知しました)
「大丈夫ですか?失礼しました、私は」
「蒼皎姫様!!」
「…… 蒼皎姫?」
「はい!魔王を倒した英雄、蒼皎姫様とこうしてお話出来るなんて夢のようです!!」
(どうやら僕達、お姫様らしいよ……)
(何てことでしょう!申し訳ありません、見た目にまで気を配っていませんでした!今すぐカッコいい見た目に変えます!)
(急に姿を変える方が変だし、今の方が中身が僕だと分かりづらいからそのままでいいよ。それより何故こういう行動をしたのかも聞き出せる?)
(任せてください!)
「蒼皎姫、私はそう呼ばれているのですね……それよりも、ナータは何故自爆しようとしていたのですか?」
爛々と目を輝かせていたナータだったが、急に目線を落とし黙り込んでしまう。
「それは……言えません、それを言ってしまえば私の家族が酷い目に遭うからです」
その返事が全てだった。
なるほど、どうやら家族を人質にとられているみたいだ。
(ウル、直接僕が話したいんだけど、声を変えられたりする?)
(もちろんです)
「ごほん……ええと、ナータ?私が貴方と貴方の家族を護ります、ですから教えてはくれませんか?それに今ここで話した情報は誰にも漏れません、絶対に」
「本当ですか?」
「はい!僕……じゃなく私の言葉が信じられませんか?」
するとナータは泣き始めてしまう。
「お願いします、私の大切な方を助けてください!」
「詳しく聞かせて貰っていいでしょうか?」
詳しく話を聞くと、その大切な人は魔の咎森に囚われていて、イグニス城を吹き飛ばさないと殺すと脅され、それに誰かに話しても殺すと脅されていたらしかった。
(どーしますー?ニース様)
(行くよウルツァイト、その人を助けるよ)
(はーい、本当お人好しですねニース様は)
「大丈夫ですよ、必ずその方を連れて帰ってきますから。ですから絶対に死ぬなんて真似はしないでくださいね?」
「ありがとうございます!!」
最後までナータの羨望の眼差しは途切れることはなかった。
(ニース様、ナータのことじろじろ見過ぎです!裸なら私だって裸なんですからね!)
(いやだってウルのは……)
(だってもとってもありません!ほら見てください!)
残念だけど、きっと見ても何も感じないよ……