四帝会議
「なんか、息苦しいな……」
「すみません!サイズがきつかったですか?」
「ううん、そうじゃなくてさ」
城の中に入ると、ピリピリとした雰囲気で外のお祭り騒ぎとはかけ離れていた。
「成る程これは何というか歓迎ムードではなさそうですねー、どちらかといえば今にも戦争しそうなくらい緊張感がありますねぇ……そうですニース様、ここはズバッと登場しましょう、きっとここにいる全員がニース様にひれ伏しますよ!!」
「ウル、喋りすぎだよ?」
「あ、確かにそうですね、わかりました黙ります!!」
「おいそこ!私語厳禁だ、って独り言か?」
「……はい、すみません」
皆をひれ伏させる様なことをするつもりは無いし、それよりもウルの変身が上手く行ったのか誰にもバレず城内を進んで行け一安心だ。
城の中心、煌びやかな部屋に到着すると巨大な円卓を囲むように4人の美しい女性が互いに顔を見合わせていた。
「わざわざ我らイグニス帝国の栄光を称賛しに来てくれるとは良い行いだ。これで四大帝国の争いも終わり、我々イグニスの属国として今後は貢献して行ってもらいたい」
緊張の中、口火を切ったのは長身紅髪紅眼、一際目つきの鋭い女性、イグニス帝国王ユガ・イグニス。
でもその言葉に反応するのはイグニス帝国兵だけで他の国の反応は無い。
「イグニスの民が魔王を倒したと?馬鹿を言わないで欲しいですわ、あの光は風の煌めき、豪風により魔王は消しとばされたのです」
ユガ国王を嘲笑するかのように声をあげたのは碧髪碧眼のミストラ帝国王シャロ・ミストラ。
若く美しく10歳程度にしか見えないが、それは帝国の秘術により保たれており、実年齢は250歳とも言われている。
「風魔術があれ程光を放つ訳がありません、あれは我らが発掘した金剛石による攻撃です」
そこにいたのはグランディナ帝国国王側近、服の上からも分かる筋肉の造形が美しく、黄土色の短髪が似合う戦処女、フィルーダ・グランディナだ。
帝国王達に対しても物怖じしないのは流石だ。
「皆さん落ち着いて話し合いましょう、どうであれ魔王が倒されたことを喜ぶのが1番だと思いますわぁ」
宥める様に仲を取り持つのは垂れ目と露出の高い衣装が妖艶な雰囲気を醸すチャリナ・オーヴァル。
元奴隷娼婦からオーヴァル帝国王になった異質の人物で、国民の9割以上が女性というハーレム国であるオーヴァルを統べる女性、一際露出が激しいのは娼婦だったからだろうか。
魔焉大戦に唯一不参加を表明した帝国だ。
「馬鹿な奴隷姫は黙っていてくださいませ、第一あなたが帝国会議に出ていること自体が汚らわしいですのよ?」
シャロは吐き捨てる様にチャリナを罵倒する。
「私をその名前で呼ぶなんて度胸がありますねぇ?ああそうでした、あまりに未熟な身体だから誰にも好意を寄せられずその年まで処女だったことを忘れていましたわぁ」
「その口、二度と無駄口が叩けないよう切り削いで差し上げてもよろしくてよ?」
「醜女の争いは醜いな……なぁフィルーダよ?そうおもうだろう?」
「いえ、私はどちら様も美しいと思っています」
「やはりフィルーダは可愛いな……どうだ?イグニスで私の側室にならないか?」
「遠慮しておきます、それよりも魔王を倒したのは……」
四国の目的は犠牲を最小限で他国を支配下に置くこと。
イグニスも誰が倒したか分からず、魔王が倒された今、自分達の国民こそ魔王を倒したと示したいが決定打がないのだろう。
ここで力を見せて名乗り出れば状況は変わりそうだけど、いざこざに巻き込まれるのは面倒だ。
(いやぁ、確かに王としての才はあるみたいですねー)
──────────
名前:ユガ・イグニス
スキル:永炎
魔力:100/100
魔術適性
地:S
水:S
風:S
火:SSS
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──────────
名前:シャロ・ミストラ
スキル:樹牲
魔力:100/100
魔術適性
地:C
水:C
風:S
火:D
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──────────
名前:チャリナ・オーヴァル
スキル:凪砂
魔力:100/100
魔術適性
地:A
水:S
風:A
火:F
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──────────
名前:フィルーダ・グランディナ
スキル:血脈
魔力:100/100
魔術適性
地:S
水:A
風:F
火:B
──────────
ウルが映し出すのは見れないはずの他人のステータス、やはりとことん謎スライムだ。
(それとすみませんニース様、ここで名乗り出るのは危険みたいです。当然私達ではなく彼らがですが)
(え、どうしたの?まさか魔族が?)
(間違いなくいますねー、それも1人ではなく数十人です。どうやらこの会議自体が狙われたようです。死んでも尚魔王は諦めていないとは見事な二段構えです)
僕には全くわからなかったけれど、ウルにはわかるみたいだ。
魔族同士の何か特別な感覚があるんだろうか?
(まさか、名乗り出た勇者を倒すため?)
(恐らくはそうでしょう、もし名乗り出れば今頃ここは血の海でしょう……あ、当然ニース様には傷一つ付けさせはしませんよ?)
とは言えこの状況が良いとは思えない。
魔族が痺れを切らして、国王達を脅して吐かせることくらいはやりかねないし、それに魔族は既に魔王を失っているから特攻するつもりでもおかしくない。
(ニース様、私がここにいる魔族だけ倒しましょうか?もちろん、正体がバレないように)
(……出来るの?)
(もちろーんです!)
するとウルツァイトは黙り込むと同時に服から小さな白い何かが落ちて行く。
それは地面に落ちると完全に透明になって地面を這うように四方八方に拡散して行く。
(ニース様、準備完了です!いきますよー!)
その瞬間、場内で一斉に倒れる音が鳴り響く。
「何だ!?どうかしたのか!?おいお前!何があった!?」
「わ、わかりません!ただ急に衛兵が……うわぁぁぁぁぁあ!!」
倒れた兵士はみるみる内にその身体を変え、後に残ったのは魔族の死骸だった。
「魔族が変化して潜り込んでいただと!?ここは一旦解散だ!異論はないな!?」
「ええ、でも何故こんな多数の魔族が入り込んでいるんですの?この城は魔族は入れない結界で守られているんじゃなくて?」
「話は後です!今はとにかく解散しましょう!」
そうして混乱と共に帝国会議は終了した。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ、はぁ……ウル、何をしたの!?」
混乱に乗じて城を脱出すると、僕はようやく元の姿でウルと話すことが出来た。
「はい、私の一部を分離して魔族の急所を刺し抜いたのです。魔族以外の死傷者はゼロ、うまく行きました!初めてだったのでちょっと不安でしたが……これで万事解決です!」
「僕、何もしてないな……」
「大丈夫ですよ?ニース様は何もしなくてもいいんです!だって、今まで頑張って来たじゃないですか!」
もう何もするな、それはバディアに言われた言葉と一緒。
でも、ウルのその言葉は嫌な気分にはならなかった。
「ありがとう、ウル」
「え、何かそんなお礼言われることしましたか?……でも、ニース様にお礼を言われるのは悪くないですね!!」
そんなウルの嬉しげな声を後に、僕達は人混みに紛れてイグニス城を後にした。