新たな力を
「これが今のグランディナの現状です」
肥沃な大地と自然、それがグランディナの国が発展した理由だ。
しかし……目の前にあったのは、赤黒い大地だった。
「これが1体の魔族にやられたのです」
フィルーダの話によると10日前、このグランディナにある魔族が現れた。
翡翠色の髪と瞳、褐色の肌、そして魔王を倒したと名乗る少年だった。
それを聞いたグランディナ帝国民は大騒ぎ、帝宮に招き国中はお祭り騒ぎ、フィルーダを含め国中が浮かれていたそんな時事件は起きた。
『帝剣を渡せ』
翡翠色の瞳の少年はそう言い放ったが、帝剣は国宝で当然帝王の許可がなければ渡せない。
そう返答したことをきっかけに少年はたった1人で国中を燃やし尽くし帝剣を奪って行った。
更に謎の消すことができない紅炎によりその被害は拡大し、最終的に国土の7割と国民の3割を失い、そして去り際にこう言った。
──次は母上と国を滅ぼしにくる、と。
「災厄、見たものは皆そう言いました……そしてそれは彼によく似ていたのです」
「今度は僕ですか……困ったものです、僕が父上を困らせる真似はしないと言うのに」
「こちらを見ればわかります」
その災厄の姿が魔術により地面に投影される。
「確かに似ていますが、髪色と瞳の色は見比べると少し違うようですが」
「スーリは何か知ってる?」
「全く検討がつきません、ミストラの件といい何か僕たちに成りすましている、もしくは父上を貶めようとしているのか……ですが何の意味があるのか」
不安がよぎる中、フィルーダが突如頭を下げてきた。
「頼みがあります、どうか協力してこの災厄を倒してしてくれないでしょうか?蒼皎姫様であれば倒せるはずです」
「父上、どうしますか?」
ウルの力を以ってすれば余裕かもしれないけど、もしも災厄がウルと同じ力を持っていたなら。
「ウルはどうしたい?」
ウルは僕の身に危険が及べばその身を挺して守る、だからこそウルに聞かなければならない。
別室でガリアに遊ばれていたウルに聞いてみると。
「そんなこと決まっています、そいつを倒したいです!何かわかりませんが蒼皎姫の名を汚すような存在、放置してはいけない気がしますぶぅぅぅぅ!?何故殴るんですか!?」
「よく言った白スライム!ガリア嬉しい!」
「僕も災厄の討伐には賛成です、こちらから打って出るべきです」
ルキも頷き同じ意見のようだった。
……そうだ、今の仲間は僕を見捨てたりしない。
「僕も英雄に成り済ました奴を見て見ぬ振りをするつもりは無いよ」
「ありがとう!助かるぞ!」
ガリアに抱きつかれるとウルがそれを引き剥がそうと僕の身体に纏わりつく。
とは言えやることはたくさんある。
間違いなく相手は魔王を凌駕する化け物、一撃と言うわけにはいかないだろう。
魔黒器を集めることが出来ればいいんだろうけど、今は情報は無い。
それより必要なのはその力を扱う僕自身が強くなることだ。
「ウル、相談があるんだ」
「わかっています!今以上に強くなる方法ですよね?きっとニース様ならそう言ってくださると思っていましたから……魔黒器を取り込んだら思い出したんです!私を扱う方法を!」
ウルが僕の右眼だけに取り付くと視界に文字が表示される。
──────────────────────
残エネルギー:100%
予備エネルギー:100%
装備覚醒率:7%
Ver.1.00
──────────────────────
「私をバージョンアップすることでニース様が強くならずとも私をより扱いやすくなるという訳です!」
「バージョンアップ?ただの強化とは違うの?」
「簡単に言えば進化ってことです!わかってない顔ですね、とにかく目をつぶっていて下さい!ルキ、スーリ協力して下さい!」
がしりと羽交い締めにされ更に目隠しで身動きが取れなくなる。
「さてニース様覚悟はいいですね!」
「待った!何する気だよ!?」
「ふふふ……強くなるには代償が要ります。といってもニース様には何の変化もありませんから心配しないでください!」
そして目の前が真っ暗な僕の肩を掴むふにぷにとした触手の様なもの。
「覚悟して下さいね?ふふ……ふふふ、ニース様、ちょっと痛いかもしれませんが……我慢して下さい!」
ウルの吐息が近づき、そして。
かぷっ。
「いだだだだっ!?何してるの!?」
「ふぁーしょんふぁっふでふよ?」
ウル?に噛まれているところからちゅうちゅうと血を吸われる感覚と同時、何かが身体の中に入ってくるむず痒さを感じる。
「完了です!目隠し外していいですよ?」
取り外して噛まれた肩を見てみるけど、特に傷は無く何か変わった様には見えないけれど……
「外見では変化はありませんがまずは手のひらを出して意識を集中させて下さい、そこに力を集める感じです」
言われるがままやってみると右手から少しずつ白い何かが現れ始める。
それをじっと見ていると、徐々に手のひらちょうどのサイズになる。
なんだろう、手のひらに白い何かが現れたのを間近で確認しようとした時だった。
「パパン!!」
「うわぁぁあぁぁあぁあ!?」
急に語りかけてきたそれを勢いよく投げつけてしまう。
「何をしているのですか!?私の分身ちゃんが爆発四散してしまったではありませんか!!」
「分身ちゃん!?これもウルだって言うの!?」
「はい!そうですねー、適当にミニツァイトとでも呼んであげて下さい!それは万が一私がニース様と離れ離れになってしまった際の保険の様なものです、私とは別の意思で動きニース様をお守りするものです。あ、保険なんで力はほとんどありませんが」
投げつけた小さなウル、もといミニはいそいそと身体を集めて1つになると、僕の身体を上り肩に乗る。
「はじめましてニースさま、わたしはミニツァイト、ふつつかものではありますが、ニースさまをおまもりするためがんばりますので、よろしくおねがいします」
少しあどけない口調と幼い声で挨拶するミニは可愛らしい。
「これでニース様も強くなれるはずです、ミニ、ニース様を手伝ってあげなさい!」
「はいわかりましたママン」
ミニが僕の身体に取り付くとそのまま消え、直後僕の体が勝手に動き始める。
「え!?ちょ、何で勝手に動いてるんだけど!」
「努力に勝る才能無し!聞いたことは忘れ、見たことは覚え、やったことは理解するといいますからね!さぁ、頑張って下さいねー」
「何それ!うわ、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
そんな叫び虚しく、僕の身体は魔の咎森へと一直線に走り始めていたのだった。




