グランディナ帝国
「いやぁ楽ですねー、すこーし臭いですけど馬車もいいものです」
クッションのように尻の下に鎮座するウルが口を開く。
僕達は次の帝剣を集める為グランディナに向かっていた。
「何で蒼皎姫で行かないの?馬車なんて使う必要無いわ」
「そうしたいんだけど、グランディア国境は物理的に封鎖されているから難しいんだ、でも国王の紹介状があるから大丈夫だよ」
去り際にシャロに渡されたのはグランディナへの特別通行証、色々あったけど根はそこまで悪い人ではないように思えた。
「にしてもミストラの追放区と天空区は奇妙な構図でしたね、人族の醜さが現れて面白かったと言えば面白かったですが」
「そうだね……でも僕が代わりに魔力を置いてきたからは追放区から魔力は奪われないよ」
ミストラの魔力中枢の帝剣を奪ったことはバレてないみたいだけど、博物館のはすぐにバレた。
でも、返したのはスーリに作って貰った偽帝剣、バレるかなと思ったけど全くそんなことは無かった。
「人族を心配するわけではないですがそうなると追放区を縛るものは無くなり、戦が始まってしまうのではないですか?」
「けどあのままにはしておけなかったから、それに力を取り戻してどうするかは追放区の人次第だよ」
「そこまで考えていたなんて流石です!」
力を奪われて理不尽な思いをする、そんな思いはしてほしくない。
とりあえずはグランディナまではしばらくある、最近は色々あったから寝かせてもらおう。
ウルを敷いた上に寝るのは木の上に寝るより痛く無く、馬車の中なら振動も吸収して最高だ。
「むふぅ、ちょっとくすぐったいですよぉニースさまぁ……」
ウルの寝言がなければより最高だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「うわぁ……これ何ですか?」
グランディナ帝国国境に到着した僕達の目の前に現れていたのは壁。
しかしただの壁ではなく、それは見渡す限り左右に広がり、見上げてもその高さは500m以上はあり、全く分からない程に高い。
「イグニスとミストラよりも物騒に見えるのだけれど、面倒は嫌よパパ」
グランディナ帝国。
巨大な岩壁に囲まれたそこは四大帝国の中で最も多く人族の住み、更にその数は増え続けている。
理由は明白、グランディナは最も自然に恵まれていたからだ。
そしてグランディナに住む者は全員が例外なく『家族』として扱われる。
そしてスキル「血脈」による魔力の共有により貧困や飢えや孤独、病を互いに協力して乗り越えるそれは、ミストラとは正反対の国と言えた。
紹介状を見せれば何の問題も無く入国することができる……はずだったんだけど。
「動くな!!これ以上貴様らにグランディナを好き勝手にはさせないぞ、それに紹介状まで偽造するとはな!!」
「ウルまた食べたの……?」
「ごめんなさい!寝ぼけてつい!ここは名誉挽回、全部吹き飛ばして無理矢理入国します!」
「やめて」
「お、大人しくしろ!」
それにしても妙に衛兵隊が警戒している気がする。
気になるところだけど、僕達は大人しく拘束されるけどにした。
腕にはダイヤモンド製の手錠。
普通なら破壊不可能なそれをはめられ、兵士達は安心したのか態度が横柄になる。
「可愛い顔してるじゃねえか、その身体、後で思う存分楽しませてくれよ」
「は?触れたら殺すわよ?」
「ひぃ!?」
グランディナは兵士達も温和だと聞いていたんだけど、随分と想像とは違うようだった。
城に入る前に顔に黒い布を被らされる。
──何をしているのですか!?連れて来なさいとは言いましたが手錠をして無理矢理連行しろとはいっていません!
そうしてしばらく歩き、言われるがまま座ると聞こえてきたのは聞き覚えのある声。
黒布を取られ、目の前にいたのは……
「申し訳ありません、こちらで手違いがありまして大変ご無礼を致しました……」
「……ナータ?」
「ナータ様!何を言っているのですか、こいつは災厄、我がグランディナに大災害をもたらした張本人で」
「似ていようがこの方達は別人、今すぐ手錠を解いて下さい」
「わ、わかりました!」
目の前にいたのはナータだった。
でも僕達といた時よりも凛として、まるでガリアが誘拐された時とは全く違う雰囲気だ。
「お久しぶりです、先日は本当にお世話になりました」
「ナータ?君は一体……」
「ああ、貴方にはまだお話ししていませんでしたね」
ナータの合図で兵士達は下がって行く。
目の前でナータは土に飲み込まれると、現れたのはフィルーダだ。
「あ、え?」
「まずは謝らせて下さいニース様」
「謝る?えっと、ナータの事なら別に気にして無いですけど……」
どういうことだろう?
「私はイグニス城を破壊、いや他の三帝国の重要人物を消し去ろうとしていました。ナータと言う私のもう1つの姿で。ガリア様を魔族に誘拐させ、安全を確保してからでしたが……」
……開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「グランディナにとっての邪魔を排除し、そしてガリア様こそがオーヴ大陸の覇者となる予定でした」
「僕には1億年かかっても人族は理解出来なさそうです」
「理解して頂くつもりはありません、それと誤解しないで頂きたいですが、当然蒼皎姫様に恨みはありません。結果的に計画は邪魔されましたが……それとこの計画にはガリア様とナータは知りません、ですから処断したいようであれば私だけにして貰えないでしょうか」
確かに行おうとしたことは許されないかもしれないけど、四大帝国は互いに敵対関係。
敵を排除しようとするのは間違ってはいないのだろうけど、それでも無関係な人達もいたはずだ。
「言いたいことはわかっています、ですからもう2度とナータを利用することは無いと誓いますし貴方達の正体も他言はしません」
うっ、正体がバレてるみたい。
「……何でわかったの?」
「ナータが助けられた時、一瞬ですが蒼皎姫の中にいる貴方と至近距離で目があったからです。私は自慢では無いですが一度会った人の瞳は覚えることが出来るんです。土魔術というか、育った環境がそうさせたのですが」
「ちっ、勘がいいですね……というかナータを利用しないとか本当ですかぁ?全然信用できませんけどぉ?」
ウルの言う通り、とは言え今はそれを信用するしかない。
「わかった、でも次もしナータを使い捨てる様なことがあれば……わかってるよね?」
「勿論です」
手錠を外されると、今までいた玉座のある部屋から移動して来たのは動物だらけの奇妙な部屋。
「ニース!また会った!」
「ガリア、久しぶり!……あ、いやガリア王、お久しぶりですね」
「敬語いらない!ガリアとニースは親友!」
人懐っこく僕だけではなくルキや初めて会うスーリにも物怖じしないのは王の器なのかもしれない。
「フィルーダ遊んでくる!行こう白スライム!」
「何ですか!嫌です!私はニース様の側を離れないぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあ!」
悲鳴と共に再びズルズルと引き摺られて行くウル。
「ニース様、少しいいですか?今のグランディナの現状を知って欲しいのです。それにそのスライムは私達を襲った災厄と関係があるかも知れません」
先程から感じるグランディナの疲弊した雰囲気、それを確かめる必要があるみたいだ。




