誘惑
「んぁっ!?……ううん……あなたはまさか……帝剣ください……」
びっくりした、寝ている時にとんでもない寝言、てかどんだけ帝剣好きなんだ。
そんなウルの寝言を後に皆が寝ている部屋を出て、しばらく歩くと僕は1人城の裏門に立ち尽くしていた。
ウルには説明出来なかった為、皆が寝静まる夜を待ち部屋を抜け出してきたけど、ルキとスーリには見抜かれていたので一応説明して来た。
──浮気ですか?程々にしてくださいね。
──欲求不満なら私が相手するわよ?
「呼ばれたから行くだけだよ、全くもう……」
鍵を裏門の兵士に見せると、何かを理解したようで道を開ける。
そうして着いたのは甘い香りのする小屋、鍵はこの小屋のもののようだ。
ガチャリと鍵を開錠し、意を決して扉を開ける。
そこには……
「あら、遅かったですわね?」
シャロが優雅に食事をとっていた。
……全裸で。
なんだろう、王というのは他人に裸を見せたがる種族なのだろうか?
「まぁ座ってくださいまし、わたくしは個人的に感謝を言いたかったのですわ」
「あの……シャロ王、服をきていただけませんか?」
「裸の女性に服を着ろと言うのは失礼ですわ、それにここに呼んだのは貴方をミストラ帝国、その帝族の一員に加える為ですの。ならば既成事実を作ってしまった方がよろしいでしょう?」
シャロ王の身体は特徴的、身長は僕よりかなり小さいけれど、胸や尻はとても大きなアンバランスな体型。
直に見るとそれは尚更強調され、身体に似合わずの童顔もあいまって非常に魅力的だ。
一言で言えばガキおっぱ……いや失礼だな。
「折角全裸で来たのですわよ?おわかりですわよね?さぁ、始めましょう?」
魅力的な提案かも知れない、でも。
「すみません、それは出来ないと言いに来ました」
「……なぜですの?」
「僕にはやることがあります、だから今は何処かの国に従うは出来ません。それに今は蒼皎姫様の弟子、師匠に怒られてしまいます」
「そう、そうですのね……」
シャロ王は裸のままクローゼットの扉を開けると、ネグリジェを羽織り始める。
「ふふ、なるほど……ならますます逃したくありませんわね、なんだかんだ言っていますけれどどうせあのユガにたぶらかされたのでしょう?それだけは……許しませんわ!」
「いえ、これはユガ王にも同じ説明を」
「黙りなさい!!」
シャロが机の上に置いてあったミスリルの箱から取り出したのは黒羽根。
独特の光沢を持つそれはメルベアウルフが持っていた黒籠手と同じく紅炎が吹き出していた。
「それってまさか……駄目だ!」
「やはり知っていますのね?となればこの力は本物と言うこと」
シャロは黒羽根を背中に突き刺すと、途端に巨大な羽根が生え、空色の肌や髪が褐色に変化して行く。
「素晴らしいですわぁ、これが真の魔王の力……さぁ、逃しませんわよ?貴方との子を成した後、あの女に渡さないよう殺してさしあげますわ」
まずい、1人で来たのは本当にまずかった。
と言うか何でシャロ王が魔黒器を持ってるんだ?
色々整理したいことがあるけれどまずは逃げるしかない。
そう思い距離を取ろうとしても小部屋は鍵がかけられていてきっと誰も来ない。
絶対絶命、ルキやスーリ、ウルもこの場所を知らない。
……そのはずなんだけど、小屋の窓から外を見ると、そこには明らかにルキとスーリ、そして担がれていたウルがいた。
「母上、浮気の現場を見てどうするつもりですか?」
「仕方ないわよ、パパも男ってことね」
「ニースさまぁ、これは現行犯ですねぇ!!私に黙って会いに行った罰……ってなんですかこいつぅ!?」
目の前のシャロ国王はみるみるうちに変化して行き、黒いツノに牙、そして髪の一部は翼となる。
「シャロ王だよ!」
「うわぁ……やばいですね!」
「説明は全部するから、今はシャロ王を落ち着かせるよ!」
「この力ぁ、今なら英雄なんて一撃で殺せる気がしますわ!!」
シャロの右手から現れたのは無数の黒羽。
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名前:シャロ・ミストラ
スキル:樹牲
魔力:-100/100
魔術適性
地:C
水:C
風:SSS
火:D
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魔力がマイナス?でもその状態で魔術を使う、これもメルベアウルフと同じだ。
それに巨大な紅炎を出しているはずなのに、火の適正がDなのも分からないし風魔術適正が上昇しているのもおかしな話。
「嫌な予感がします、一旦引きますね!」
ウルを装備して瞬時に小屋の屋根を吹き飛ばし脱出すると、直後小屋を破壊したシャロは飛び出すと黒羽根を舞い上がらせ僕達の行方を遮ってくる。
よく見れば、シャロの胸の部分には漆黒の結晶。
「ウル、胸にあるあれが何が分かる?」
「ええと……はい!あれが奇妙な力を使う大本みたいです!」
「わかった、ならあれを狙うよ!」
「了解です!」
両手から蒼炎を放つけれど、まるで遊ばれているかの様に攻撃は避けられてしまう。
「素早いですね、ですがこれなら避けられないでしょう!全迎撃!」
今後は両腕から蒼炎を無数に放ち、それは黒羽根を迎撃してシャロを追い詰め、今度こそ胸の結晶に狙いを定める。
「わたくしのスキル、舐めないで頂きたいですわねぇ!!」
──────────
名前:シャロ・ミストラ
スキル:樹牲
魔力:-1000000/100
魔術適性
地:C
水:C
風:SSS
火:D
──────────
急激にシャロの魔力が上昇、いや下降して行く。
本来樹牲スキルは魔力を奪い高めるスキル、それが今は減らすスキルに変化しているみたいだ。
直後、僕達に向かって放たれた無数の黒羽根、それを何とか極大の蒼炎を相殺する。
「相手も中々やりますね、それでは更に蒼炎の威力を高めてもう一度やっちゃいましょう!」
「ちょっと待った!次の一撃は慎重に行かないと駄目だ、周りを見て!」
異変を察知したグランディナ兵士達は豹変したシャロが誰か分からず一斉に風魔術で黒羽根を吹き飛ばし攻撃しようとするけれど、黒羽根はものともせずにミストラ兵士達に襲いかかり、兵士達は燃え上がる。
何とか全方位攻撃で黒羽根を燃やすことが出来るけど全部じゃない。
そしてウルの攻撃は連発出来ない、次で決めないと更に大きな被害が出てしまう。
「スーリ、ルキ、お願い!狙えるよう注意を引きつけて!」
「わかったわ!」
「承知しました!」
スーリは碧槍を投げつけシャロの黒翼を穿つと、槍に繋がっていたミスリルの綱を引っ張り堕とそうとする。
「私をこの程度で堕とせると?馬鹿ですわねぇ!!」
シャロが黒翼を大きく羽ばたかせるとスーリは吹き飛ばされ大槌で攻撃しようとしていたルキに激突してしまう。
「何やってるのよ馬鹿スーリ!」
「姉様こそ合わせて攻撃すると言ったじゃないですか!」
「喧嘩してる場合じゃないですよ、私がやりますから2人は下がっていなさい!」
「スーリのせいで怒られたじゃない!」
「姉様が作戦通りにやらないからですよ!」
駄目だ、話が全く聞こえていない。
「ニースは逃げて後の2人も仲違い、これが英雄の弟子だなんてそちら側行かなくて良かったですわ」
僕は逃げた訳じゃ無いんだけどウルの中にいる以上は説明しようが無い。
そしてシャロの無数の黒羽根が飛ばされると、ルキとスーリを矢の様に射抜かれ地面に倒される。
「ルキ、スーリ!!」
「こんな簡単に倒されるなんて、英雄の弟子も大したことないですのね」
まさか2人が人質に取られるなんて……どうしたら。
「大丈夫ですよニース様、あの2人をよく見て下さい」
「え?」
「な、何ですの貴方達!?」
黒羽根に射抜かれながら、ルキとスーリは立ち上がる。
その異様な光景にシャロは咄嗟に放った黒羽根を慌てて黒翼に戻した……のだけど、ウル越しに見たその1つ1つにはきらりと輝いていたものが見えた。
「ぎゃいん!?」
顔面から地面に激突落下したシャロの身体には、金糸とミスリル糸、柔軟で強靭な2つの糸が絡みつき拘束していた。
「今です父上!」
「今よパパ!」
絶好のチャンス、これを逃す訳には行かない。
狙いを定め、僕は言い放つ。
『排除……蒼炎!』
細く鋭い光は的確にシャロの胸を貫き、そして砕け散るとシャロは倒れ込む。
「やりましたねぇ!!」
急いで近寄り身体に触れてみると、呼吸があった。
「生きてるみたいだ……ルキもスーリも平気?」
「問題ありません、あの程度なら平気です」
「同感ね、それよりどうするの?周りが慌ただしくなってきたようだけど」
僕達とシャロを取り囲むグランディナ兵士達。
「城に行こう、事情も説明しなきゃいけないし」
「そうです事情です!何でニース様は全裸のガキおっぱいと部屋にいたのかきちんと説明してもらいますからね!!」
「わかったわかった、早く行くよ!っと忘れてた」
シャロの胸の黒結晶を手に取ると砕け散って地面で液体と化す。
そして勝手に何処かに向かっているかの様に動いていた。
「逃しませんよぉ!おらぁ!」
ウルは黒い液体覆い被さるとそのままもごもごも動き、そして動きを止める。
「ウル?大丈夫?」
「はい大丈夫ですよ……お、見てください!」
すると突如ウルが僕の頭に取り憑く。
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装備覚醒率:7%
ウルツァイト、耐寒機能回復
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