勇者の終わり、そして始まり〜ざまぁその3〜
「はぁ……はぁ……よし、いいぞ!!」
「バディア、本当に大丈夫なの?勝手に魔王城から物を盗み出して!?」
「うるせえ、上手くいってるんだから黙ってろ!てめぇもこのままじゃ終われねぇだろうが!」
「何よ、私のことを置いていった癖に!!貴方が逃げて私が捕まってどれだけ大変だったかわかる!?偽勇者の仲間、それだけでどんな苦痛だっだかわかるの!?」
「黙れよ、俺がいないと何もできねぇ癖によぉ!!」
あの空っぽ無能、出来損ないのニースがどう英雄に取り入ったかわからない。
だが、金は貯めていたようだから全財産を使って弟子にして貰ったに違いない。
魔王を倒せず、ニースの配下になりかけ、そして今は廃墟寸前の魔王城を漁る日々を送っていた。
あのまま無能クズニースの配下になるのは御免だ。
あいつのせいで本当に力のある俺が今こんな目に遭っている。
だが、今日でそれも終わり。
崩壊した魔王城の最深部、そこに隠されていた宝があれば英雄だろうと誰にも負けることはない。
魔王すらも扱えなかったらしいが、英雄だか何だか知らない奴に一撃で殺されるような雑魚だ。
俺なら扱える、本当は誰よりも強い俺なら。
手のひらサイズ宝箱を抱え誰にも見つからない場所で観察してみると、面倒くせぇ封印が施されていた。
「対魔力封印、これは魔王のか?」
魔力を感知すると鍵が掛かる封印、でもそれじゃ魔王すらも使えない。
「どうすんのよ、これじゃ開けられないじゃない」
都合いい、今の俺は魔力が無い状態で対魔力封印は関係ない。
宝箱に触れると鍵は簡単に開き、そして中には……
「……何もねぇじゃねぇか!!どうなってんだよオイ!!」
真っ黒だった。
「そんなはずはないわ!これが魔王が恐れるほどのものがあると魔族が言っていた、私の魅了スキルで相手は嘘はつけないわ!」
「じゃあこれを見ろ、中に何が入ってるんだぁぁ!?」
箱をリスティに投げつけ俺は一息つく。
どいつもこいつも使えねぇ、我慢にも限界があるってもんだろうが。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!ば、バディア!」
「何だうるせえ、魔族でも出たの……か……」
振り向く先、そこにはリスティがいた。
いや……はずだった。
「た、助けて……お願い……」
リスティの身体、その前身が真っ黒な何かに包まれていた。
「うわぁぁあぁぁあぁあ!?」
そこにいたリスティの身体が半分無くなり、黒いそれはリスティから離れ俺に向かってくる。
何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ。
落ち着けおおおおおあああえあれおれ!!
「ひっ、うわぁぁあぁぁあぁあ!?」
「……おね、がい……」
「う、うるせえ自分でなんとかしやがれ!!こっちは手を失ってんだよ、死ぬなら1人で死ね!」
最後に振り向いた時、そこにいたのは……赤い2つの目をした真っ黒なスライムだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「バディア様!?それはどうされたのですか!?それにリスティ様は?」
「……るせぇ」
「え?あの今何と」
「黙ってろ!無能なお前は黙って俺の言うことを聞いてろ!」
「…………」
何とかイグニスに戻った俺はニースの代わりにパーティーにいれた男の家に戻っていた。
勇者の仲間にして欲しいと頼まれたからパーティーに入れたがあまりに貧弱すぎたが、金だけはあるからそこだけは褒めてやる。
「バディア様、いやバディア。あんたには愛想がついた、今すぐ出て行け」
「はぁ!?てめぇが勇者の仲間になりたいって行ったから仕方なくいてやってるんだろうが!」
「どうやら、私は勇者というものに幻想を抱いていたみたいだ」
周囲には衛兵達、だが今は戦うことは出来ない。
「クソ!今に裏切ったこと憶えてろよ!」
「人の信用を裏切ったのはあんただろうが、今までのあんたの旅の仲間がほとんど全員死んだのはあんたが裏切ったせいだって噂だったが、どうやら本当らしいな」
「はぁ?仲間?勇者に仲間はいねぇよ、いるのは下僕だけだろうが」
とにかく今は身体を治さないと……魔力が無いのも全てクズニースのせい、魔力さえ戻れば……
──バギィ、ボキ、グチャ
……ん?
何かが折れ砕けるような音。
振り向くと10人以上はいたはずの衛兵達が1人残らず誰もいなかった。
だが、そこに代わりにリスティがいた。
「お前……リスティか?今ここにいた衛兵達は何処に行ったんだよ」
「大丈夫よ気にしないで、それよりもこの家、今所有者がいないみたいだからここを拠点に見つけましょう?」
青灰色の瞳のはずのリスティ、しかし今は真っ赤に染まりそれはあの奇妙な怪物と同じだとに気づき背筋が凍る。
「どうしたの?そんな怪物を見たような顔して」
「い、いや……それより実は今からは衛兵達と助けに行こうとしていた所で……あの化け物から逃げられたんだな」
「平気よ、それよりも私達のやるべきことをしましょう」
「やるべきこと?それは俺が決めるから黙ってろよ」
「わかってるわ、でも同じのはずよ。私達の敵である英雄と、その弟子ニースを見つけ……そして殺しましょう」
「へぇ、よくわかってるじゃねえか。お前もようやくニースを殺す覚悟が出来たか」
「勿論よ?そうだ、皆にも助けてもらいましょうか」
「……皆?お前に俺以外の仲間なんているはずが」
ぞわり。
背後に何ががいる。
しかし振り向くことは出来なかった。
なぜなら……振り向いたら死ぬと俺の本能が警告していたからだ。
「行きなさい四魔皇、ニースを探して来るのよ」
声は無かった、だが次の瞬間には背後の気配は消え去っていた。
「……お前、いや……貴方は一体?」
「私はそうね……アレが蒼皎姫なら、紅涅姫、とでも言った所かしら?」
目の前のそれはもうリスティでは無かった。
恐怖で動けない俺の肩に触れるその手から流れ出る黒い液体は俺の身体を蝕んでゆく。
『あー、スバラシイ反魔力ですネー、こんな逸材がいたトハ、逃がすわけにはいきませんネー』
心底不快な声、キュリキュリと爪で何かを引っ掻いた様な音のそれだが何故だが聞いていると徐々に安心してしまう。
触れる黒いそれに溶かされる身体、だが痛みは無い。
「さぁ、ニースを殺しましょう……その為なら、貴方はどうなってもいいわよね?」
「……ああ勿論だ、クズニースを殺して俺が英雄になる、俺は最強だ、最強だ最強だ最強だ最強だ最強だ最強だ最強だ最強だ最強だ最強だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ有能だ」
無能は有能に利用される。
クズニースから魔力を奪って、また利用してやるよ。
はははっ、ははハ、ハハハッ!!
◇ ◇ ◇ ◇
『ナンですかこいつ、私に取り込まれる最後だとか、自分が有能だとか気持ち悪かったデスネ』
「堕ちたものよね……でも良かったわ。これからは私とあなたの為に力を貸してくれるみたいだから」
『ソウデスネ、それにコイツの持つこの反魔力はどうやって手に入れタノデショウ』
「最後にバディアが魔力を奪ったニースが関係していると思うけど……気になるの?」
『エエ、もしかしたらその人物に私に似た存在が近づいているのデハナイカト思いマシテ。それが私が今必要としているモノなのデス……それが見つかれば世界の全てを手に入れることが出来マスヨ』
「それならきっと反魔力も喜ぶし一石二鳥ね、それじゃあ行きましょう」
リスティの身体に黒い液体が覆うと、その姿はまるで蒼皎姫そのもの。
「きっとニースなら今でも誰かを助けているに決まってるわ……だって、お人好しの馬鹿だもの」
『ハイ!タノシミです!まずはリスティ様にワタシの力をお見せシマス……とってオキの方法デ!』
「期待してるわ、メルタザイト」




