新たな国へ
「負けましたもう虐めないで下さいなんでも言うこと聞きますから!」
「こっちこそすみませんどうか服を着て下さい!」
目の前には服を焼かれ全裸のユグドラシル様。
その身体は拘束具に変化したルキに拘束されていた。
「やりましたねニース様!これで正式にニース様は私の妻です!」
今そんな話をしている場合じゃない。
「ユグドラシル様、約束通り真の魔王について教えて貰っていいですか?」
「無視ですか!でもそんなツンデレニース様も素敵です!」
ルキの拘束から解かれたユグドラシル様は突如生えてきた身体を植物で隠すと、値踏みするかの様に僕を睨みつける。
「確かに貴方なら真の魔王を倒せるかもしれません。わかりました、協力しましょう……ですが真の魔王と魔黒器の場所は私にもわからないのです」
「ユグドラシル様でもですか?」
「あれは私が倒した魔王よりも更に力のある存在ですのでまずは帝剣を集めるのが最優先、そうすれば真の魔王が目覚めても倒せることでしょう」
「と言うか本当に真の魔王なんて倒しに行くんですか?私は嫌ですよ面倒くさいし……ニース様もそうですよね!いやもちろんそうに決まってます!」
面倒なのは間違いない、でも……
「協力してくれないかな?」
「うう、ニース様の頼みなら断れませんが何でそんな面倒なことするんですか?」
「それは……」
英雄になりたいとか、勇者になりたいとかではなかった。
「娘にいい所を見せたいから、かもね」
「なんですかそれ気持ち悪い、スライムを妻にしたことはありますね」
「辛辣だね」
「パパ、私は嬉しいわ」
「ありがとう」
神様よりも優しい娘を持って僕は幸せだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「帰って来ました、やっぱり我が家が1番ですね!はぁーお腹空きましたねぇ」
ふにゃりと気の抜けた白スライムはルキに絡み付く。
「ママってお腹すくの?それよりパパ、今日の私はどうだった?」
「ルキがいなかったら僕はここにいないよ、改めてありがとう」
頭を撫でてあげるとルキはニコニコと喜んでくれた。綺麗な金色の髪……あ、そういえば。
「帝剣はどこにあるの?」
だが、ウルは黙って答えない。
「帝剣ゴルドラ、渡したはずだよね?」
「うぐっ!?な、なんのことでひゅか?」
何かをつまらせたような声で答える。
「ウル、口開けて」
「むぐぅ?」
むぐぅじゃない、可愛く『何言ってるんですか?』みたいな態度しても無駄だ。
「手伝ってくれないか?」
「|むぐ!?むぐむぐぅ?《2人とも、ママを信用してくれないんですか!?》」
何を言ってるかわからないけれど、どうせやめろとかだろう。
「ママ、大人しくして」
「むぐむぐぅ!ぐぐぅぅぅぅぅう!」
これじゃどっちが子供かわからない。
「パパあったわ、これよね?」
ウルの身体から帝剣の柄、それを思い切り引き抜く。
「…………え?」
でも出てきたのは、刀身が無くなった帝剣ゴルドラだった。
「あ、あるぇぇぇぇえ!?何で刀身が無いんですかね!?やっぱり昔の剣ですから運ぶ途中にぼろぼろになっちゃったのかもしれませんねちゃんと傷つかない様に私の口の中で守ってい」
「……まさかウル、帝剣を食べた?」
ぎくぅと音が出そうな程びくりと身体が跳ねたウルに詰め寄る。
隣からはルキの軽蔑の眼差し。
「う、う……そんな、ことは……」
「子供の前で嘘をついていいの?これから一生勝手に帝剣をつまみ食いした母親として暮らしていく、それで本当にいいんだね?」
「う……ご、ごめんなさぁぁぁぁぁあい!だって美味しそうだったんですもぉぉぉぉぉぉん!!うわぁぁあぁぁあぁあん!…………すみませぇぇえぇぇぇぇえん!!」
「起こったことを責めるつもりはないけど、何故食べたりなんかしたんだよ」
「それは……えっと……」
「美味しそうだったからよ、そうよね?」
帝剣が?何で?
どうみても美味しそうな香りがするわけでもなく甘い香りがするわけでもない。
「だ、だってこんな100年以上も熟成されたゴールドなんてそうそうお目にかかれないんですよ!?それに魔霧で発酵していてこれまた美味しそうで……」
熟成肉じゃないんだから。
ルキは呆れ顔、僕も同じくだけど。
「……はぁ、どうするか」
謎の液体でべろべろになり、ボロボロの帝剣を片手に頭を抱える。
とは言え帝剣が無ければ真魔王は倒せない。
「で、でも大丈夫ですよ!ニース様と私の力があればちょちょいのちょい!それにほら、見てください!」
良く見ると、僕の右腕に蒼い模様が浮かび上がっていた。
「見て下さい!ほら!」
ウルの身体が変化し始めると、見慣れた形のものが現れた。
それは……見事なまでの帝剣だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁぁぁぁぁあ!?帝剣を食べたんですか!?馬鹿なんですか!?」
再び聖塔に戻った俺たちはユグドラシル様に事情を説明した。
「僕がきちんと管理していれば……」
「悪いのはこの馬鹿白スライムですから誰も防ぎようがありません、ですが4つの帝剣は本来1つに揃うことでその力を発揮しますそうなると方法は1つしかありませんね」
「帝剣を全てウルに食べさせるとか?」
「その通りです、と言うかわかっているならわざわざ来ないでくださいよ、私も色々と信者の相手をするのに忙しいので」
「ちょっとあの、ユグドラシル様の力で帝剣を集めることは出来ないんですか?」
「帝剣は私の管理外ですから無理です、馬鹿な勇者がいたイグニスならまだしも他の三帝国は帝剣を崇めていますからそうそう簡単には手放さないかもしれませんね、では」
「あ、ちょ……いなくなった、そう言えばウルが何者か聞き忘れたよ」
「あの様子だと知らないんじゃないですか?私を白スライムとか失礼な呼び方してましたし」
ユグドラシル様も全知全能じゃないのだろう。
「ウル、ルキ、どうしたいとかある?」
真魔王も四魔皇を倒す為にはウルと帝剣の力が必要だけど、それは少なからず危険を伴うもの。
「僕はウル達のおかげで今までじゃ考えられないくらい良い生活が出来てる、だからウル達を無理矢理巻き込みたくない」
「パパ、私の幸せはパパの幸せと同じ。パパが好きなことをすればいい、私はそれに従うし従いたいわ」
「そうです、ニース様の幸せは私達の幸せです!それ以外の他意はありません!」
「ウル……?」
「い、いや本当にそう思ってますよ!?別に帝剣が食べたいからついて行くなんてー、そんなことない、ですよ…………………うん」
「ちゃんと言ってくれた方が有り難いよ、僕はウル達を奴隷や下僕と思いたくないし思わない。だからやりたいことがあれば手伝いたいんだよ」
ウルは眼を潤ませながら口を開く。
「帝剣を食べたいですぅ!」
「帝剣、そんなに美味しかったんだ」
「いやだって私だって驚きですよ!?こんなにはまるとは!」
「ママ、わかっていると思うけど本来食べていいものではないわよ?」
「う、うぅ……だから言いたくなかったんですぅぅぅぅぅぅ!と言うか、ルキも食べれば絶対にはまりますから!ね?」
側から見たらダメなことに誘う母親だ。
「そんな眼しないで下さいぃぃぃ!わかってるんですよぉダメなことくらい、でもどうしてもまた食べたいんですぅぅぅ!
ウルは謎の液体を体中から流しながら俺にのしかかって来た。
帝剣、残るはオーヴァル、グランディナ、ミストラだ。
「いいんじゃないかな、ウルも喜んで、強化できるし真魔王に対抗できるようになるなら一石三鳥だ」
「うう……ニース様ぁぁぁぁぁぁあ!大好きですぅぅぅぅぅ!」
次の帝剣を狙うとしたら、顔見知りのいるグランディナだけど不幸にもイグニスからは最も遠いから近国から行くのが良いだろう。
イグニスから近いのはミストラかオーヴァル。
会議の雰囲気を見ると選ぶべきは……
「ミストラに行こう、オーヴァルは中立の立場、それに魔術の発展したミストラならウルが何者なのかわかるかもしれないしね」
ミストラには行ったことが無いし、観光も出来るかもしれないし。
「そんなに私のことを考えてくれているなんて感激です!……他意はありませんよね?」
うっ、無駄に勘が鋭い。