統一神ユグドラシル
イグニス、オーヴァル、グランディナ、ミストラ
四大帝国が互いに魔王討伐と同時に冷戦状態にあるのは互いの領土、資源、国民を奪い合う為もあるけど、それはおまけに過ぎない。
四大帝国が真に願うのは、ユグドラシル様だ。
イグニス帝国の初代国王はユグドラシル様に出会い帝剣を与えられたことで大国に発展し、オーヴァル、グランディナ、ミストラも同じように強大な力を得た。
4人の末裔、つまり現在の国王達は再びユグドラシルに認められ、新たな力を与えられる為に争いあっている。
僕達は咎森に入り、しばらく歩くと見えてきたのは天空の雲よりも上まで続く巨大な白塔だ。
「これが聖塔ですかー、ユグ来ましたよ!ここを開けて下さい!」
「自分の家じゃないんだからそんなことで開く訳ないでしょ」
100階建の聖塔は四大帝国が取り囲むように中心にあり、誰でも1階までなら入ることが出来るようになっている。
それより上に行くには通行証が必要だが、ユガから貰った通行証を1階の少女に見せて中に入る。
中には延々と螺旋階段が続き、所々に人がいるのは塔の衛兵だろう。
「え、これ登るんですか?」
「そうだけどウルは待っていた方がいいかもね、僕はルキと一緒に行くよ」
蒼皎姫になって騒動にもしたくないし。
「わかったわ、ママは大人しく待っていて」
「うーん、本当はご一緒したいですがこれを登るのは流石に難しそうですし、中には魔族はいないようですし……わかりました、もし何かあればルキがニース様を守るんですよ!」
そうしてウルに見送られ、僕達はひたすらに登って行く。
「結構あるわね、今日中に着くかしら」
「見た目ほどは無いはずだよ、駄目なら途中で引き返してくればいいしね」
「本当、偉そうな奴って何で高い場所が好きなのかしらね」
「ユグドラシル様は実際偉いし、色々狙われたりいざこざに巻き込まれないように塔の頂上にいるんだよ。さ、頑張って行こう」
所々階段で座る人を横目に登って行くと、大体半分程来た所でルキが階段に座ってしまう。
「ルキ、平気?」
「パパから貰った魔力さえあれば私は平気よ、でもずっと同じ景色で気疲れしたかも……それよりパパは全然疲れてないの?」
「まぁね、旅はいつも僕が荷物持ちだったから足腰は自信があるんだ」
「荷物持ちなんてやっぱりあいつらやっぱり糞ね……」
「あの時は嫌な事ばかりだったけど、今こうやって役立ってるから良かったよ」
『空っぽの無能』
『無能は黙ってろ』
旅の途中は確かに嫌な事ばかりだった。
でも嫌なことから学べることもあったし、今の僕に為になる事もなくはなかった。
でもそれは決してバディア達のおかげじゃない。
「本当パパはお人好しね、でもそこが好きよ。少し休んだら元気でたからもう大丈夫よ」
「ありがと、僕も元気出たよ。じゃあ行こうか」
再び登り始めると、今度は今まで以上に早く登る事ができた。
「着いたよ、ここが頂上だよ」
「流石に距離あったわね……ママじゃ無理だったかも」
「少し休んだら、ユグドラシル様の部屋に行こうか」
塔の頂上は広く休めるくらいゆったりとした椅子や、木や芝生が生い茂った広場とその中心に円柱形の部屋があった。
「何か騒がしいね」
「誰か部屋から出てきたみたいだけど?」
ルキの言う通りに扉が開き現れたのは四帝貨の様に綺麗な虹色の髪に瞳、その姿は銅像そのままの壮麗の男性ユグドラシル様だ。
一気に集まる人達と共に僕達もユグドラシル様に声を掛けようとするけれど、人の壁が障害になって全く気づいてくれない。
「これは少し待たないと無理かな」
「そうでもないみたいよ?ほら」
確かにユグドラシル様は僕達に気づいたようだ。
「君がニースかな?ユガに話は聞いているよ、こちらに」
ユグドラシル様に願いを言いに来た人達を横目に部屋に入るのは気が引ける。
「さて、君達の話を聞いてあげたい所……だが、あいにく私からは詳しく話は出来ないね」
「それは帝族では無い僕達ではユグドラシル様と話をするに値しないということでしょうか?」
「面白いおっさんね、パパを馬鹿にするのなら今ここで消える?」
「いや違う、誤解しないで欲しい。君達に問われた所で私ごときには答えられないってことだよ」
私ごとき?何か自分を卑下する言い方だ。
部屋に入ると、中にはどこにも繋がらない扉が中心に1つある以外は何も無い。
「この扉から地上に戻れる、そこでユグドラシル様
と話をしてくれればいいよ」
……まさか。
とにかく扉を開けて通ってみると、その前にいたのはウルと門番の少女。
「あ!来ましたよユグ、あれがご主人様ですよー」
「ちょ、やめて下さい!何がユグー!ですか!調子に乗らないで下さい!」
「いぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
少女がスパァンとウルを叩くと、完膚なきまでに爆散した。
「はぁ、はぁ、はぁ……なんですか一体!?ユガの頼みだからと仕方なく受けましたが、こんな無礼なスライムが来るとは聞いていません!」
「あの……あなたがユグドラシル様?」
「うるさい、黙っていて下さい!」
「は、はい!」
門番の少女がユグドラシル様?
でも土色の髪と瞳と褐色の肌、銅像のユグドラシル様とは到底似ても似つかない。
「うう……いきなり即死魔法なんて酷いですよ!」
「だから馴れ馴れしいのです!私はあなたを知りません!」
「そんなこと言わないで下さいよー、そうだニース様、真の魔王についてお聞きするんでしたよね?」
銅像では慈愛に満ちた瞳が今は氷のように冷たくウルを見下している。
「真の魔王?その事ですか……って私にくっつくな!」
「恥ずかしがってもうー、本当は会えて嬉しいんですよねー?」
「すみません!ウルも離れて!」
「仕方ありません、それでは真の魔王について教えてください!」
「なんですこいつぅ!?」
あ、やばい。
ユグドラシル様?は完全にキレている。
「いえこんなことで怒るわけには行きません……私は統一神、では私と1つ勝負をしませんか?それでもし勝てば真の魔王のことも教えます」
「流石!もちろんニース様には私がついていていいんですよね?」
「あなたはダメに決まってるじゃありませんか、気持ち悪いし失礼だからです」
「えぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえ!?ダメですよ!ニース様は私がいないとポンコツ無能なんですから!私にはニース様を全てをお世話する義務があるんです!」
ポンコツ無能ってそれが本音か……いや、本当かも知れないけど他に言い方があるんじゃないのかな?
「ですがわかりました!時には厳しくと言うのも妻の役目、ニース様、ぼっこぼこのぐっちゃぐちゃにしてやってください!」
「ちょっと待て!まだ僕は何も」
「ニース、もう勝負は始まっていますよ?」
僕達はいつの間にか塔の麓ではない別の場所、白い空間に移動していたことを認識した瞬間目にしたのは宙に浮いていたのは7つの巨大な丸太、いや……聖塔だ。
城1つ、いや村1つなら簡単に潰せそうなそれが僕を完全に狙う。
「ただの人間に耐えられますか?」
降参だ。
そんな声すら出せずに巨大な塔に潰されて死ぬ。
……でも、それは今までの僕だ。
「ルキ!」
「わかったわ!!」
ルキは巨大槌に変化する。
「ルキちゃん流石!さぁユグちゃんこれなら私は参戦してませんよ、私達の愛の結晶に勝てますか!?」
「そんなの無意味ですよ?行きなさい我が塔よ……ってえぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇぇえ!?」
「鳳金撃!」
ルキはいとも簡単に塔を割り砕き、そして燃やして灰に変えて行く。
「強いかと思ったけれどそうでもないのね?期待して損したわ」
「ルキ、一応相手は統一神なんだよ?少しは言い方があるでしょ?」
「い、一応?弱い?馬鹿にしないで下さい!もう怒りましたよ、私の全身全霊をかけて殺してやります!」
ユグドラシルが出したのは虹色の槍。
あれは聞いたことがある、全てを無に帰す伝説の槍、グングニル。
一度放たれたその虹光の槍撃は不回避不防御の絶対最強の攻撃、そして触れれば即死。
「消し飛びなさい!!グングニルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
一直線に虹光が向かって迫り、避ける事は出来なかった……だが。
「う、嘘ですよね!?」
膨大な光の流れ、それが全て金槌に吸い込まれるように消えてゆく。
「パパをいじめる人は許さないわ、それが神様でもね」
集まった虹色の光はそのまま消えること無く僕に纏わりつく。
それは目の前のユグドラシルが持つグングニルと瓜二つの輝き。
「え、まさか!あ、ちょっと待っ」
「虹光の壊槌!!」
ユグドラシル様が放った虹光、その数百倍の光が今度はユグドラシル様を襲う。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
僕にも何が起きたかは分からなかった。
ただ、そこには丸焼きになった統一神。
それが僕達の目の前で立ち尽くしていた。