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無能から帝族へ

(パパの力と私の力が合わさればこんな魔獣どうってことないわ)


(凄いってもんじゃないよ、ウルかもしかしたらそれ以上かも)


(ママはパパを護る鎧だから、私と比べる対象じゃないわ)


 ルキと言葉を交わさずに意識疎通しながら、鳳金槌から噴き出る蒼炎は更に地面から現れたジュペンド達を瞬時に灰にして行く。


 数匹のジュペンドを倒すと、僕達を一飲み出来るような一際大きなジュペンドが現れる。


(パパ、魔力をもっと渡して!!)


 ルキに言われるまま魔力を渡すと、金槌は更に巨大化して行く。


「ふ、ふざけんなよ化け物が!!」



 バディアが悲鳴を上げて指差す規格外の金槌(ルキ)は、SSランクのその中でも最上位のそれすらも一振りで灰と化してしまう。



 そして、崩れ去った一際大きなジュペンドの灰から現れたのは短剣。



 手にとってみると見た目よりも重く、まるで大剣を持っているかのようだった。


 これでは振ることは持っているのも難しい。

 恐らくはこれが帝剣なのだろう、一際大きなジュペンドは帝剣の力で限界を超えて成長していたのかもしれない。


「ねぇパパ、あれどうするの?」


「あれって……」


 小さく木の影に隠れていたバディア。


「ルキ、バディアを連れて行ける?」


「仕方ないわね……あ、でも私には触れないで、汚らわしいから。ほらこれに乗りなさい」


 ウルが出してきたのは焼け残ったジュペンドの骨。

 気味の悪いそれはソリの様になっていた。


「俺がこんなふざけたもの乗れるか!!それよりニース、俺とお前でまた組まないか?魔力を奪ったのは悪かったと思ってる。2人なら英雄なんて比じゃねぇよ!戻って来いよ、お前が必要なんだ」


 随分と都合の良い話だ。


「それは無理だよ、まず僕を追放する直前に無理矢理奪った魔力を返してもらっていないからね。また組みたいって言うなら魔力を返すのが筋じゃない?それに旅の途中で肩代わりした魔力も貸しただけって言ったよね?それも返して貰ってないよ?」


「なっ……お前、俺からこれ以上何を奪い取る気だよ!」


「え、何を?僕はまだ何も返してもらってないんだけど……」



「しらばっくれやがって、ふざけんな!!覚えてろてめぇ!!」



「……2度は言わないわ、早く乗りなさい」




 英雄が現れて少しは変わったかなと思ったけれど、全く変わらない、いつものバディアだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「まさか帝剣がジュペンド達に奪われていたとは、それも君が倒したのか?」


 僕達はイグニスに戻ると、取り戻した帝剣をユガに渡した。


「そうです、ニースさ……いやこの私の格好良く可愛い1番弟子のニースが倒したのです!」


 ユガは少し思案すると、帝剣を僕の前に差し出してきた。


「それは素晴らしい、ならばその帝剣は君にこそ相応しいだろう、受け取ってくれないだろうか?」


「いいんですか?でもこれは四魔皇を倒す為に必要な剣、国宝中の国宝で僕の様な一介の冒険者が頂く訳には……」


「ああ、だが蒼皎姫殿とその弟子であれば信用に足ると思ったのだ」



「ニース、それは貴方にこそ相応しく受け取るべきです。それに断るというのは貴方の実力を認める私を否定するつもりですか?」


「蒼皎姫殿のおっしゃる通りだ。もしそれでも気が引けるのではあれば、代わりと言っては何だがニース、話があるので後で私の私室に来てくれないか?」


 ユガ王が僕に?また頼み事だろうか?

 いや、それならそれなら直接蒼皎姫に依頼するはずだ。


「わかりました」


 押し切られてしまった感じだけど悪くない流れ、今は流れに身を任そう。




 ◇ ◇ ◇




「……さて」


 ウルとルキには先に家に帰ってもらった。


──う、浮気です!堂々と浮気するなんて酷いです!


 と言っていたが、ユガに関してそんなことはないだろう。


 何故ならユガが女性好きだから。

 グランディナのフィルーダに迫っていたのもその為で、現に僕が入ろうとしているユガ王の私室、その入り口に立つ衛兵、つまり側近の兵も女性だ。


 イグニス人口は男女半々だから、偶然なんて事じゃない。


 側近の兵と眼が合うと、軽く会釈をされて中に通される。


「ユガ国王、よろしいですか?」


「ああ、構わない」


 扉を開けると、そこにいたのは下着姿のユガ国王。


「すみません!あれ、でも今入って問題ないと」


「ああ、私室ではいつもこの姿だ。私が常時鎧をつけているとでも思ったのか?」


「いえ、そんなことは……あの、今日の用事とは何でしょうか?」


 ゆったりとベッドの上でくつろぐユガの太ももから何ががするりと抜けて飛んでゆく。


 真っ赤なそれは……どうみてもパンツ。



「勿体ぶる必要も無いだろう、単刀直入に言うとニース、私の夫になって欲しい」


「…………」


「どうした?嫌なのか?」


 いやいや、それは予想外過ぎて言葉が出てこないだけですよ。


「いや、あ!このいやと言うのは嫌と言う意味ではなくてですね!?」


「はは!やはり驚いたか?出会って数日ではあり得ないか?」


「はい、理由が全く思いつきませんから」


 実は僕が実は蒼皎姫だと知っている?

 いやそんなはずはない、と思う。


「理由ならある、蒼炎と帝剣の話なら君も知っているだろう?」


 蒼炎と帝剣。


 そのお伽話は実際の出来事を元に作られていると言われ、内容はこうだ。



 昔々、人族と魔族は仲良く暮らしていた。

 だがある日、人族の1人が偶然蒼炎を生み出してしまう。


 蒼炎は強大な力で魔族を完全に滅ぼす力を持っていた。

 創り出した人族は魔族を滅ぼす為ではなく、蒼炎の力を互いの発展に使うと説いたが、それを魔族達は信じなかった。


 そして、人族と魔族の大戦が始まった。


 蒼炎を持つ人族だったが、魔力と数で勝る魔族に苦戦し追い詰められてしまう。


 その時生み出されたのが4つの帝剣。


 帝剣ゴルドラ

 帝剣ミスティガ

 帝剣ディアマンテ

 帝剣オリカルク


 4つの帝剣は蒼炎を何倍にも増幅し操ることで魔族大戦の勝利に貢献した。


 そして大戦終結と同時に蒼炎は失われ、帝剣は魔族との戦いに備え封印され、そして人族に平和が訪れた。


 これが蒼炎と帝剣の物語だ。



「実は皆が知る話には続きがある。4つの帝剣を揃えた者は真の魔王を倒すことが出来るというのだ」


「真の魔王ですか?」


「ああ、魔王は真の魔王を封印していると言うのだ、君も噂くらいなら聞いたことあるのではないか?黒い武器、武具の噂を」



 それは確かにある。

 ユガは僕の反応を見て話を続ける。


「私達はそれを魔黒器(ブラック)と呼んでいる、そしてそれこそが真の魔王の一部であると私達は睨んでいる。だからこそ私達は魔黒器(ブラック)を集め、封印しようと探している……のだが中々集まらなくてな」


 その話を聞くと、ある考えがよぎる。


 もしかしてウルが真の魔王なのではないかと。


 ──ニースさまぁぁぁぁぁぁぁあ!大好きですぅぅぅぅぅぅ!


 いや、そんな訳ないか……



「だがそれも推測の域を出てはいない、だからニースにはそれを確かめて欲しいのだ、帝族の1人として」



「まさか、僕に帝剣を渡したのは帝族に迎え入れる為ですか?」


「あれは君の実力を考慮したまでだ。君は帝剣をジュペンドから取り戻す実力を兼ね備えている、ならばこそ我が帝族に迎え入れたいのだ。これは決定事項では無いし、嫌であれば断って構わないが、1つ私の考えを伝えておくと我自身は君の事をかなり気に入っている。どうやら君は()()なようだからな……」


 やっぱりバレた?


 そして目の前に出されたのは予想外の四帝貨だ。


「これは返そう、あの時はすまなかった」


「えっと、要りませんよ?僕には必要の無いものですから」


 魔王を倒し、そして魔族を倒して皆の為に生きて行くことが出来るだけで十分だ。


「そう、これは一生遊んで暮せるものにもかかわらず君は何も言うこと無くそれを手放した。その器の大きさを私は他の男に見たことがない」


 ウルが錬成したものだったし、いくらでも錬成できるからとはこの状況では流石に言えなかった。



「……私は、色々と男には騙され裏切られてきた。もう2度と男には関わらないと決めていたのだが、君は特別だ、英雄の弟子としての実力、器の大きさ、そして……見た目も悪くない、いや好みだ」


 僕が返事を躊躇っていると何を勘違いしたのかユガは更に距離を詰めてくる。


「心配するな、当然処女であるし割と自らの身体には自信がある、夜伽の知識も技術も以前の無礼は身体で詫びる」


 鎧をつけていた時とは違うその姿、紅眼紅髪、少し吊り目だがその美貌は覇王女オーヴァリアと言われる程とびきり美しい。


 両手では到底収まらない程の大きな胸とくびれた腰、魅力を感じない男はいない。



「で、でもロレアは確かユガ王が母親だと言っていましたよね?」



「ロレアは私の死んだ姉の子供で私が母親代わりとして育てていたのだ……どうだろう?」


 どうと言われても……


「そ、それより蒼皎姫(師匠)にお願いすればいいのでは?帝剣だって僕よりも蒼皎姫(師匠)の方がずっと扱えるはずで」


「蒼皎姫殿は中立の立場を崩してくれそうに無いのでな、それに」


「それに?」


「私が君を気に入った、それでは駄目か?」


 迫ってくるユガを拒否するなんてことは出来ず、そのままベッドに押し倒され……



 ──ニース様!



 誰かの声が聞こえた様なきがして、そして僕は何故かユガ王を拒絶するように後退りしていた。


「あの……ごめんなさい。僕はやりたいこと、いややるべきことがあるんです、だから帝族になるそのお願いは聞けません」


 ユガ王は断られるとは思ってなかったのか驚いた表情で、でもすぐにベッドから降りて服を着始める。


「そうか……こっちこそ急だったからな、申し訳ない。残念だが無理強いはしない……だが諦めた訳ではないぞ?」



 何故だろう。



 ふと僕の脳裏によぎったのはウルだったなんて言えなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇





「ニィィィィィィィィィスさまぁぁぁぁぁあ!?昨日はあの女狐と何を話していたんですかぁぁぁぁぁあ!?」


 翌日、僕はウルの尋問を受けていた。


「ああ、これだよこれ」


 僕は帝剣ゴルドラを見せて真の魔王と魔黒器を集めると言う説明をした。

 ユガ国王に婚姻を求められたことと、魔黒器が真の魔王の一部というのは伏せておいた。


「真の魔王ですか?また胡散臭いのが出てきましたねー、それと……本当それだけですか?」


 妙に勘が鋭い。


「ママ、しつこいとパパに嫌われるわよ」


「これは妻として当然の質問です!いくらモテるからと言っていろんな女性に手を出すなんていけませんよ!見て下さい、ユグちゃんも怒っています!」


「ユグちゃん、ってまさかあれ?」


 ウルが身体を伸ばして指し示すそれは広場中央にあった銅像。


 ユグドラシル様、筋骨隆々で長身のイケメンだ。



 四大帝国が生まれる前、帝剣と蒼炎のその英雄で、長らく大戦状態にあったオーヴ大陸を統一した人物であり、更に四大帝国の国境の魔族の咎森を管理し、戦争を物理的に止めている人物。


 今生きていれば500歳程だ。


「ユグドラシル様を子供みたいに言ったらバチが当たるよ」


「でも私、本人に会ったことがありますし!あんなむさ苦しい男ではなかったですけどね」


「じゃそれはユグドラシル様じゃないよ……そうだ、ウルも会いに行く?丁度明日が1年に1度の聖塔の開塔日だし、丁度ユグドラシル様に会いに行く用事があるからさ」


「せーとー、ってなんですか?」


「ユグドラシル様が住む場所だよ、でも気難しくて滅多に会えないから会えるかは気分次第だけど」



「行ってみましょう!私ならきっとユグちゃんも会いたがっているはずです!」



 真の魔王のこともユグドラシル様なら知っているだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 話が噛み合わないから、魔力を強制的に回収したのを説明できた方が良い気が
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