家族と一緒に
とりあえずルキは僕と同じ英雄の弟子として扱うこととした。
「ウル、そう言えばどうやってルキを生み出したの?」
「あれは簡単でしたよー、先程の生意気なロレアの一部を金と錬成しただけですね。記憶を奪って錬成しても良かったですが、今回は身体の一部にしました」
ウルはさらっと言っているが、錬金術師の中でも生命を生み出すどころか生命を宿す武器を生み出すなんてそんなのは見たことも聞いたことも無い。
「ウル、ルキを生み出したことは他言無用だよ、いい?」
「もっちろーんです!私だってそれくらい理解してますから!」
「……ウル、ちょっといいかな?」
気になったことがありウルに触れると、何やらぬるりとした感覚。
「何これ?」
「あーそれはですね、ロレアの一部を採取する際に付着した体液ですね、いやぁ人族とは面白いものです、何故感情が昂ると至る所から体液を出すのでしょうね」
と言うことはこれは涙が汗か、それとも。
「……ウル、お風呂入ろう」
………
……
…
「ふぁぁぁぁぁぁあ!気持ちいーですねぇぇぇぇぇえ!」
「うん、僕も温泉なんて久しぶりだよ、旅の途中じゃあ一度も入れなかったからね」
『空っぽ無能は贅沢なんて出来る訳ねぇだろ』とバディア談。
僕達が入っていたのは温泉、イグニスは炎の国で地脈的にも温泉が多く吹き出す場所でそこら中に温泉がある。
とは言え魔族まで入湯自由な温泉は少なく、必然的に混浴温泉に来ていたのだけど入っていた人達は全員逃げるように出て行ってしまった。
当然と言うべきか出て行ったのは全員男。
スライムとはいえ魔族が入ってくれば驚くのも無理はない。
「私の美ボディを見て興奮して出て行ってしまうなんて、私も罪な女です……」
「出て行った皆はウルのことを女だと思ってなかったと思うけど」
「パパ、何か今大慌てで男達が逃げて行ったけど、何かあったの?」
直後入ってきたのはルキ、何の恥ずかしさも無いのか全裸でどこも隠すことなく入ってくる。
「ルキ!?隠して入って来てくれる!?」
「何で?パパに見られても私は平気よ」
「いやだから僕が……もういいや」
そう言うと温泉につかり始める。
肌色に僅かに金色が混じる美しい身体、触れてみたくなる様な蠱惑的な身体は僕が平気じゃ無いんだけど。
「常に入っていたいくらいですー、ああ、とろけてしまいそうですねー」
というか、実際にウルはとろけていた。
身体は数倍にも広がり、温泉全体を覆いそうな程だった。
「蒼皎姫状態だと結構疲れるんですよ?ニース様をお護りしなくてはいけませんからねー」
「誰に聞かれるかわからないんだから、そう言う話は家だけにして」
「はーい、でもここにはもう誰も……ん!気をつけてくださいニース様、誰かが隠れてます!!」
だから言わんこっちゃない。
温泉内の岩陰から何かが飛び出してくる。
「う、ごめんなさい!!食べないで!!」
飛び出してきたのは少年、10歳くらいでルキと同じくらいに見える。
「パパ、こいつどうするの?もしかしてパパの正体がバレたんじゃない?」
確かにそうだ。
ついウルが口を滑らせた内容を聞いていたら……
「君、話聞いてたかな?」
「…………へ?」
視線は完全にルキに向いていた。
顔を真っ赤にさせていたのはただのぼせた訳ではなくルキの裸を見たからだろう。
「ルキ、男の子が困惑してるから身体を隠して」
ようやく少年は顔を上げるが、その顔は怯えているのか泣きそうな表情だ。
「ごめんなさいごめんなさい!許してください!つい目に入ってしまったんです!」
僕達の話は完全に聞いておらずルキの裸に見惚れていたのは不幸中の幸いだ。
「こっちを見なさい?」
少年はルキを見ると、突然気の抜けたように温泉の中に倒れ沈んでしまう。
「脳殺ですね!ルキちゃん可愛いですから!」
急いで少年を外のベンチに横たえて、様子を見ることにした。
「へぇ、男ってこんな身体の構造なのね、可愛くて綺麗」
少年の腰に巻いた布を何の躊躇も無く取り去りじっとその中を見ていた。
「その子がかわいそうだからやめてあげてね?後の看護は任せたよ?」
「う、ううん……」
ようやく一安心だと思った矢先、今度はウルが温泉に沈んでゆく。
「の、のぼせましたー、排熱装置が温水中だと無効化されるみたいですー、うぅ、頭がぐらぐらする……」
触ってみると確かにかなり熱い。
急いでウルを冷水風呂に入れるが、それもみるみるうちに温かくなってしまう。
仕方ない、あれで行こう。
◇ ◇ ◇ ◇
「あぁ、気持ちいいですー」
「良かったけど、本当はこんなことしちゃいけないんだけどね」
イグニスの温泉は加水して冷やすのでは無く、冷却魔術を使って冷やしており、その冷却装置はかなりの高出力で側にいるだけで火照った身体を冷やすことができる。
多少は出力が落ちでも問題ない、と言うことでウルを冷却装置に置くことにした。
じゅわぁと湯気が立ちウルが冷やされていく。
これなら数分で冷やし終わるだろう。
「また来るから大人しくしててね」
「はいー!わかり……ん!?あ、ちょっと待」
ウルが何が言っていたが気にしない、僕も冷却装置の部屋にいたら風邪をひいてしまう。
少年を脱衣所で休ませながら僕は再び温泉につかりつつ、ルキに疑問をぶつける。
「ルキは僕がパパってのは変じゃ無いの?」
「全然、パパはパパよ。確かにパパとの思い出があるわけじゃない、でも初めて見た時から大切な人だって感じたわ」
温泉に浸かる僕の膝上に座りながら答えてくれた。
自分でも奇妙に思っているのかもしれないが、それでもパパと呼んでくれるのは嬉しい。
僕も最初は美少女が目の前にいて邪な感情が湧くのかなと思ったけれど、話しているうちにそんな感情が湧かないのに気づいたのは不思議だった。
「それに少し話しただけだけれど、パパはいい人だってすぐわかったわ。私のことを大切にしてくれるって」
「それはわからないよ?もしかして寝ている所を襲おうとしている最低な奴かもしれないよ」
「私はそれでも構わないわ、パパにそう見られているのも嬉しいもの」
首に腕を回され、誘惑されているのだろうけど、僕はルキの瞳の色は凄い綺麗だななんてことを思っていた。
「……ううん……あれ、僕は……」
少年が目を覚ます。
「急に倒れたから横になって貰ったんだけど、僕達のことを覚えてる?」
じっと俺とルキを見つめる。
「あのすみません、僕は何をしていたんでしょうか?」
その様子に嘘偽りは無いように思えた。
「もう家に帰って大丈夫だよ、でも次は混浴に入る時は気絶しないでね?」
「はい、何やらご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
素直に帰ってゆく少年、あの様子だと本当に覚えてない様だ。
「パパ、いいの信用して?私は別に裸を見られても気にしないけどパパの正体がバレていたら面倒じゃない?」
「いいんじゃないかな、あの子が誰かに話すことはないだろうし」
僕は懐から白い塊を取り出す。
「それはママ?なの?」
「そう、ウルにお願いして一部分離して貰ったんだ。で、記憶を一部だけ奪わせて貰った、だからあの子は覚えてないよ」
つまりこれを使えばまたルキの様に錬成出来るわけだ。
「一石二鳥、流石ねパパ。じゃあ私たちも帰りましょうか」
「そうだね……いや、何か忘れているような……あ」
扉を開けると、そこにいたのは。
「に、ににににニニニニースさまぁぁぁぁあががががががががががががか」
氷漬けになったウルだった。
ごめん、ウル。