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最『嬌』の槌(ハンマー)

「びっくりして油断しましたか?」


「まさか虹貨を生み出せるとは思わないからね!」


 人混みに紛れ泥棒は逃げて行く。


「蒼皎姫であいつを捕まえます?」


「いや、この人混みではかなり目立つからやめよう、とにかく追うよ!」


 捕まえられたとしても蒼皎姫が泥棒を捕まえているのは説明がかなり面倒だし、そもそもこの人混みでウルを装備するのは難しい。


「僕に少し考えがあるんだ、手伝ってくれる?」


 作戦をウルに伝え、二手に分かれる。


「了解です!頑張ってください、ニース様に魔力を貰った私は速さなら誰にも負けませんよー!」


 ウルは勢いよく飛び出して行くけれど、すぐに勢いを失ってのろのろと地面をぴょんぴょん跳ねて行く。


 スライム状態のウルじゃ追いつけないだろう。

 でもこんな僕でも5年は旅をしてきた、泥棒くらい捕まえてやる。



 ………

 ……

 …



「はぁ、はぁ、はぁ……む、無理だ……何であいつはあんな元気……なん、だ……?」


 かれこれ10分以上は走り続けただろうか。

 僕はぜぇぜぇと息も絶え絶え、でも泥棒はピンピンして逆立ちしながら挑発していた。


「全然ダメダメねぇ、偶然忍び込んだらとっておきのものをもってるからもの凄い冒険者じゃないかって期待したけど期待外れだったわ」


 どうやら泥棒は女の子らしい。


「そ、それ、返してくれない?」


「いやに決まってるじゃない、これがあれば一生豪遊してくらせるのよ?返すなんて馬鹿のやることね」


「どうしてもダメ?」


「ダメよ、じゃ、さよならお兄さん」


 少女は()()()を登り逃げようとする。




「そうか、なら仕方ないな……ウル!!」



「はーい、分かりました!!」


「え!?きゃぁっ!?」



 ただ闇雲に追っていたわけじゃない。

 人混みと路地裏を軽やかに移動していた少女だけど、所々で白い壁に行く手を遮られていたことに少女は気付いていなかった。


 その白い壁は当然ウルが変形したもの、泥棒を追い込んだ先、そこは人気のない路地裏だ。


「そ、蒼皎姫様!?」


「人のものを盗むなんていけませんよ?全く、親の顔が見てみたいものです」


 ウル、もとい蒼皎姫に片足を掴まれ宙ぶらりんの状態の女の子をよく見てみると、その姿はどこかで見たことがあった。


「あの、私蒼皎姫様の大ファンで、ママに今度会えるようにお願いしていたの!まさか本当に会えるだなんて!」


 ママ?お願い?


「君って一体……」



「ええ!私はロレア・イグニス、ママはイグニス帝国王、ユガ・イグニスよ!!」





 ◇ ◇ ◇ ◇





「まさか私の娘が英雄殿の厄介になっているとは……申し訳なかった」


 泥棒の代わりに謝るのはユガ。


 泥棒は本当に第一皇女のロレア・イグニスだった。


「で、この男は?」


「彼はニースで四帝貨の所有者で私の弟子、そもそもイグニス帝国の勇者の仲間のはずでしたが覚えてないと?」


 今ウルは蒼皎姫状態だけどその中に僕はいない。

 魔力をあげれば短時間は1人で動けるらしく、どうにかそれを利用して泥棒を追い詰めたのだけれど。


「そうだったかもしれない、私の娘が無礼なことをした。この四帝貨は君に返す……と言いたい所だが、君はこれをどうやって手に入れたんだ?」



 下手すれば小国1つ買えるほどの大金、持っていたら普通じゃない方法で手に入れたと疑われるのは当然だ。


 とは言え本当の事を言えば面倒なことになるし、そもそも信じてはくれないだろう。


「それは蒼皎姫様のものです、僕が蒼皎姫様から頂きました」


 これしかない。


 これなら疑われないだろうし、英雄から奪うとは考えにくい。


「なるほどそれなら納得だ。だが四帝貨は四大帝国が直属で管理することになっている、この1枚で経済が大きく動いてしまうからな。それに四帝貨には独自の番号刻印されているはずだが、これには無いのでも偽物かもしれない。申し訳ないがしばらく確認の為に預けさせてもらいたい」


「わかりました、私も蒼皎姫様から頂いた身、異論はありません」


「……貰った当人がそう言うのであれば、私も異論はありません」



「すまないな、ニース、蒼皎姫殿」


「本当は蒼皎姫様から騙し取ったんじゃないの?ママ、私にはこんな冴えない奴が四帝貨を貰える人だと思えないわ」


 ニース様このメスガキ殺していいですか?と言いたげだ。


 ダメだからと目で訴えるとウルはそのままロレアの頭に手を置く。


「ロレア、少し2人きりでお話しがしたいのですが。カレアを少し借りてもよろしいですかぁ?」


「勿論だ、ロレアも蒼皎姫殿と話したがっていたのでな」


 そうしてカレアとウルは別な部屋に移動してしまう。

 大丈夫だろうか……


「それでは君にはご退席いただこう、見送りを」


「あ、はい」


 追い出されるようにして僕はイグニス城を後にした。


 その帰り際、見間違いかもしれないけど、ユガが僕を見つめていた気がした。



 ◇ ◇ ◇ ◇




「ただいま帰りました!!英雄の帰還ですよ!!」


 先に家に帰って数分後、妙なテンションで現れたウルはやけに機嫌が良い。


「変なことしてないよね?」


「もちろんです!ちょーーーっと教育はしてきましたけど、決して怖がらせたりはしてませんよ!っと!」


「もう四帝貨を作る気なら必要ないよ、あれを持っていても使えないからね」


「いえいえ、それよりももーっといいものを錬成するんですよ!ほら、これ見てください!」


 ウルの中から出てきたのは大量の金塊。


「くれると言うのでありがたく頂いてきました!むふふ」


 子供1人程度の重さは軽くあるそれをウルは全て飲み込んで来たようだった。



「それでは早速錬成を……ニース様、好きな女の子のタイプはありますか?」


「……今、何かを錬成しようとしてるんだよね?何で僕の女性の好みの話になるの?」


「それはもうニース様に気に入って貰いたいからですよ?ほら早く歳上ですか?年下ですか?可愛い系とか美人系とか!?とにかく大切な事なんです!」


「ん?まぁ強いて言うなら、ユガみたいな大人の女性かな……」



「あれですか……私としては色白で少しふくよかでそれでいて身体が変化したりする相手がおすすめですけどねー」


「それウルじゃん」


「そうとも言いますねー、まぁニース様の頼みですから仕方ありません、()()()()()()()()ね!ニース様、魔力をいただけますか?」


 ウルに触れるとぼっ、とウルの身体の至るところから蒼炎が吹き出る。

 そのまま金塊を飲み込んでしまう。


「……ううん……よし、出来ました!!」


 そう言うウルツァイトからねろんと吐き出されるように現れたのは真っ赤な塊。


 液体のような固体のようなそれは見た目はウルに似ているけど、それに触れればただではすまないことは明らかだ。


「いいものってスライムのこと?またウルみたいなスライムを生み出したの?」


「違いますよ!って言うか私はスライムじゃなくてウルツァイトだと言ってるじゃないですか!!それよりもほら見て下さい」


 そう言われ目を向けた真っ赤な塊は徐々に形を変えて行く。


 更にそれは人の形に変化し、そして現れたのは……全裸の女の子。


 金髪碧眼の10歳くらいだろう、二重と小さな顔が特徴的な美少女がそこにはいた。


「出来ました、これがニース様の武器です!」


「え?この子が武器?」


「そうですよ?可愛いですよね!」


 ウルに身体を包み込まれた美少女はこちらに一瞥する。


「初めまして、ママ、パパ」


「聞きましたか!?ママですってママ!」


 ウルは女の子を包み込むように抱きつく。

 女の子は全身に纏わり付かれて満更でも無さそうだ。


「パパ?いや、俺は『パパです!』」


 答えたのはウル。


「だってニース様の生み出した魔力が私の中に挿入されて生み出されたんですよ!?ならこの子を私達の子供と言わず何というんですか!?」


「わかったからその言い方はやめて」


 とりあえず今着ていた上着を女の子に着せる。


「ウル、この子は一体何なんだ?」


「だから武器だと言ってるじゃありませんか!ちゃんとハンマーに変化しますよ、見せてあげてください!」


 金髪少女はこくりと頷くと瞬時にその身体を変える。

 カランコロンと地面に落ちたハンマーは黄金であり、無駄と装飾の無いシンプルなものだ。


 拾い上げてみると、不思議にそれは僕の手に馴染む……と言うより手と一体化した。

 それは例えではなく実際に一体化していた。


「あらぁ、ニース様が好きなんですねぇ!そんなくっつかなくてもニース様は逃げませんよ?」


 柄の部分が変化して一体化しているのだけど、その感覚はゴールド特有の冷たい感覚ではなく人肌の温もりがあった。


「私から生まれた武器()達は魔力を糧にその力を発揮します、名前はニース様が決めて下さい」


 信じられないけど、金色のハンマーだと言う彼女。

 名前をつけたことなんて無いんだけど、そうだな、つけるとしたら……


「ルキ、ってのはどう?」



「いいですね!ルキちゃん!どうですか?」


「いいじゃない、とっても可愛い名前ね」


「本人も気に入った見たいですねー」


 抱きついてくるルキ、やはり肌に触れた感覚は人肌とは違う。

 もちもちとした感覚の中につるつるとしたゴールド特有の感触、癖になりそう……いや変な意味じゃなくて。


 と、そんなことしているとじっとウルに見られていたことに気づく。



「ニース様、あえて大人の女性ではなくロリ系で攻めてみたのですが、実はこっちの方が好きなのですね……わかりました、これからの子供達はロリ系にしますね!」


「別にそう言うつもりで触ってる訳じゃないから!」


「遠慮することはありません、私達はニース様の為に存在するのですから!ウル、これからはニース様に接するときは全裸ですからね!」


「ええそうするわ、パパよろしくね?」


 や、やめて下さい……精神が持ちません。

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