真の英雄、祝福される
「ありがとうございます、本当にありがとうございます!!」
人気の無いイグニス郊外に戻ってナータに会うと、無事に大切な人、ガリアを助けたことを号泣しながら感謝してくれた。
「あの、何かお礼をしたいのですが」
「大丈夫です、見返りを求めていたわけじゃありませんから」
「いえ、それでは私の気が済みません。そうです、これを受け取って下さい!」
渡されたのは小さな透明な石、でも輝きは尋常ではないし中に透明な液体が入っているようだ。
「ダイヤモンドです、とは言えただのダイヤモンドではなく私達一族に伝わる友好の証である特別なもの。これは受けた御恩に必ず報いると言う証明です」
「一族ですか?とは言え、どのような一族かわからないのですが……」
「申し遅れました、私ナータ・アスリエ、いえグランディナと申します。助けていただいたのはガリア・グランディナ、グランディナ帝国の王です。私達グランディナ帝国は必ず蒼皎姫様の御恩に報います!」
「えっ!?グランディナ帝国の一族!?」
「そうですが……どうされました?」
それは驚くに決まってる。
グランディナ帝国は絆と団結の国、困った人がいれば助け、助けられた人はグランディナに所属し、そうして互いに助け合い生きていく。
それは人族魔族関係ないと言う特別な関係だ。
とは言え裏切りや怠惰な者には厳しく、即国外追放なんて側面もあったりするんだけど。
というか何で魔族に捕まってたんだ?
(ニース様面倒ごとに巻き込まれる前にここは退散しましょう、きっとついでに是非私達の国に来て下さいーとか色仕掛けで誑かされるに決まってます!」
誑かすことはしないだろうけど、確かにどこかの国に肩入れすることはしたくない。
「それは良かった、それでは私は……」
「やっぱり礼したい!そこにグランディナ軍いる、直接褒美たくさんあげる!」
「確かにそうですね、この後ご予定はどうでしょうか?」
(来ましたよほら、予想通りです!)
丁度区切りがついたところで去ろうとする僕の手をガリアが掴んで離さず、そのまま無理矢理引っ張られるように連れて行かれる。
いや、まずい。
この姿のまま出ていけば間違いなく面倒なことになる。
そう思い踏ん張ろうとするが全く歯が立たない。
(あらぁ、ガリアちゃん凄い馬鹿力ですねー、とりあえず腕を吹き飛ばしょうか?)
(いやいや、ウルなら穏便に脱出出来るよね?)
簡単だと思われたそれだったが、ウルはうむむと唸る。
(それが、今ガリアちゃんが握っている場所が蒼炎の放出場所なんですよ、だから力を出そうとするとガリアちゃんの右腕が吹き飛びますし解除しようとしてもガリアちゃんの右腕が私に巻き込まれてバラバラに……それでもいいですか?)
(それは駄目)
そんな話をしている間にあっという間に森を抜け、もう目の前にはイグニス城が見えていた。
(と言うことなので私はお力になれませんが、ここでニース様を応援します!がんばれがんばれニース様!がんばれがんばれニース様!)
そんな応援はいらない。
そうして健闘虚しく、僕達は蒼皎姫のままお祭り騒ぎの中に引きづられていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「おいあれ……蒼皎姫様じゃねえか!?」
「絶対にそう!蒼皎姫様よ!」
ガリアの馬鹿力に敵うことなく僕は大勢のイグニス民の前に出ることになってしまった。
一瞬静まり返る広場、そして。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
ウルの中にいても聞こえてくる歓声、それは間違いなく僕達へ向けられたものだった。
それに僕の手を引くのは意図せずもガリア帝王。
──おいまさか、蒼皎姫様はイグニス国民じゃないのか!?
──ガリアの民だったら私達はどうすれば……
一部からはそんな声も上がりつつ、イグニス城に入ろうとすると、目の前に現れたのはイグニス兵士。
門番としての責務を全うしようとするのは流石だ。
すると直後、城内から現れたのはユガ。
「突然で申し訳ない、この度の大戦の英雄が現れたと聞いて飛んできてしまった。私はイグニス国王ユガ・イグニスだ、是非貴方をイグニス国賓としてお呼びしたい」
「勝手に話するな!英雄はグランディナにつれていく!」
「ガリア、会議にいないからどこにいるかと思えばまた魔族に捕まっていたのか、それも蒼皎姫様の手をわずらわせているとは」
「……また?」
「すみませんすみません!ガリア様は魔族とも仲良くしたいとよくお捕まりになるのです!」
(ニース様どうします?もう面倒なので、私はイグニス国民、四大帝国はイグニスの従属国です、って話してしまいますか?)
(ウルも四帝会議見たよね?正体がバレたら面倒に巻き込まれるって話じゃないよ?)
(たしかにそうですね……じゃ、逃げましょう!)
(逃げられないでしょ、ガリアにずっと捕まえられてるんだから)
(あ、そうでしたね!)
「ユガ様勝手なことしないで頂きたい、英雄殿は我らグランディナに用があったはず、その腕を握るガリア様がそれを証明しています」
いつの間にか現れたフィルーダが険しい顔でユガを問い詰める。
「だから何なのだ?決めるのは私達ではなく英雄殿本人、少なくとも私には無理矢理英雄殿が連れて来られたようにしか見えないがな」
ユガとフィルーダが言い争い始め、周囲の兵士達も一触即発。
これ以上黙っていれば更に面倒な事になるに違いない。
(どうするんですか?面倒な事になりそうですが)
(大丈夫、僕に少しだけ考えがある)
意を決して話し始める。
「私は……訳あって正体は話せません。そしてどの国に所属しているかも話せません。ですが1つだけ、私は人族の味方であると言うことは信じて頂きたいです」
「勿論!魔王を倒して頂いたことからそれは疑いようも無く感謝しか無い、だからこそ我は歓迎したいのだ」
「では、四大帝国で平和条約を結んで頂きたい。魔王を倒したのは四大帝国のどこに所属しない私、ならば四帝国は私の従属国のはず」
「それは……」
「すぐにとは言いません、ですがそれまで私はどの国の歓迎を受けるわけにも行きません」
(ニース様考えましたね、これなら面倒ごとに巻き込まれずに済みそうです!)
「少し決めるまでに時間を貰えないだろうか?それまでは我が国の国賓として歓迎させて頂きたい、おい!蒼皎姫様にとっておきの部屋を用意しろ!」
「わかりました、一時的にであれば」
(ニース様、これでいいんですよね?)
(下手に逃げるよりとりあえずイグニス国賓として立場を明確にした方が面倒はなくなるからね)
「ガリア、グランディナには必ずまた伺います。今は申し訳ないですが、今度はもっとゆっくりとお話ししましょう」
「うう……仕方ない、わかった!!」
「蒼皎姫殿、是非今度はグランディナ国賓として招待させて頂きます。ガリア国民も貴方に会うのを楽しみにしております」
「勿論、必ず伺わせていただきます」
グランディナ軍が去って行くと、周囲から歓声が湧く。
それは英雄の誕生を祝うものだ。
──蒼皎姫様、万歳!蒼皎姫様、万歳!
そうして僕達は名実共に魔王を倒した英雄、蒼皎姫となった。
(ですが、これでは私がニース様と出歩けないですね……残念です)
(ウル、変身できるよね?)
(……あ、そうでしたね!すっかり忘れてました!)
気の抜けた返事、不安しかない。
それにナータはどこに行ってしまったんだろうか。