追放
「ニース、お前もう要らないから」
「……え?」
それは赤黒い髪が特徴的な勇者であるバディアからの突然の宣告。
「そうね、もういいんじゃないかしら?」
呆然とする僕の前で同意するのは濁った青灰色の髪と瞳、幼馴染のリスティだ。
僕達は同じ目標を共にする仲間だった。
それは魔焉大戦の勝利だ。
魔王、そして魔族との決戦に向けて僕達は世界最大のオーヴ大陸の故郷、イグニス帝国に現れる魔族狩りに明け暮れていた。
「リスティも頑張った方だと思うぜ。幼馴染だからってこんな無能の世話していたんだからな」
「それはバディアの為よ!そうでもなければこんな奴の側にいたりしないんだから。好きでもないのにキスまで、ああ……今思いだしても気持ち悪い!!」
「本当だがいい過ぎると可哀想だぞ?まぁ、俺はこれだけの力を得られたし文句は無いけどな」
そう言うとバディアは右手から蒼炎を出現させ僕の髪に投げつけると、かすめた蒼炎が僕の黒髪を嫌な臭いと共に燃やして行く。
すぐにはたいて火を消すけれど、バディアはへらへらと笑うだけだ。
オーヴ大陸の四大帝国に伝わる伝承『帝剣と蒼炎』
伝説では、魔王を倒せると言われているのが『蒼炎を持つ者』、そして4つの帝剣を持つ者と言われていた。
蒼き炎を扱える者は英雄となれる。
そして僕達のパーティーには『蒼炎』を持つ者が2人いた、僕とバディアだ。
「空白スキルの無能でも、俺の様な天才がいれば役立つ訳だな」
人族は10歳でスキルが顕現すると同時に地、水、風、火魔術を扱える様になる。
僕のスキルは『□』と言う謎スキルだった。
そして扱えたのは蒼炎、それはまさしく英雄の証で幼い頃は何も知らず自慢して見せていた。
でも僕の蒼炎は英雄の証なんてものじゃなかった。
何も燃やせず魔族も倒せずただ触れれば生暖かく綺麗、その正体は魔力だった。
──────────
名前:ニース・ダグド
スキル:□
魔力:194500000/∞
魔術適性
地:F
水:F
風:F
火:F
──────────
自分にしか見えない【ステータス】を前に僕は唯一の取り柄である膨大な魔力量をぼおっと見つめていた。
「あんたと幼馴染だったのが私の人生の1番の失敗だったわ……偽りの蒼炎使いが幼馴染なんて、皆を騙してさぞ面白かったでしょうね!!」
「待ってよ!僕は別に騙していたつもりはなかったんだ!」
「おいおい、言い訳は見苦しいぜ?死にかけの所を拾ってやったんだ、これからは真面目に生きて行くのが当然だろ?」
まるで自分が救ってやったかのような言い方。
でも僕は忘れない、バディアこそが僕を陥れた犯人だと言うことを。
秘密にしていた蒼炎の事を皆に言い広め、僕を無理矢理に魔獣と戦わせた挙句、バディアは僕を助けた。
偽物と本物。
僕はただバディアのかませ犬だった。
「にしてもニースが魔力を使えないのは不幸中の幸いだったな、もし魔力が無ければ今頃見捨ていた所だはぜ?」
使い道が山程ある魔力を使う手段が無い理由、それは右腕が不自由で身体の中の魔力の流れがおかしかったからだ。
とは言えそうなったのは幼い頃に魔獣からリスティを助けたからで自業自得だったのだけど……
そしてバディアのスキルは『奪取』
触れた人物から魔力を奪うその力、当然僕は相性最高で仲間、いや下僕にされていた。
利用されているのは分かっていた。
それでも両親を殺した魔族、その元凶である魔王を倒したかった。
そして目前に迫る魔王軍、これさえ倒せば後は自由に生きて行くと、そう決めていたのに……
「待って!何故今追放するんだよ、魔王を倒すには僕の魔力が必要だってわかってるだろ?」
「そうだ、だが必要なのはお前の魔力だ。まず第一に名前が無能過ぎるんだよ、空白スキルなんて格好つかないよな?だからお前はもう必要ない、全てを奪え!!」
リスティが背後に周り羽交締めにされると、バディアが頭を鷲掴みにされ身体の力が抜けていく。
立ち上がることも出来ず、試しに蒼炎を出そうと試みるが何も出せなかった。
「……まさかそんな、一体何を」
「簡単な話だ、お前の魔力を全て奪ったからだ」
「そんなこと出来る訳がない、第一今迄それが出来なかったから徐々に魔力を奪って……」
「そんなの嘘に決まってるだろ、俺は計画性のある男だからな、無駄使いしないようにお前の魔力は決戦直前で全て奪うと決めていたんだよ」
僕は急いでステータスを確認する。
──────────
名前:ニース・ダグド
スキル:□
魔力:0/∞
魔術適性
地:F
水:F
風:F
火:F
──────────
魔力が、無くなってる。
「そんな……」
「お前が持ってるより俺が有効活用した方がいいだろ?それとその腕、リスティを庇って怪我したらしいが……ほら、言ってやれよ」
まさかとリスティを見ると、こちらを見るその目に僕に対する感情は無かった。
道端の石を見るかの如く、興味のない瞳。
「あの時の魔獣、実は私が魅了スキルでわざと襲わせたの。だってそうしないとニースは無駄に魔力使っちゃうじゃない?全てはバディア様の為よ」
何か言葉を発する前に僕の身体は動いていた。
「おい、俺の女に何してやがる?」
「あ、がっ!?」
振り上げた剣はバディアの蒼炎にまるで氷の様に溶かされてしまう。
「次に俺の前に顔出してみろ、今度はお前があの剣になる番だ。心配するな、お前の名は英雄を名乗った偽物として語り継ぐ……真の英雄には偽物が必要だからな!」
裏切られた、騙された。
幼馴染だから、魔王を倒す仲間だから。
少しでも信用した僕が馬鹿だった。
「お前の魔力は俺の魔力なんだよ、空っぽの無能」
そうして僕は……大切なものを失った。
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