第九話 逆ギレ?
「で、どう?私のメイドをやってみない?」
ニヤつきながら、俺に提案をするミメレル。
「おいおい、大勇者がメイドをするなど聞いたこともないぞ。失礼だろう。大勇者メルロンディアよ、すまなかった。私が代わりに詫びよう」
建前上は同格とはいえ、実質的には命令する側である主上がミメレルにあまり強く言えない。
それがミメレルの持つ圧倒的な実力を示していた。
「……いえ、主上が謝るには及びません。ミメレル様のメイドになりましょう」
「あら、話がわかるわね。どこぞの大貴族の生意気な小娘かと思ったら、案外偉物じゃない。……なら、戦ってあげるわ。圧倒的な実力差に絶望したとしても、メイドはちゃんとやってもらうわよ」
「じゃあ、ルールの確認ね。まず、武器は何を使っても良い。まあ、私はアレを使わないと思うけど。で、審判はエインファが務めるものとする、その判定に不服はいわないこと。勝利条件は、相手が戦闘不能になるか、負けを認めるまでね」
「従魔は使って良いのですか?」
「あぁ、この前従えたっていうあの魔族ね。いいんじゃない?年に一回の御前大会でも許可されてるし」
「なら、問題はないです」
レレンメガルドを召喚して、ルーティンを行う。
余計な思考がなくなり、研ぎ澄まされていくような感覚が、とても気持ち良い。
ミメレルにはルーティンは必要ないらしい。
ごく普通のロングソードをストレージから召喚して、めんどくさそうに立っている。
……ストレージから召喚する際の挙動に無駄がない。
この世界においてはまずストレージを呼び出すために詠唱が必要だ。この世界に来てからそれがわかった。
そして、誰だろうがストレージのメニューを操作するという工程が必要なのだ。
呼び出すための祝詞は個人によって異なる。
どんな達人だろうが多少長めになる。俺の詠唱は短いほうだ。
しかし、ミメレルは「来い」、の一言で、ストレージの操作も必要なしに召喚に成功させている。
……これが、主人公、造物主、邪剣聖と並んで最強と呼ばれる後の聖勇者、勇剣のミメレルか。
この世界においてはCPU特有のおバカ行動はなさそうだ。
なので、今の俺で勝てるかどうかはわからない。
おバカ行動さえあればもっと弱くても勝てるんだがな。
「……始め!」
主上の号令と同時に踏み込み、俺はスキルを繰り出した!
「『星連激冥突』!」
槍術系のスキルで覚えられる中でとにかく便利なスキルを繰り出す。
スキルスキル言っているが、スキルには大きく分けて二種類があり、系統スキルと呼ばれる、その分野における腕前の段階を示す『スキル』と、必殺技や魔法、特殊な技術のような『スキル』があるから紛らわしいかもしれない。
まあとにかく、このスキルはとにかく隙が少ない。そしてこの手の技にしてはかなり威力が高い。
そしてMPの消費がたったの2という破格の性能。
槍術系の最上ランクスキル、その中でも後半に取得することになるスキルだ。
当然強力で当たり前なのだが、この手の終盤スキルの中でもとにかく優れているので便利使いしていた。
……しかし。
「……はぁっ!?アンタって本当に強かったの!?」
ミメレルには普通に避けられたようだ。ありえない!
「なんで、こんな……避けられるはずじゃないのに」
「驚いているところ悪いけど、私のほうがびっくりだわ。こんな強者だとは普通思わないし。……悪いわね、さっき言ったの、やっぱり嘘」
ミメレルは不穏な言葉を言いながら剣を捨て、一瞬で後方に跳躍し、こう呟いた。
「『来い』。」
ミメレルの頭上前方に、神々しさすら感じる純白の剣が現れた。
それは選定の剣に似ていて、でも感じる圧は……。
比べ物にならない。
「これが勇剣、メルディニアス……!」
「あら?こんな見た目だって知ってたの?まあいいわ。じゃあ……いくわ!」
ミメレルが攻撃に転じる。その一瞬一瞬の攻撃は、とにかく重くて速かった。
俺は防戦一方になってしまった。
「『サモン・ヘキナス』」
苦し紛れにヘキナスを召喚する。魔法陣が一瞬で地面に描かれ、その直後にヘキナスの姿が現れた。
「御主殿!なんて場所に召喚したんですかねぇ!?こんな化け物と戦いになるわけないじゃないですか!」
焦った顔もかわいいぞ。しかし、ミメレルへの決定打にはならなそうだな。
一撃で吹き飛ばされそうだ。だが、ヘキナスには戦闘に使える有用スキルがある。
それを掛けてもらうとするか。
「おい、アレを掛けろ」
「はいはい!行きますよぉ!『ロンドザーべ』!……ひぃぃぃぃ!!!」
半ばやけくそになりながら、スキルを掛けてくれた。
そしてその直後に神聖魔法で消し飛ばされた。
一回しか唱えられなかったか……。ここまでミメレルに通用しないと思わなかった。
とりあえず体の慣らし運転ということで勝敗にはこだわっていなかったのもデカかった。
初手で召喚したら良かったな。
従魔はアイテムで生き返させられるからあまり罪悪感を感じずにすむ。
問題はアイテムがわりかし貴重なことだが……最初から結構持ってたから問題なさそうだ。
スキルの効果についてだが、これは単純。
攻、防、速を中上昇というものだ。
職業が魔王な者しか覚えられない『メザンディール』の下位互換、『メザンべヘイン』のさらに下位互換だが、それでも有用性は高い。
この世界ではバフ、デバフ持ちは結構貴重かつ重要なので今後ヘキナスは重宝するだろう。
幽鬼族の最上位しか覚えられないスキルなので自分だと覚えられないし。
他の能力上昇系スキルにしても条件が特殊なのが多いのですぐには無理だ。
とにかく、あとで謝罪と礼を言っておこう。
さあ、ここから反撃だ!
「『魔槍乱舞』!」
威力はかなり低いものの、隙は『星連激冥突』以上に少ない魔槍系のスキルを繰り出す。
その穂先はたしかにミメレルの腹に突き刺さったが、あまりも浅すぎた。
手がジーンと痺れる。硬すぎなんだよ!
「ふ、ふふふ……あははははははは!こんなに強い敵手が人間界に存在するなんて思わなかったわ!褒めてあげる。私、今すっごく心が踊っているの。でも残念、鍛錬が足りないわ」
なんだろう、今の言葉の中に引っかかるものはないはずなのに心の奥がモヤモヤする。
鍛錬が足りない、その言葉が原因だ。
事実だろう。『俺』は鍛錬なんてしたことはないんだから。
別に、モヤモヤする要素なんてない。そんなことを言われてもだから? なんて開きなおれる。
そしてモヤモヤする資格なんてないはずだ。
しかし、そのはずなのに激情のままに叫んでしまった。
「ふざけないで!あなたなんかに何がわかるんですか!?」