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第八話 絶勇者

 あれから数日が経過した。俺のやるべきことと言えば、勇者として必要な心得や道徳教育を受けることくらいだ。

 強さに関しては見せてはいないが、ある程度察しているようだし、急な修行は必要ないと判断されているらしい。

 俺の心根に問題があると判断されたわけではない。


 勇者となったからには、道理を守らなくてはならない。

 そして時にはその道理を破ってでも弱者を守ることが必要だ。

 自分を正義と思ってはならない。自分の正義を疑い続けろ。しかし、あらゆる他者に正義であると認められるような人間であれ。

 そんな精神が求められるらしい。

 まあ、実践している勇者は少ないけどな。

 いつも戦装束を着ろとかってアレも実際にやっている勇者はほとんどいない。


 正義云々の心構えはアイドルに清廉さを求めるような感情に見えるが、これはそういうものだとして割り切った。

 俺の魔族勧誘には眉をひそめる者も多くいるが、敵対者にすら慈悲を差し伸べる理想の勇者と思われている節もある。なので一応許された。

 今のヘキナスは完全に人間の少女にしか見えない。

 俺が命じている仕事の他に、『魔族にしか知られていないが、人間でも扱える』類のスキルの習得方法なども教えているのでそこも加味されたんだろうか。


 辛い世の中でこそ理想の英雄を求める、と言うものだ。

 ダークファンタジーってほどこの世界は荒廃していないが、それでも現代日本と比べたら死の危険がたくさんあるし、群雄割拠の世の中だ。

 まだ人間界……というかこの大陸に攻められない状況にあるが魔王軍という敵対組織もある。

 戦争も日常茶飯事。そりゃあ生きている人たちは辛い。


「……倫理面においては素晴らしいですね。理想的とも言えます。清らかすぎて、いままで生きてこれたのが不思議なくらい……奇跡としか言いようがない」


 教師役の神父さんが褒めてくれた。

 受け答えの解答なんかはちょっとだけ聖人路線に寄せたからな。

 見事に騙されてくれたらしい。

 もちろん俺本人が素晴らしい人格ってわけではない。

 単に表情筋と喋り方が硬いためボロが出ないだけだ。


 行動までは変えられないのでそのうちバレるとは思うが……まあいい。

 反社会性は持っていないし大丈夫だろう。


「私達はあなたの力について、薄々ではありますが気付いております。しかし、正確なところがわからない。なので、他の勇者たちと戦ってほしいのです」


「わかった。問題はない」


 それにしても戦闘かぁ、ゲームと同じようにできるかな?

 イセテン4はVRゲームってわけじゃないから、自分の体で動かしているわけではない。


 少し不安だ。まあ、能力自体はやたらと強いから死にはしないだろう。

 むしろ殺さないように努めなければ。





「なんでこの私が勇者になりたての、しかも、木っ端魔族を寝返らせた程度でいきなり大勇者に成り上がったやつなんかと戦わなければならないのよ……。どうせコネがあるだけでしょう。めんどくさいわ」


「はははは、物は試しと言うものだろう。ちゃんと指導してやってくれよ」


「……は?」


 絶句した。なんでお前が呼び出されたの?

 この練兵場にいるのは俺と主上。

 そして、後の聖勇者……『勇剣のミメレル』だ。

 他にも兵士数十人はいるが、彼らの名前は知らない。


「この子も可哀想に。私と戦う羽目になって絶句してるじゃない。……ねぇ、今からでもいいから帰っていいでしょ?可哀想よ」


 ミメレルは好き嫌いが激しい上に非常に面倒くさがりだ。なので今も理由をつけて家に帰ろうとしている。

 勇者なんて普段はニートだ。

 たまに儀式に出たり、強力な魔物を倒したり、国家防衛戦に参加したりはするけど、人間同士の侵略戦争には手を貸さない。

 半分動物みたいなものだから『聖気』に容認されている魔物と違って、魔族はこの大陸にやってこれないので、ぶっちゃけ何もしなくてもいい日が多い。


 とはいえ、これはちょっと酷い。本当にニートみたいなもんじゃん。


 燃え上がるような真っ赤な髪をポニーテールにしていて、意志の強そうなこれまた真っ赤なツリ目も可愛らしい。

 目鼻立ちはくっきりしてて身長も女性にしては少し高めな少女。

 のちの聖勇者とだけあってかなりの美人だ。

 正装やゲーム中で着ていた衣装は、銀色で西洋風、そして華美な、姫騎士って感じの鎧だった。

 でも今着ているのは、日本でも通用しそうなくらい現代的で女の子らしい服装だった。


 多分、用意されたものを着たのだろう。面倒くさがりだから普段はジャージでも着ていそうだ。


「ははは、流石に勝負にはならんだろうが、君との戦いは大勇者メルロンディアにとって、糧となることは間違いないだろう。頼む、戦ってやってくれ」


「えー……やだなぁ。……ふむ、ちょっと待って。この子がしばらく私の身の回りの世話をしてくれるならいいわよ。ねぇ、メイドになってよ」


 思わぬ提案をされた。なんで俺?別に身の回りの世話なんて誰がやってもいいだろ。


「……なぜですか?私は女性の世話などしたことがありません。使用人にやらせたほうが良いのでは?」


「なぜって?そりゃあ、あんたがかわいいからよ」


 絶句した。ミメレルって本当は百合な人だったのか?

 いや、自キャラはどんなキャラとでも結婚可能なので同性結婚できる対象ではあったけども。

 思わず自分の体を抱きしめてしまう。


「そんな身構えないでよ。安心しなさい、そっちの趣味もないから。男だろうが女だろうが、恋愛対象には見てないわ」

 

 ほっと一安心。思わず胸をなでおろす。

 ……って、なんで俺はこんな女の子らしい反応をしているんだ。

 

 そういう展開でも普通にアリだろ!


「……ではなぜかわいいから、などという理由で選んだのですか?」


「そりゃあ、目の保養になるからじゃない。恋愛対象にはならなくとも美形は見ていると癒やされるしね。最近、住み込みで働いていたメイドも寿退社でやめちゃったしちょうどいいかなぁと。あと、特に理由はないんだけど男はちょっと生理的に無理だから、女の子がいいというのもあるわ」


 男は生理的に無理なんての初めて知ったぞ。

 ゲーム中では男主人公でも結婚可能だったし。

 裏設定か?そういうのがあるのか?単に描写されなかっただけか?


 まあいいや。そのくらいの条件なら良いだろう。

 手合わせを願いたいというよりはスキルの師匠になってもらいたい。


 ミメレルは本当にありえんほど強い。

 洗礼を受け、聖勇者になってからは特に顕著だが、今の時点でもレベル、ステータス、スキルの数、そして質が高すぎる。

 俺が持っていない中では勇者系、神聖系、礼法、そして剣技系、弓術系が全部最大レベルだ。


 ゲームでも米売買を済ませたら贈り物をしまくって仲良くなり、そしていろんなスキルを教えてもらうのが定石だった。

 俺もそれに倣おうと思う。

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