第六話 今後とも
「では……そうですねぇ……、魔石を1個、頂けませんかねぇ」
「ああ、いいぞ」
交渉が始まって3分くらい経った頃には、状態異常が勝手に解けていたようなのでストレージから魔石を取り出して投げ渡した。
普通なら近衛兵士あたりがもう一回かけて延長するんだろうが、今回は大丈夫だったようだ。
武具以外のアイテム面でも恵まれていてよかった。
一通り必要なものは揃ってるんだもんな。
でも、ストレージを取り出す際の恥ずかしい詠唱を聞かれてすこし、いや、かなり辛い。
反応が薄いのが唯一の救いだ。
頑張れ俺、ここを乗り切れば羞恥なんてなくなるから!
「う〜ん、まだ足りませんねぇ……では、あなたの魔力を少量で良いのでもらえませんかねぇ?」
当然了承した。
ヘキナスは杖を取り出して俺に向ける。
ほどなくして……若干の虚脱感。なるほど、これが魔力を吸われるという感覚か。
「良質な魔力ですねぇ……素晴らしい!」
よっしゃ、クリティカルが出たな。
よし、勝った。
「では最後に……我は大魔族ヘキナス。御主の影となりて、あらゆる災いを腐り落とそう」
あ、こういう真面目なセリフも言えたんだな。
少し小物臭い口調に慣れてたから新鮮。
なんて思ってたらヘキナスの気配を強く感じるようになった。
多分、これで契約成立だろう。
「よろしく」
「よろしくお願いしますねぇ、御主殿、くひひひっ」
……あれ?なんかおかしくないか?ヘキナスの声が美少女のそれに聞こえるんだけど?
さっきまではねっとりとした喋り方で声の高い男のように聞こえてたのに。
ヘキナスの見た目をもう一度確認する。
骸骨だよな?骸骨だよな?……綺麗な伸ばした黒髪、病的に肌が白い、いかにも貴族っぽい服装をした、狂気的な笑みを浮かべた超のつくほどの美少女がヘキナスのいた場所には立っていた。
「おい、これはどうなっている」
「いやぁ……魔族という存在の容姿は、元来持っている性質11%と主の性質78%、運次第11%で決まるようでして……すみませんねぇ。それはわかっていたのですが、私もびっくりでして……」
なんじゃその性質!本人ですらあの妙な笑い声を忘れているくらいのショック。
相変わらず狂気的な笑みを浮かべているように見えるが、契約でつながっている俺にはわかる。こんなことがあるのか?とビビってる。
「貴殿は男ではなかったのか?」
「幽鬼系の魔族には性別なんてありませんよ。そういうものは自分で勝手に決めるものです。まあ、それでも相当な驚きはありますがねぇ…。今、肉体は完全に女性のそれになってますし。……見ます?」
「見せるな。主上の前だ。魔族で従者であるとは言え、貴殿は陪臣のような扱いになるのだから、気は使ってくれ」
「くひひひっ、承知しました。しかし、その貴殿というのはどうにもいただけない。これからは主従なのですから、命令口調で良いのです。魔族は強い者、あるいは恩のある者には従順ですが、そうでないものには……。ですので、立場をわからせるためにも必要でございますよ。跳ねっかえりは実力がわからないですからね」
なるほど、そういうのがあったな。めちゃくちゃ分厚い、複数巻に別れた、俺でも読みきれてない設定資料集にも書かれていた。
作中でもちょくちょくその設定は出てきたし魔族間では常識なんだろう。
「なるほど、理解した。しかし、お前は私の実力など知らないだろう?つまりそれは、自分は簡単に裏切ると言っているようなものではないのか」
「これは手厳しい。ですが私は異端でしてね、私を満足させてくれる仕事を与えてくれる限りは裏切りませんよ。それに、パスを繋がって溢れ出すこの濃密な魔力!異質さ!こんな傑物から裏切るなんて怖くて怖くてとても……。あの魔王を裏切った私ですら怖いと思うくらいですからねぇ……。やはり私も魔族ということでしょうか、思わず傅きたくなる。きひひひっ」
「ならば良い。励めよ……」
とりあえずしたい話は終わったので、モンスターストック枠に還送した。
「契約は終わったようだな」
「主上……。独断で契約に及んだこと、申し訳なく……」
主上が出てきたのでとりあえず謝ったが許されることはわかりきっている。
役に立つなら、飲み込める類の危険性なら、大丈夫だ。
だからこんな暴挙に及んだ。
身分が遥か上の人物への不敬を働いた罪悪感は当然あるし、許されるだろうとわかっていてもヒヤヒヤものだがそれを無視しても救いたかった。
美少女になったのは少し複雑だが、よく考えると気持ち悪い笑い方をする人骨の魔族より、危険なところのある美少女のほうが当然嬉しいから許す。
中身がヘキナスであることは変わらないのだし。
「此度の功績、まことに素晴らしい。これほどの魔族を従えたのだ、この国にとって、人類にとってさらなる飛躍となるだろう。お主を『勇者見習い』から『大勇者』へと昇進させよう」
勇者見習いとは、勇者系職業において最低ランクの地位のことだ。
功績を上げることにより勇者見習い、勇者、大勇者、絶勇者、星勇者、聖勇者と徐々にランクアップしていく。
三つ目の地位なので大したことないんじゃ?と思うかもしれないが、勇者見習いという時点でこの世界では相当尊敬される。
今の世界に絶勇者なんて2人しかいないし、星勇者と聖勇者に至っては一人もいない。
大勇者というだけで軽く信仰を集める程度には地位が高い。
絶勇者の二人……後の星勇者ロウと聖勇者ミメレルの二人なんて、今の時点で宗教家からは教皇と同格扱いを受けている。
つまり、『神聖神法典』の教皇でもある主上と教義の上では、というか建前の上では同格であるということだ。
つまりいきなり大勇者になった俺は相当やべーやつということになる。
ゲームではせいぜい昇進のために必要な功績ポイントが結構貯まる程度の扱いだったんだがなぁ。
「はっ……有り難き幸せにございます」
ともかくとして、いきなり大出世を果たしてしまった。