第三話 選定の剣
というわけで、選定の剣を引き抜きにやってまいりました。
こちら、勇者の墓となっております。
「おぉ〜、いかにも強そうなマッチョメン、君もこの剣を引き抜きに来たのかい?」
「へへっ、俺様にかかればこれくらいちょちょいのちょいよ!」
墓とは言っても、ぶっちゃけほとんどイベント会場だ。
人がごった返している。
ここはかつての勇者が使っていた剣のレプリカが墓石に刺さっており、それを引き抜けたら勇者になれる、みたいな施設なのだが、墓石に刺さっているのを引っこ抜くって道徳的にヤバくないか?
ゲーム時代は特に気にすることなかったけど、かなり罰当たりなことしてるんじゃ……。
まあ、ここまで来たからには引き抜くんだけどね。
「くそっ、抜けねぇ〜〜〜!!!!」
「はい、残念だったね。じゃあ次の……そこの貴族のお嬢さん、引き抜いてみる?……ってか、凄い美人だね〜。……こんな美人さん、本気で見たことないよ」
「ああ。だがお世辞は要らない」
あれ?俺は「いえいえそんな、お願いします」って喋ったはずなのに……。
肉体はメルロンがベースだから口調に補正がかかるのか?
……謎が多いな。俺の人格は遊佐明ベースってだけで、メルロンの人格も混じっているのかもしれない。
とりあえずわかるのは、メルロンのロリボイスは脳を溶かすということだ。俺の脳は溶けている。
ともかく、選定の剣を引き抜く条件はこれだ。
まず一つ目は、レベルキャップが50以上であること。
一般人が頑張りまくってもレベル30までしか上がらないけど、英雄になる資質があるやつはレベル70まで上がるとかそういうやつだ。
俺の場合、最悪の想定があたったとしても70まではあがるはずだ。
そして、本命の予想だと130までは上がる。
造物主……エピローグで殺されたやつと同等だな。
『聖勇者』や『邪剣聖』も同じだ。
だから第一関門はクリア。
さて二つ目。これは出自のランクがB以上のものであること、だ。
高貴であれば、希少であればいいというわけではなく、ゲーム特有のランク振りをされている。
例えば男爵はNGで、身分的にはその下である騎士爵はOK、みたいな……正直、俺もよくわかっていない。
まあ、これも公爵令嬢だからクリアだな。
公爵令嬢はランクAだしな。
三番目に高い。
そして最後となる三つ目、一定以上の犯罪歴がある者以外。
窃盗や路上露出くらいなら許されて、強姦、麻薬密造なんかは一発アウトだ。
窃盗みたいなのでも回数を重ねすぎてるとアウト判定になる。
でも、場合と状況によってはオーケーだったりもする。
殺人は構わんらしい。造物主様はご寛大だね。
でも強盗はNGと。基準がわからんかもしれないが、これに関しては真っ当な理由がある。
まあ、ゲームでは強姦の罪に抵触することはありえないのでそれに関しては関係なかった。
だって15歳以上対象のゲームだし。18禁ではないのだ。
よって俺は全部クリア。
以上のことを脳内で高速思考しながら、両手でゆっくりと剣を引き抜く。
そして最後に片手で天に掲げる。
よし、決まった。
「お、おおおおおお!!!!素晴らしい!まさか3ヶ月以内に二人も勇者様が現れるとは!」
会場が湧きに湧く。
勇者なんてめったに出るもんじゃないしね。
その3ヶ月前の勇者ってのは『狂獣ミロウ』だろうな。
あいつもいいやつなんだけどな。無口だからな〜。
誤解されやすいんだよ、あいつ。
「あの子すげぇな……」
「多分、あの装備相当な値打ちもんだ。大貴族でもそうは買えないようなものだと思う。そしてなによりあの可愛さだよ!まだガキだし態度は悪ィけどさぁ……あー、ああいう嫁が欲しいぜ」
「馬鹿いえ。ああいうのは遠くから眺めとくのが一番だ。あんまりにも美人過ぎておっかねぇっつの」
「正直私、あの子ならイケる。嫁にしてほしい。いや、むしろ嫁にしたい」
「あっ……アンタそっち系だったの?……じゃあね」
「アタシみたいなのでも目覚めそうになったわ。いや〜本当におっかないね〜」
なんというか、見た目に対する感想が多すぎる気がするが仕方ない。
呪いとまで称されるレベルだからな。
このくらいなら、むしろ想定していたより圧倒的にマシな反応だ。
まあ、なんにせよ見た目を隠したりはしない。
せっかく気合入れて作った見た目だ。この容姿を愛しているのだ。多くの人に見てほしい。
「とりあえず今日はお開きだぜぇ〜。じゃあまた明日、来てくれよな〜」
司会みたいな人が終幕宣言をした。
しかし、こんな大事な儀式をこんなに軽いノリでやっていいんだろうか?
かつての勇者が泣いてるぞ。
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