第二十一話 鼻っ面あかしてやる
「凄いんですよ父上!キルヒフィードさんは盗賊たちを目にも止まらぬ早業で……」
「そ、そうか……。だが、お前ももうじき一人前になるのだ。客人の前で私に対して父上などと狎れてはならないぞ」
メルロンディアはよくわからないうちに二人の家に招待された。
実は二人は実の姉弟で、その上に婚約者でもあるというよくわからないことになっているらしい。
この世界では兄妹、姉弟の婚姻は珍しいもののとくに驚くことでもない。
さらに珍しい例で言えば、兄弟や姉妹での例もあるというのだから驚きだ。
「(ハプスブルク家みたいなもんなのか?まあ、聞く範囲ではあるけどこの世界では夫婦間に血縁関係があることで血が濃くなりすぎて大変なことになる……みたいな例はないみたいだから問題ないのかな?)」
それに中世の婚姻なんて家同士の結びつきを強めるという側面が大きい。
「(だけど本当に大丈夫なのか……?いやいや、この世界特有の常識だとして、それを否定するのは平安時代に行われた偉業を現代の倫理観で批判するようなものなのかもしれない……やめとこう)」
思考を切り替えて、元の世界の常識で語ってはならないのかもしれない、と思い直す。
ちなみに、あの時馬車に乗っていたのは二人とメルロンディアだけではない。
護衛も存在していた。
ただ、メルロンディアの基準ではあのとき殺した盗賊は『ただの雑魚』だが、一般的な基準ではそこそこの強者だった。
そして、この家の持つ護衛兵士なんてのは大した腕ではなく、レグモとモールのほうがまだ強かったため勘定に入れてなかったというわけだ。
彼らが戦闘に参加しても結果は変わらなかっただろう。
モールが戦闘に参加していれば変わっていたであろうが。
「それにしても、大勇者様がこのような田舎の領地にやってきてくださるとは……本当にありがたいことです」
「本当、あなたがいなかったら今頃俺たちはどうなっていたことか……」
「レグモくん!こんな女にデレデレしないでください!レグモくんの婚約者は私でしょう?」
「あ、あははは……(この修羅場から一抜けして、さっさと必要なスキルを身に着けたいなぁ……)」
しかし、メルロンディアのその願望は叶わないようであった。
「そうだ、キルヒフィードさん。しばらくうちに滞在してくださいよ。客将扱いで多額の給料も払いますよ」
「レグモ!流石にそれは……。いや、意外といい案だな……。大勇者様、心して聞いてほしいことがあるのです」
面倒ごとの匂いがすると思いつつ、聞かない選択肢はないので素直に聞く体制に入った。
「この地では、300年に一度モンスターの大氾濫……スタンピードが起こるのです」
300年に一度。きっかり300年。魔物がこの地を蹂躙する。
その魔物は軍勢であり、またその親玉は異常なほどに強い。
街一つを食い荒らしてそのうち死ぬ。
討伐されるでもなく、餓死して。
なぜだかわからないが、その魔物たちはこの周辺に固執していて出ていこうとしない。
そして、考えなしに物を食い尽くした挙げ句に餓死をする。
国は動かない。その話を眉唾ものだと思っているから。
そして、異変に気づき駆けつけた頃にはこの地は壊滅していて魔物は餓死している。
この地に住まう住民も信じないし、領主一家もその良心故に自分たちだけ逃げることは出来ない。
つまりは詰みだった。
そんな状況に現れたではないか。ありえないほど強い人間が。
そう、キルヒフィード・メルロンディアだ。
「大体はわかりました。では、その魔物たちを殺し尽くせと」
「流石にそこまでは言いません。やつらの親玉は異常なほど強いらしいですからね。ただ、この二人に稽古をつけてやってくれませんか?」
「稽古?」
「はい、一矢報いるくらいはしてやりたい。生き残るかもしれない住民に、華々しく散ったよと伝えてもらいたいじゃないですか」
「……なるほど、了解しました。あなたには稽古をつけなくて良いのですか?」
「とんでもない!私は運動神経も魔法も微妙なのですよ。今更鍛えたってどうにもなりません。まあ、共に戦いはしますがね」
「わかりました。ではその話、お受けいたしましょう」
こんなことを言っているが、メルロンディア的には自分一人で全部の魔物を殺し尽くすつもりでいる。
実力的には全く問題ないし、これは序盤シナリオの名声稼ぎイベントとしてそれなりにおいしいことを思い出したし、なにより彼らに死なれても目覚めが悪いからだ。
「ちょっと父様!こんな女に頼らなくても私達だけでどうにかなります!」
「……あー、君がなぜ私を目の敵にしているかはわかっているつもりだ。だけど、君の大切な人を盗むつもりはないから安心してくれ。第一、私は男性に興味はない。それに、私にも大切な人がいるし」
「口だけではなんとでも言えます!その鼻っ面あかしてみせますからね!」
「あはは……(ははは、なんだこのクソガキ。一応命の恩人だよね、俺?スーパースパルタコースで行こっと。ついでにこの子の気持ちに気づいてやれない弟くんのほうにも、な)」
ともあれ、辺境の貴族家……アーソデ家に滞在することになったのであった。




