第二十話 千年寝太郎
「(よくよく考えれば馬車なんて乗る必要なかったな……)」
意気揚々と王都を出ようと馬車に乗ったメルロンディアだったが、よく考えたらそんなことをする必要はなかった。
だって、今の体ならば歩いたほうが断然早いし楽なのだから。
「(おまけになんかめっちゃ見られてるし……)」
メルロンディアが乗っている馬車は相乗りで、彼女の他に同年代の少年と少女が乗っていた。
少年が彼女に向ける目線はまさに、恋情といった感じのもので……。
逆に、少女が彼女に向ける目線はいかにもライバル視しているような目線だった。
「(人の恋路を邪魔するやつは馬で蹴って殺してやるみたいなことわざがあったけど、そういうつもりはないんだよな……。第一、俺は女の子にしか興味ないし)」
ただ、少年・少女ともに度の超えた美形ではあった。
そんな二人にこのような視線を向けられること自体には満足していた。
前世ではフツメンだったわけだし。
能力的にはほんの、ごく少し劣っていた可能性はあるが、顔面レベルは普通。
良くも悪くもない。
なので、特徴のある外見に生まれ変われたことには割と感謝している。
できればイケメンになりたかったとも思うが、今は女性であることに不愉快も不便も感じていないので問題はない。
それに女の子と付き合ってもなんの文句も言われないわけだし。
せいぜいが変人扱い。そして変人だと嫌う人もそう多くない。
「(万事において問題なし。俺は楽しく生きられている)」
そんなことを考えながら、馬車に揺られて一眠りした。
「はっはー!殺されたくなけりゃ、荷物を置いてさっさと出ていくんだな!」
揺られて数日の夕方頃、馬車の前に粗暴な男たちの集団が現れた。
盗賊団だ。
「(うるさいなぁ、せっかく気持ちよく寝てたのに……)」
メルロンディアは珍しくイライラしていた。
快眠を妨げられたこともそうだが、ミメレルと何日もあっていないことに起因するものがおおきい。
元・現代日本人が馬車で快適に寝られるわけ無いだろうと思うかもしれないが、肉体が優れすぎているので一切問題はなかった。
「怖いよ、レグモくん……」
「大丈夫だ、モール。俺が守ってやる」
件の男女がラブロマンス的なことを言い合っているが、その肩は震えていた。
メルロンディアから見ても、レグモ一人ではこの盗賊団は倒せないだろうと思ってしまう。
「(でも、モールとかいう子も手を貸せば倒せそうなんだよな……実力は同等くらいだろうに。あんまり寄りかかってやるなよ。一緒に戦えばいいのに)」
そんなことを思っても、一般的な女性が盗賊の如き男に立ち向かえるわけがない。
しかし、この世界に来てから今まで、自分より強い相手に相対することへの不安は感じたことのないメルロンディアにはわからない。
これは『遊佐明』がそうさせるのではなく、『キルヒフィード・メルロンディア』がそうさせるのだろう。
「おっ、ガキだが上物がいたぞ。オスガキのほうも美形だから変態に売れそうだな」
「ひっ!」
モールが悲鳴を上げてレグモの体に寄りかかる。
その様を見て、この年の女の子があんまり長く心理的に追い詰められる状況に置かれるのもいろいろと問題だな、と思い直し、メルロンディアが馬車から飛び降りる。
「流石に見ていられんな。ここは私が戦おう」
「んだぁ?おい、なんだよこいつ。……おかしら」
「……こんな美人がこの世に存在していいのか?まあガキだが……問題はねぇな。よし、こいつは商品にはしねぇ。俺の戦利品にする。お前らにも手ェ出さしゃしねぇ。でもその代わり、そこのガキ共で楽しませてやらァ」
その盗賊たちの下卑た視線に、しかし動じない。
ただ、汚らしいなとは思う。そして、俺も元の体のままこの世界に来ていたらコイツラのようになっていた可能性もあるのだろうか、とまで考えて首を振る。
「(こいつらに同情しちゃ駄目だな。でもこのまま考え続けたら絶対しちゃうから、さっさと殺そう。俺は心が弱いんだ。躊躇っちゃだめだ。コイツラを野放しにしたら、もっと被害者が出る。コイツラのような人間を増やす気か?俺は。……うん、殺そう)『来たれ、炎の御霊より注がれし微風よ』」
槍を召喚して、いつものルーティンを行う。
ただし、レレンメガルドではなく十文字槍(価値3)でだ。
「こいつ……いつの間にか槍を召喚しやがった……」
神聖系を習ったことで、祝詞の圧縮をできるようになった。
また、その際に祝詞の文章も一部変更している。
神聖言語による圧縮だと、文字数は大して影響がないというのは言い訳で、単にかっこいいから厨二病的な文言を使っている。
「さっさとおっ死ね。鳥足錬」
「は……?」
目にも止まらぬ早業で盗賊団全員を一瞬で殺し尽くした。
首魁以外は、自分が死んだことも認識できずに死んでいった。
これはメルロンディアの「死ぬのなら苦しまずに死にたいなぁ」という願望の現れでもある。
首魁に対してはちょっと苦しませてしまったのは、下卑た目で見られるのが不快だったからだろう。
今はミメレルだけのものなのに、こんなやつに汚されたくはない。というのは移り気な人間にとっては言い訳にならないか。
盗賊たちはひとり残さず埋葬してやった。
御者の人に変人扱いされたが、それ以上に少しでも自分を重ね、同情した人間を殺したことにメルロンディアの心はどんよりと沈んでいた。
これは優しさというより傲慢さだろう。
『遊佐明』だったら、同情しても引きづることはなかっただろう。自分ではどうにもならないことだったから。
だが、今の肉体はかつて神魔王となった、半分この世の理から外れた半上位存在とも言うべき生物のものだ。
支配者の愛。否、愛というより慈悲、そして義務。
それらを完璧に果たした自分だからこそ、コイツラまで救える気分でいたのかもしれない。
「(今の私はただの大勇者、キルヒフィード・メルロンディアだ。神魔王などというたいそれたものではない)」
あえて、『俺』ではなく『私』という語を使い、心を休める。
心がつかれたときは寝ればいい。
メルロンディアは一日中、また眠った。
起きたときには感傷などはきれいさっぱり消え去っていた。
新キャラの二人は弟子枠です。
敬愛されたりはしますが、ヒロインにはなりません。




