第十五話 ひぇ〜
「……どれをあげたら喜んでくれるのだろうか」
魔道具を売っている、いかにも高級そうな店の中で一人悩む。
思えば誰かにプレゼントを上げたことなんて、『あいつ』が誕生日に毎年のようにプレゼントをねだってくるから適当なもん寄こしていたくらいかな。
恋人というわけでもなく、ただの小さい頃からの親友だったのに、あいつは人の家に上がりこんで「え〜?私にプレゼントないとかおかしいじゃ〜ん。ほら、私達の仲じゃん?」なんてことをよく言えたもんだな。
見た目はやたらと良いし、性格も割と好ましいんだから、俺みたいなのとつるんでないでさっさと彼氏でも見つけてりゃ良かったんだ。
まあ、それはそれで寂しい気もする。
俺とあいつの間では小さい頃からの付き合いでそういう恋愛的な意識が限りなく薄いだろう。
悪友的な感じでもあったし。
それでも、かわいいにはかわいいし他の男に取られると思ったらそりゃ惜しいさ。
俺も男だし……いや、男だったし。当時は。
でも、あいつが本命だと勘違いされて彼女に振られたとかそういう体験がある以上口が避けても言えないな。
ともかく、今はミメレルへのプレゼントだ。
イセテンにおいては、価値の低いアイテムを大量に購入することによって店主の好感度が上がり、秘蔵の品などを見せてもらえるようになる。
身分の低い人に対してはそこらの量産品でも高級品だったらよろこんでくれるんだけど、『絶勇者』は量産品だったら最高クラスのものしかそもそも送れない。
そしてミメレルの『欲望』は『普通』なので、『清貧』ほど上がりにくいわけではないが、『強欲』のようにプレゼント一発でめちゃくちゃ好感度が上がるわけでもない。
できるだけ早く上げるためには一品物……後世において国宝とかになるレベルのものをプレゼントしないといけないだろう。
というわけで、とりあえず気になったものを片っ端から買ってくか。
「これとあれと、あとここらへんのをすべて売ってほしい」
「え、は、はぁ……?ご冗談でございますよね?」
冴えない系を自称するラノベ主人公みたいな顔をした店員さんが、よくわからないボケをかまされたみたいな顔をして問いかける。
いや、あの、ごめん。本当なんですよ。
「いや、冗談ではない。金なら……このくらいはある」
小さく詠唱をつぶやいて、レジストリから金を無造作に取り出した。
店員さんの目が驚愕に剝かれる。
「ひぇ〜!?……これは、申し訳ないことを致しました。いますぐ店長をお呼びしますので、しばしお待ちを!」
その間、応接室で待つことになった。
「どうもお待たせしましたねぇ。へっへっへ……。私はミドロク・オーボと申すものでございます。あ、この飴舐めます?美味しいですよ」
ミドロクと名乗った老紳士はなんだか高そうな包装をされた飴を懐から取り出し、ニコニコしながら俺に手渡した。
遠慮するのもなにか変だな。毒は魔法でどうとでもなるし、違法な薬物みたいなのはそもそもステータスが優れすぎていて効かない。
否。毒もステータスのおかげで無効化できるし、そもそも効いたところでこの世界の毒は、知っている限りだと自分レベルの強者にはまず通用しないな。
でもこういう場面で疑っちゃうのは性格悪いんだろうな。
最初からメルロン(いまのおれ)のようにいくらでも価値のある人間として生きてきたのなら言い訳も立つが、平和な世界で育った遊佐明としての記憶が大半を占めているのに疑うなんて……。
少し自己嫌悪。
まあ、そんなもんをしていてもなんにもならないので遠慮なくいただくことにした。
言われたとおり、とても美味しい。シュワシュワしている。
ちょっと高めの炭酸飴的な美味しさだ。
うん、とても美味しい。ハマりそう。
実際のところ前世の俺は飴なんてあんまり舐めなかったから、本当にちょっと高めの炭酸飴がこれくらいの美味さなのかはわからない。
「とても美味しいです。幸せな気分になります」
「そうですかそうですか、それは嬉しいです。……へっへっへ」
「へっへっへ」なんて笑ってはいるが、言い方が胡散臭くないんだよな。
どこか上品だ。
まあ、こんな王都の一等地に店を構えている以上、上品なだけじゃないんだろうけど。
俺みたいな一般人じゃ想像もつかないくらい頭は良いだろうし、海千山千の老獪な交渉とかしてくるかもしれない。
ただ、金ならあるからゲームでの相場を大きく超えてなければどうとでもなる部分はある。
どーんといこうや。
「……で、なぜ私をこのような場所に呼び出したのですか?」
俺の貧弱な思考回路では及びもつかないが、呼び出したからには当然、理由はあるだろう。
それがなにか……単刀直入に聞いてみた。
「へっへっへ、いや、私はあなたの情報を多少掴んでおり、接触しようと思っておったのですが……私の店に来てくださったので、これはいい機会だなと思いましてね」
「……つまり、私が勇者であるということは知っているということですか」
俺の言葉に対して出されたそれは、驚愕に値するもので……。
「いえいえ、それだけではないでしょう?……ズバリ、あなたは異世界転移者でございましょう」
主上やミメレルですら気づかなかった事実を、速攻で見抜かれてしまった。




