第十四話 成敗
ミメレルに負けてから一ヶ月くらいが経った。
俺は仕事のやり方を教わりつつ、なんとかこなせるようになっていった。
体が優秀だからか、早くもだいぶ板についてきた。
やり方を教えるのはなぜか嫌がらないんだよな、この子。
前に言っていたように、使用人を育成するのは好きで苦にならないなのだろう。
ちなみに合間合間にスキルを教えてくれと頼んでみた。
でも『めんどくさい。そういうの柄じゃないしやりたくないわ』と断られた。
隠しパラメータの『積極性』が『消極的』、『精神』が『ダウナー』、『義理』が『不義理』なので、好感度が高めでも断られるのだ。
態度から察するに今の好感度は40(仲が良い)〜60(だいぶ仲が良い)くらいだろうが、ミメレルから教わるには90(永遠の友情)が必要となる。
国から払われる大勇者としての賃金に加えて、メイドとして働いているぶんの給料もミメレルから貰っているから文句は言えない。
そもそも、あの場で一回戦うかどうかが条件だったわけで、その後に教えたりするのは契約の範疇に入ってない。
それに、メイドとしての給料が凄まじく高給だ。
大勇者としてのそれより断然高い。
お金にズボラすぎて心配になるほどだ。
そんな好条件ではあるが、正直スキルを上げたいという欲求のほうが大きい。
というわけで、休暇時間にミメレルへの贈り物を買いに街に出てきた。
無論、好感度稼ぎのためである。
……でも、どういうのをあげれば喜ぶんだろう。
ゲーム中では武具が好きな人なら武具の、芸術品が好きな人なら芸術品の、他のものなら他の、それぞれ価値が高いものをプレゼントしたらめちゃくちゃ喜んでくれて好感度がアップした。
でも、現実だとそうはならなそうだ。
芸術品1つとっても、油絵が好きな人と写実画が好きな人では全然好みが違うだろう。
そこらへんの判断は、ゲームで書かれているだけの情報ではわからなかった。
ミメレルが好きな大まかなジャンルは『魔道具』だ。
大まかに分けて二つ、温泉にあったシャワーのように機械のような機能を持つ魔道具、中に刻印されている魔法を使えるようになる魔道具がある。
まず、ミメレルが好きなのはどっちなんだ?というところから始まって、その中でもどういうものが好きなの?となる。
「……わからんな」
頭の中でアレコレと悩みながら歩く。
幸い、今の俺の脳はマルチタスクや高速思考を、通常の思考と比べてパフォーマンスをほぼ落とすことなく行えるので、考え事に熱中していても他人にぶつかることはない。
前世の俺の頭の出来はごく普通かちょっと微妙レベルだったのでありがたい。
……故に、俺に近づいてくる輩がいるのもわかっていた。
「なぁ、君は一人かい?」
「そうだったら、俺らと遊ばねぇか?」
勘違いホストみたいな見た目の金髪雰囲気イケメンと、少しだけガラが悪そうな男が俺に声をかけてきた。
両者ともに16歳くらいで、これはおそらく……。
「良くわからないのだが、これはナンパ……というやつなのか?」
今の服装は戦闘用のあのドレスではない。
この世界の庶民にしてはちょっと豪華な生地やデザインの白いワンピースだ。
ミメレルのお下がりらしい。
あのドレスは開き直ってる感があるので恥ずかしくなかったが、こういう現実味があるうえで女の子らしい服というのはなかなかに恥ずかしい。
あのドレスを着ていたら、こいつらも話しかけてこなかったんだろうか。
「ああ、そうさ。僕たちについてくれば楽しいことを教えてあげるよ」
うげぇ、そんなセリフを言われる日が来るとは思わなかった。
正直かなりキッツい。
「失せろ。気持ちが悪い。そういうのは鏡の前でやっているのがお似合いだ」
「な……」
二人揃って絶句している。まあ、こんな見た目の女の子がそんなことを言ったらびっくりするわな。
ただ一つ言いたいのは、ここまで酷いことを言うつもりはなかった。
不快に思ったのは確かだが、こんなに傷つく表現にするつもりはなかった。
言葉の自動変換って不便だな……。
「……いや、流石に言い過ぎた。すまない。だが、そのような行為は謹んだほうが良いぞ」
その場からさっさと立ち去り、魔道具店へ急ごうとしたが……。
「……なんの真似だ」
「ちょっとそれはないんじゃない?」
ニヤニヤとしながらエセホストくん(仮)が俺の手首を掴んできた。
「僕らの胸元につけているバッジ、見えない?」
言われたとおりに見てみると、そこには星型のバッチがつけられていた。
……伯爵だったか侯爵だったかは忘れたが、上位の貴族が身に着けるやつだな。
要するにこいつは親の地位にあぐらをかいて好き放題するようなクソ野郎、ということなんだな。
今までにもやっていたんだろう。
まあ、咎めるつもりはない。俺だってこんな立場に生まれていれば似たようなことはやっていた可能性は高い。
人間の意思なんて簡単に環境に流されるもんだし。
本当に流されない強い意志をもった人間なんて、全人口の何十万分の一だろう。
その本人の持つ背景を無視して、一方的に悪人だとは騒ぎ立てるつもりはない。
予想通り、今までも似たようなことをやっていたのなら憤りは感じるし、身に降りかかる火の粉なので遠慮なく排除させてもらうが。
「で、なにをしろと?」
「いや、そう身構えなくて良いんだよ。ただ、僕に着いてきてくれればそれで……」
「……おい、そりゃ流石に不味いだろ。人してやっちゃいけねぇもんってのはあるんだ」
ガラの悪いほうがエセホストを咎める。
ああ、こっちの方はまともな人間なんだな。
じゃあ、後始末はこいつに任せようかな?
「ふむ、そうなのか。だが気に入らないな」
大勇者と貴族家のバカ息子程度では、立場が違いすぎる。
もちろん、俺のほうが上だ。
なので、ちょっとやりすぎたところで法は許してくれる。
こいつは余罪がありそうなので、それも加味すればむしろちょっとしたヒーローになれるだろう。
この場面もみんなが見てるわけだし。
というわけで、おしおきしちゃいますか。
「……ワーヴェジュモ」
「なんだいそれは?なにか魔法を使ったみたいだけど、弱すぎて…ヒィィぃぃぃいぃぃぃ…!!!!????」
今使ったのは死への恐怖という感情を呼び起こす魔法。
ランクはそんなに高くないが、弱い相手に使う場合はそんなものは飾りだ。
いかにレジストしやすいかとかそういう話でしかないのだし。
で、具体的にどういう種類の死への恐怖かというと、高層建築物から落ち続けるという種類を選んだ。
今、彼の脳内では延々と落ち続けているのだろう。
そして、かかっている間はその感情が麻痺するということはない。
「お前はこいつとは関わりは薄いのだろう?軍にでも突き出しておけ。恐怖から覚めたら勝手に罪の自白でもすると思うぞ」
「こ、こいつになにをしたんだ……?」
「さあ。これに懲りたらナンパ行為などは慎め」
メンツを潰されて腹を立てたエセホストの父親が俺を排除したりなどしても、成功はしない。
俺のほうが立場は上なわけだし、ヘキナスにでもやらかしの証拠を見つけてもらえばどうとでもなる。
そしてその時には、この恐怖を二度と味わうまいと悪行を慎むようになっているだろう。
一件落着!




